Domaine Claude DUGAT 〜サン・ヴァンサンに守られて〜

(Gevrey−Chambertin 2004.5.25/6.21)

 

 

 

 

 価格上昇が最も大きな原因であろうが、最近日本市場でデュガのワインの動きが鈍いと聞く。加えてドメーヌとは全く関係が無いものの、インポーター側の例の裁判結果などを知ると(結果に関するコメントはここでは割愛する)、全く大きなお世話だろうが、このドメーヌを愛するワイン・ファンとして個人的な心配すら生まれてしまう。

昨年、彼らが畑で心を砕く様子をレポートしたことは、最終的に畑仕事そのものよりも、もっと根底のものを私に与えてくれたと思う。あるフランスのワイン本の言葉を借りれば、

− この素晴らしいヴィニュロンはブルゴーニュ全域に、人間性と賢明さ、そして匠という偉大な教訓を与え続ける。

 嗜好が情報により加速しながら変わる市場の中でも、やはりこのドメーヌが、本国で「Vigneron de Sagesse(英知のブドウ栽培者)」と敬愛を込めて呼ばれていることを忘れてはいけないと、私は思う。

 

 前置きはさておき、このレポートの目的は「2003年のテイスティング」。そしてデュガ氏の親切な申し出により「ラ・ジブリヨット」と「マールの垂直(?)」試飲も叶ったので、総体的な印象をここに報告したい。

 

テイスティング その1
〜ドメーヌ・クロード・デュガ 2003
(5/25と6/21試飲)

 

    〜 ボトル・テイスティング 〜 

  ジュヴレイ・シャンベルタン 2002

  ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ ラヴォー・サン・ジャック 2002

  シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ 2002

     〜 バレル・テイスティング 2003 

  ブルゴーニュ・ルージュ(新樽と1年使用樽)

  ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ

  ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ ラヴォー・サン・ジャック

  シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ

  グリオット・シャンベルタン グラン・クリュ

  シャペル・シャンベルタン グラン・クリュ

 

 まずボトル・テイスティングであるが、これはデュガ氏の「もし興味があるなら」の言葉の下、全て4日前に開栓したものだった。ブルゴーニュ・ルージュこそ少し酸が立ってきているものの、ラヴォー・サン・ジャックには鉄っぽいミネラル、そしてシャルムには噛めるような緻密なタンニンと驚異的な余韻の伸び。数日間の間に薄れていくものもあったのだろうが、4日後の姿にはワインそのものが土地と一緒にそこに佇んでいるような深さがある。脱帽だ。先日「リアルワインガイド」でブルゴーニュ・ワインに関するデキャンティングの意義を少し書かせて頂いたが、デュガの2002年を今開けなければいけないのなら、ともあれ少しでも空気に触れさせてあげるべきだろう。

 そして一連の2003年。デュガ氏曰く

「この土地のピノ・ノワールにすると私には重く感じられ、長熟タイプではないだろう」。

確かにデュガのワインにしては、異色である。と言うのもデュガのワインだけを飲むとそれは殆どのミレジムに共通して、ピュアでありながら非常に果実やスミレ、バラのエッセンスが濃く、「薄い」という印象は無い。しかしデュガ・ピやドゥニ・モルテと並べてブラインド・テイスティングすると、いかにデュガが「細く、長く、美しい」タイプなのかが理解出来る。その点2003年は現時点で、いつもより果実味が前面に出たとても豊満な印象だ。しかしねっとりとした層の細かいタンニンの後ろにやはりこの地らしい良い意味での「冷たさ」が潜んでいて、「格」があり、また他ドメーヌの2003年に時に見られがちな余韻の乾きが全く無いところは流石だと唸ってしまう。 

ちなみに昨年は一次発酵過程を少し見る機会に恵まれたが、デュガ氏自身が言うように、醸造自体は「トレ・サンプル(とてもシンプル)」であった(熟成に関しては、2003年はキュヴェによって新樽比率を減らす等があったようだ)。2003年というミレジムの個性がぎゅっと詰まったブドウが、美しくワインに昇華した。丹念な土の手入れ、剪定から始まる終わりの無い仕事は、化粧とも言うべき過剰な醸造を必要とせず本質を発揮する。デュガの2003年は飲む人にそう思わせる説得力がある。

 

テイスティング その2
〜ラ・ジブリヨット 2003〜
(6/21試飲、全てバレル・テイスティング)

 

  ブルゴーニュ・ルージュ

「ここに写るべきは、ジブリヨットのシェフであるラティシャとベルトランなんだけれどね」と、先代モーリス(手前)と、クロード。ラ・ジブリヨットのカーヴにて。

  ジュヴレイ・シャンベルタン

  ポマール

  マジ・シャンベルタン グラン・クリュ

 

 気になるのは昨年のオスピス・ド・ボーヌにてアカデミー・デュ・ヴァン名で落札された、ポマールとマジ・シャンベルタンである(もっともこの二つのキュヴェはあくまでも落札者に寄与するので、デュガ氏自身ですら最低必要限の試飲でなければならないようだ)。

 オスピス・ド・ボーヌが開催された時点で、私の周囲の声を聞く限りは、これらのキュヴェの評価は2つに分かれていたようだ。つまり「2003年らしく豊か」とするものと、「エレガンスに欠ける」というものである。

 この場合買い取った樽を、どのように導くかはブドウから見守った場合よりもかなり難しいはずで、現時点までをどのように向き合ってきたかの詳細は伺ってはいないが、「デュガ色」が良い具合に散りばめつつあるように思われた。これらも豊満な中から「冷たさ」が顔を覗かせ始めており、またマジ・シャンベルタンのパン・デピスのような複雑なスパイスのニュアンスは忘れがたいものがある。

「特にポマールはエレガンスとは言い難いかもしれないが、かっちりと『閉じた』力がある」とはデュガ氏のコメントだ。ここは氏の暖かくも正確な導きに絶対の信頼を置きたいとおもう。

 ところで「ブルゴーニュ・ルージュ」と「ジュヴレイ・シャンベルタン」に関しては、「デュガ家としてのワイン」キュヴェを選ぶために一家5人(長女ラティシャと長男ベルトラン、クロード、奥様マリー・テレーズ、そして先代モーリス)で購入可能なキュヴェを徹底的に試飲し尽くしたのだという。既に2002年はリリースされたが(残念ながら、私はまだ試飲をしていない!)、2003年はやはり、デュガ家が選んだワインであった。濃密なスミレに「ああ、ジュヴレイ!」と叫びたくなるのである。

 

 

テイスティング その3 
〜マール ドメーヌ・クロード・デュガ〜
(6/21試飲、全てバレル・テイスティング)

 

  1999

  2002

  2003

 

 実は密かにリリースを心待ちにしているのが、1999年から仕込み始めたマールである(2001年は仕込んでいない)。

 なぜなら私は個人的にまずマールが好きなのだが、昨年6月初めて1999年を試飲した時に、その干しブドウとナッツが詰まった絶妙な味わいに惚れ込んだからだ。余談ではあるが、このHPのWebmasterであるダンナにデュガのラタフィアを手土産に持って帰ったところ、「これはジュヴレイのピノの香りでしかあり得ない!」と感嘆していた。たかがラタフィア、と侮ってはいけない。ラタフィアにもテロワールは存在するのだ!そしてラタフィアでこのレベルなのだから、マールは推して計るべし、である。ブラインド・テイスティングで蒸留酒の品種や土地までを利き分ける自信は無いが、じゃあこのマールは何処のもの?と尋ねられれば、やはりニュイで、かつ非常にレベルの高い生産者が丹念に造ったもの、と答えるだろう。

 その1999年は1年を経て、深い黄金色と共にマールらしい骨格、力強い風格が備わった。1年に1回、微酸化を促すために澱引きをするそうで、瓶詰めはあくまでもマールの成長を見極めてからなので現時点では未定とのこと。よって市場に出るかも明らかではないが、これは是非手に入れたいのである。

 また2002年はまだアルコールと果実味といった力が前面に出、ほぼ透明な2003年はその色合いと同様、やはり非常にアルコールの高い凝縮した白ワインといった風情である。一方デュガ氏自身はワインとはまた違う、「時間のかかる子供」の成長が興味深くて仕方がないようで、試飲の途中から合流したフランス人のお客さんとマールの成長過程について話し合う姿が、とても印象に残っている。

 

サン・ヴァンサンに守られて

 

 「セリエ・デ・ディム」と呼ばれる12世紀来のドメーヌの自宅兼貯蔵庫は、ジュヴレイ・シャンベルタン村の高台、教会のすぐ横にある。この立地条件はとてもデュガ家に相応しく思うのだが、それだけではなかった。「ラ・ジブリヨット」の貯蔵庫はこれまた教会のすぐ近く、神父さん宅の地下貯蔵庫に眠っている(神父さんもワインが好きで、貯蔵庫にはジュヴレイ・シャンベルタン村のワインが慎ましく保管されていた)。初めてデュガ氏とお会いした時に「バッカスに愛される笑顔の人」と思ったが(もっともカメラを構えるとはにかむので、この笑顔をなかなかHP上でお伝え出来ない)、時折本当にこの人、この一家には、信仰とは縁のない私ですら神のご加護があるのでは、と思ってしまう。

 そのドメーヌ・クロード・デュガに2004年、サン・ヴァンサン像がやってきた。サン・ヴァンサンとはワイン生産者にとっての守護聖人で、いわばバッカスと生産者達の間を取り持つ役割である。ブルゴーニュの各村には必ずこのサン・ヴァンサン像が一体あり、これは1年間という期間で各生産者のカーヴに持ち回り制で納められる。大胆にも(?)この像と一緒に写真を撮って頂いたが(良いことがあるかも?)、何よりも新しい動きを見せ始めている今のデュガ家に、「守護聖人」が納められていることは、またもや大きな力が授けられているような気がしてしまう。

 「英知のブドウ栽培者」に出会えたことを感謝し、またこれからも通うことが出来ること、貯蔵庫の2003年の成長に期待して、このレポートを終わりたい。