Les Grands Jours de Bourgogne 〜2002年のブルゴーニュは、どのような「当たり年」なのか?〜 (Bourgogne 2004.3.22〜3.27) |
ポマールの試飲会場前にて。日差しがコロコロと変わる季節。この数秒後には雲が太陽を覆い、一面の曇り空に。 |
先日当HPの裏話「3/22〜27 〜春のテイスティング・マラソン その1 ブルゴーニュ・ファン必見? Les Grands Jours de Bourgogne〜」で紹介したブルゴーニュ最大の試飲会、「Les Grands Jours de Bourgogne(以下LGJdB)」。日程の詳細は「裏話」や「フランスの試飲会情報」の中で既に紹介したのでこのレポートでは割愛するが、この試飲会で多くの生産者がサンプルとして持ってくるのが、瓶詰め直後・直前のワイン、つまり今年なら2002年のワインである。
既に2002年は「素晴らしいミレジム」として市場にも紹介されており、今回の試飲や今までのブルゴーニュ巡りの結論から言うと、私自身も2002年は「密度と素晴らしいバランスを持ったミレジム」と感じている。よって「2002年=素晴らしい」説に賛成だ。そこで今回はLGJdBの運営側からのこの試飲会の結果報告や、「ブルゴーニュ・ニュース(ブルゴーニュ・ワインに委員会:BIVB発行)」から興味深い近況記事を抜粋して、お届けしたい。そしてレポートの最後には2003年の収穫・状況を、もう一度簡単に振り返ってみたいと思う。
このレポートは、
で、構成しています。
試飲会の結果報告 |
23日、ボーヌ市内で行われた試飲会にて |
まずはLGJdBの規模である。3/22(月)〜27(土)の期間中、北はシャブリ地区から南はマコネー地区まで行われた試飲会とは、
である。1日に試飲可能なワインは、平均で約300種類以上。そして参加者は平均で4日間はこの時期ブルゴーニュに滞在しているようである(全てLGJdBの資料より抜粋)。
4月4日に送られてきた結果報告によると、今回の入場者は約16,000人。これは前回(2002年)の15,000人強を上回る。また入場者のうち半分以上である56,4%が国外のバイヤーである。昨年はアメリカでの「フランス・ワイン・ボイコット」にユーロ高も加わり(ここ1年でドルに対するユーロは約40%アップ)、不安要素もあったのだが、まずは国外市場におけるブルゴーニュへの根強い関心の高さを示す形となったようだ。ちなみに最も入場頻度が高かったのは、200種類以上の2002年のワインをサンプルとして展示した、ヴォーヌ・ロマネの会場であった(23日)。
2002年の収穫状況 |
昨年訪問したクリスチャン・グージュ氏(ドメーヌ・アンリ・グージュ)のこの言葉が、2002年の収穫前の状況をを最も上手く言い表していると思うので、ここに抜粋する。
― 2002年は一言で言えば『ピノ・ノワールなミレジム』、つまりまさに『ブルゴーニュ的なミレジム』であったと言えるだろう。
乾燥した夏があり、9月上旬は長雨が降ったがその後、特に収穫の1週間くらい前(9/12〜)からは乾いて涼しい北風が吹く中、快晴に恵まれた。そして更に良かったのは夜間が非常に冷え込んだこと。これにより酸が維持された状態で糖度がじっくりと蓄えられただけでなく、ピノ・ノワールに欠かせないアロマに素晴らしい複雑性が生まれた。
グージュ氏だけでなく「ル・ギド・アシュット・デ・ヴァン」などもフランスのワイン本や、今まで話を伺った多くの他生産者達も、ブドウの最後の成熟期となる「9月の天候の素晴らしさ」を、2002年の品質と最も関連づけて挙げている。また赤がメインのドメーヌ・アンリ・グージュでは「ピノ・ノワール」と限定しているが、この気候はシャルドネにも大いに有効であったようだ。
同時に在庫がだぶつき始めた生産者の間では、自主的に収量を抑える傾向が見られたことも、品質向上に寄与したようである。
以下は、昨年の収穫公示日である(フランス食品振興会の資料より抜粋)。2002年は概ね、平均の範疇に入る収穫開始日であった。
シャブリ・オーセロワ
サン・ブリ、クレマン・ド・ブルゴーニュ(サシー種を除く)
コート・ドール県
特級畑(グラン・クリュ)のAOC
AOCクレマン・ド・ブルゴーニュ・シャティヨネ。
特級畑(グラン・クリュ)のAOC
シャティヨネの地区名AOC
ソーヌ・エ・ロワール県
AOCコート・シャロネーズ(地区名)、
AOCメルキュレイ、モンタニィ、リュリー
AOC プイィ・ヴァンゼル
2002年の味わい |
2002年の味わいを、畑が所有者によって細分化されているブルゴーニュで詳細に述べ出すとキリが無いので、アペラシオン・生産者を全て十把一絡げにした書き方で申しわけないが、自然に「その土地らしさ」が前面に出ているように思われる。
また特に秀でていると感じられるのは「美しい酸とミネラル」で、それがブルゴーニュらしい良い意味での「冷たさ」や芯を貫く「縦の線」、そして「ピュアさ」になって、白だけでなく、赤の中にも綺麗に溶け込んでいたのがとても好ましい。同時に赤においてはタンニンの豊かさや細かさ、そして赤・白共、それぞれの品種に特徴的な果実や花のアロマ、十分な糖度も存在する(2002年のオスピス・ド・ボーヌが出た時点で、殆どのキュヴェが補糖を必要としていなかったことが話題となったが、補糖という行為を行ったからと言って全体のバランスを著しく向上させるわけではない。やはり「美味い」と感じられるということは、元々のワインの酒質が良かったことに他ならない)。
冒頭で述べたように、やはり2002年は平均して「密度と素晴らしいバランスを持ったミレジム」と言えるのではないだろうか。かつワインによるが、熟成のポテンシャルもあり、今飲んでも今ならではの新鮮な美味しさが感じられる。毎年決まり文句のように宣伝される「今年は素晴らしい出来!」にうんざりしている方にとっても、信用に値するミレジムであると思う。
もし評価が分かれるアペラシオンがあるとすれば、それはヴォルネイかもしれない。試飲を通して感じたヴォルネイ(30ドメーヌ)はその凝縮度の高さゆえ、ともすればヴォルネイらしからぬ「マッチョさ」が感じられるものが多かった。ただしこれも個人の嗜好の範囲内であり、生産者にもよる。またコート・ド・ニュイ全般、そしてコート・ド・ボーヌでは特に「コルトンのグラン・クリュ」が、「その土地らしさ」を平均して高く表現しているように思われた。グラン・クリュの中でもニュイのものほど「コルトンのグラン・クリュ」に強烈な関心が湧かなかった人達(個人的には私も少々私もそうであった)に、2002年は是非試して頂きたいミレジムである。「この赤い果実のピュアさこそが、コルトンのグラン・クリュの持ち味だったのか!」と、目鱗度(?)が高い。
ちなみに「ブルゴーニュ・ニュース・インターナショナル(BIVB発行)」によると、
― 2002年は過去20年の中で最も素晴らしいといわれるミレジム、1999、1990、1985等と比肩するものとなるであろう。
残念ながら、1999年以外に挙げられた上記のミレジムをリリース直後に飲んだことが無いので、それらの姿と2002年のものを比べることは出来ない。だが個人的には「ブルゴーニュらしい美しさ」という意味で、現時点で2002年は1999年よりも、期待を持って見守っていきたいミレジムである。また「過去のどのミレジムに例えられるか」と言うことに関しては、今後経験豊かなパリのカヴィストやソムリエ達、そしてもちろん生産者達の意見を参考に、まとめていければと思う。ちなみに白に関しては、酸の豊富な1996年、1992年に例える向きも出てきているようだ。
昨年のブルゴーニュの、市場状況 〜クレマン・ド・ブルゴーニュの躍進〜 |
先ほど述べたようにアメリカでの「フランス・ワイン・ボイコット」や「ユーロ高」があり、2003年上半期のブルゴーニュ市場は輸出部門がかなり苦境に立たされたが、オスピス・ド・ボーヌ前後からはその苦境を脱しつつあるようである。またフランス国内では需要が伸びており(量にして4,6%、金額にして2,5%アップ。2003年度)、総体的には2003年度のマイナスは2%に食い止められた。
特に白の伸びは顕著で、AOCブルゴーニュは9,5%、マコン・ヴィラージュは15,5%、アリゴテは7,5%、そして特筆すべきはクレマン・ド・ブルゴーニュの20%という伸びである。BIVBの言葉を借りれば
「素晴らしい白ワインの産地として、ブルゴーニュが再確認された」
となるが、フランス国内ではショップよりレストラン部門での伸び(赤、白併せて6%。2002年下半期〜2003年上半期)が好調であるようだ。これはレストラン部門での不調に悩むボルドーと対照的である。
ちなみに輸出での対日本の落ち込みは、金額ベースでマイナス44%(2002年下半期〜2003年上半期)。これは対アメリカのマイナス32%を上回る(ヨーロッパ圏外での輸出に占める割合では日本はアメリカの約半分)。ワイン・ブーム後、日本でのブルゴーニュ・ワインは「AOCブルゴーニュか著名ドメーヌのグラン・ヴァン」という少々寂しい二極化が見られ、加えてユーロ高が追い打ちをかけたことが、この激しい数字の変動を生む大きな原因になったと思われる。だが一方で、「2002年=良いミレジム」「2003年=特殊なミレジムで品薄感」という要素が揃うと、昨今の価格上昇を食い止める大きなきっかけが見あたらない。実際、昨年11月の2003年のオスピス・ド・ボーヌは平均して約21%、続いて先日3/27・28に行われたオスピス・ド・ニュイでは約25%の価格上昇を記録している。ブルゴーニュ・ファンとしては「2002年が良いミレジムである」ことを素直に喜べない微妙なジレンマがあり、ある程度の安定した値頃感が生まれなければ、ブルゴーニュの「真ん中」のカテゴリーを新たに今の日本にプロモーションしていくことは簡単ではないだろう。
生産者・消費者共に喜ぶことができる、正常な市場が近い将来訪れることを期待して止まない。
(文中の数字は全て、LGJdBの資料より抜粋)
2003年の推移を振り返る |
今回のLGJdBでは、緊急版(?)として「Revolution du millesime 2003(ミレジム 2003の革命)」と称する試飲会が行われた。やはりブルゴーニュでも、この異例のミレジムがどのようにワインに反映されるかは非常に関心が高い。
残念ながらこの試飲会は他の試飲会と重なってしまい参加できなかった。また試飲結果などLGJdB側から報告があればレポートしたいが(一応オスピス・ド・ボーヌやオスピス・ド・ニュイでは合格点を得ているようである)、今回のレポートでは収穫までの2003年の推移を簡単にまとめたい(参考資料:フランス食品振興会、Bourgogne Aujourd’hui)。またリアルな現地中継(?)は、昨年の当HP「畑仕事の1年」を見て頂ければと思う。
以上である。とにかく「偉大であるかどうか」を語るにはまだ早い。だが少なくともこの「興味深い」ミレジムが何度も書くが、少しでもお手頃にリリースされればと一消費者としては望むのである。