Domaine Albert BOXLER 〜伸びやかな、ピュア〜 (Niedermorschwihr 2003.10.31) |
ジャン・マルク・ボクスレー氏。ある雑誌では1973年生まれと紹介されていた。まだまだ若い! |
濃すぎる。
ワインの事ではない。今回のアルザス巡りで訪問が叶った生産者達に対する、同行者のコメントだ。穏やかに見えながら、その皮膚の下に怒りや、怒りを通り越した冷静さを秘めた彼らと向き合った後は、アルザスならではの試飲の多さもあり、言いようのない緊張から解き放たれたような疲労が確かに残るのだ。
その中でドメーヌ・アルベール・ボクスレーの若き現当主、ジャン・マルク・ボクスレー氏に出会った時は正直、ほっとした。はにかむような笑顔に、伸びやかなピュアがあるそのワイン。狂気が潜んだ美味さ(?)を他のドメーヌで味わった後ゆえに、彼のワインの素直さが俄然魅力的に感じられる。現在アルザスのトップを走る生産者達のワインは、多様さが絶妙に混ざり合っているからこそ引き立て合い、消費者にとっては選ぶ楽しみに溢れているのかもしれない。
ドメーヌ・アルベール・ボクスレー |
第二次世界大戦後にジャン・マルクさんの祖父によって創立されたドメーヌは、現在12,5ha(ピノ・ノワール0,5ha、リースリング、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカ、シルヴァーナーが計12ha)を所有、特筆すべきは多くの生産者が「真のグラン・クリュの一つ」と挙げるブランド(Brand)とソンメールベルグ(Sommerberg)を有していることであろう。生産されるワインの半分は輸出され、残りは個人顧客を主とした国内消費である。
「テロワールを表現したいのなら、畑に立ち返るのは明白なこと」と語る彼であるが、敢えてビオロジーは選択していない。その理由は主に2つである。
まずは「アルザスで最も傾斜勾配が高い」と言われるソンメールベルグの斜面。45度もの傾斜の畑では除草剤を完全に排することは難しく、「祖父の代には近所のドメーヌ同士で作業を手伝い合った」という古き良き慣習も、今は無い。ただしこの状況でも最善を尽くすために、除草剤は葉だけに働きかけるタイプ(土中に残存しない)を使用する。
そして2つ目の理由は「畑にもなるべく介入は避けたい」という、彼のポリシーによるものだ。
「ビオで僕が同意できない事は、ビオで決められた手入れの多さ。その手入れを行うために、何回もトラクターを畑に入れるハメになる。なるべく土は踏み固めたくない。結果的に僕の畑でトラクターが入る回数は、平均的なビオの約1/3に抑えられている」。
最終的に彼が畑で重要視していることは「介入を控えた上で収量も自然に抑えること」であり、醸造においては厳しいセレクション(例えば1997年などは、収穫の約70%を単なるジェネリック・ワインに回した)を完遂する。また「輸出してもワインからフローラルなアロマが残っていてほしいから」と理由でSO2添加を行うが、その量も平均して10−16mg/Lとビオロジーの規定より遙かに少なく、「赤なら完全に重力システムを用いることによって、ゼロも可能かもしれない」と更に意欲的な見解を持つ。そうして出来上がったワインのボトルには「L31D」等というロット番号が控えめに記載されているが、これは樹齢やパーセルの細かな違いに基づいている。
力みは無いが、随所に小さな情熱とこだわりがキラリと光るドメーヌなのである。
テイスティング |
今回のテイスティング銘柄は以下。テイスティング順に記載。全てボトル・テイスティング。土壌の差を理解しやすくするために、セパージュはリースリングに統一。
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リースリング グラン・クリュ ブランド 2001
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リースリング グラン・クリュ ソンメールベルグ 樹齢30年のロット 2001
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リースリング グラン・クリュ ソンメールベルグ 樹齢60年のロット 2001
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リースリング グラン・クリュ ブランド 2002
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リースリング グラン・クリュ ソンメールベルグ 樹齢30年のロット 2002
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リースリング グラン・クリュ ソンメールベルグ 樹齢60年のロット 2002
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リースリング グラン・クリュ ソンメールベルグ 樹齢60年かつ、上記より収穫日が15日後のロット 2002
ブランド、ソンメールベルグは共に花崗岩が主の土壌であり、今回のアルザス巡りで感覚的に私達が感じたことの一つは「花崗岩土壌から生まれるリースリングにはヴィオニエと見まごうばかりの白い花がある」だが、このドメーヌの特にブランドもまさにそう。少しシレックスっぽいフュメなミネラルと一緒に、溢れるような白い花の甘い香り。そしてヨーグルト、ホワイト・チョコ、微かな白コショウ、洋梨やマンゴスティンの白い果肉。2001年にはパイナップルなどの黄色い果実のニュアンスが少し入ってくるものの、夏に瓶詰めしたばかりの2002年は「美味しい白」のイメージが、ぎゅう〜っと詰まっていて、素直に美味い。
一方ソンメールベルグの持ち味はミネラルの深さ。白い花と共にとろりとしたオイリーなミネラルがあり、この「とろり」さをメントールのような清涼感や上質な酸、深みのある甘味(2002年は樹齢60年の2つのロットに貴腐が付いた)が引き立てる。また樹齢が高いロットになるに連れ、ミネラルの質感(滑らかさ)がはっきりと変わっていく様は分かりやすく、飲んでいて純粋に楽しめる。熟成後の姿も楽しみだ。
伸びやかな、ピュア。切れと深み、そして優しさもある素直さ。しかも国内外の評価の高さや生産量の少なさ(年間平均生産量は約60,000本)に拘わらず、価格は高騰していない。カリテ・プリ(お買い得)である。
訪問を終えて |
幸いにもカーヴで購入可能であったので、試飲後は迷わず数銘柄を購入。帰国時の手土産用に手を付けずにいる予定だったのだが、既に残りは1本になってしまった。
そう、一人で過ごすパリの夜、風呂でゆっくりとくつろいで、少々気の利いた料理を自分のために作った時など、このドメーヌのボトルを無性に開けたくなるのである。ワインで疲れるのは御免で、一人で高価すぎるワインを開ける勇気も無く、でも腑抜け(?)なワインでは明日への活力が湧かない(一人で飲むワインが外れた時、それは何ともミジメなのだ)。ピュアなワインでご機嫌に1日を終わりたい。そうなると、ついつい手が伸びてしまう。急激に冷やしてもどの温度でも楽しめ、1杯ごとの変化が最終的にはボトル完飲へ。もちろん家族や友人達とワイワイやりながら飲むのも楽しいだろう。
手元に常備しておきたい、一連のワイン達である。