Domaine du Vicomte LIGER−BELAIR
〜土への挑戦が続く〜 

(Vosne Romanee 2004.6.22)

 


 

樽からワインをピペットで抜き出すジャン・ミシェル氏。このドメーヌでの試飲はいつも大降りのバーガンディ・クラス。テイスティング・グラスの方が良し、とする声もあるだろうが、少なくともテイスターはリッチな気分になれる(?)。

 最初のこのドメーヌへの訪問の理由は、「ラ・ロマネがブシャールから、リジェ・ベレールへ」というニュース性に単純に惹かれたから、ということであった(何しろラ・ロマネは本数が少ない上に高額で、身近な関心を持つに至りにくい)。だが2度目からは現当主、ジャン・ミシェル氏が「次は何をするのか」という、期待を込めた興味に他ならない。

 このHPでも登場頻度が高い、ジャン・ミシェル氏。十分であろう資金力やビジネス力。カーヴで試飲する度に「ヴォーヌ・ロマネ村のピノ・ノワールを飲んでいるんだ」という喜びをくれ、畑に訪れると目に見える土の色の変化や、収穫時にはまるでボルドー右岸のごく一部のシャトーが採用しているような人海戦術が、汗だくの氏の下で繰り広げられている。氏自身は典型的なブルゴーニュのヴィニュロンというタイプではなく、良家の出、という言葉がピッタリくる雰囲気を漂わせているのだが、むしろそれが彼に「一ドメーヌとしてプライドをかけたゼロからのスタート」感と熱いやる気を、素直に焚き付けて(?)いるような感じがする。

2002年の瓶詰め直後のワインを今年3月に飲んだ時、やや還元香が表に出すぎた状態での瓶詰めに思えたことが少し気になったが(それはあのヴォギュエが還元香のことでベタンに散々に書かれたことを思い出させ、ともあれ空気に触れさせる時間の工夫は必然であるようだ)、基本的にポジティヴな流れに乗っていることが、見ている者を嬉しくさせる。

 そこで今回は、2003年のバレル・テイスティングだ。

 

テイスティング

 

 今回のテイスティング銘柄は以下。全て2003年のバレル・テイスティング。テイスティング順に記載。

 

  ヴォーヌ・ロマネ ル・コロンビエ

  ヴォーヌ・ロマネ クロ・デ・シャトー

  ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・ショーム

  ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ オ・レニョ

  ヴォーヌ・ロマネ グラン・クリュ ラ・ロマネ

 

 「2003年は全てのキュヴェに補酸した」とのことだが(2003年ミレジムのブルゴーニュにおける補酸に関しては、眉を顰めるべきではないことを既にこのHPの所々で述べてきたので、ここでは省略する)、その補酸は全て発酵前に施されたそうだ。氏曰く、

「発酵終了後に補酸すると確かに風味にバラバラな感じが生まれることがあるが、それを避けるためにも、補酸時は迅速な判断が必要」。

 また2003年のブドウは厚く色の濃い果皮を持っていたので、他のドメーヌと同様、ピジャージュ(櫂入れ)の回数は非常に少なかったという。

 実際試飲すると、オ・レニョは非常に還元香が強く(熟成期間中の還元香の強さはごく一般的に起こる)判断し辛かったものの、タンニンの質の良さや要素の多さが窺え、非常に強い果実味を持つレ・ショームは、2003年のミレジムを良い意味でよく体現しているように思われた。逆にピノ・ノワールでさえカシスなどの黒くて重い果実味に支配され、テロワールやセパージュの「らしさ」が隠れがちな2003年ミレジムにおいても、ル・コロンビエはヴォーヌ・ロマネらしい香水様のフローラルさが前面に出たワインであったこと、またクロ・ド・シャトーにはル・コロンビエよりも更に涼しいミネラルを感じ取ったことは(実際この両者の畑では、後者の方がより石灰質が多いらしい)、正直、嬉しい驚きである。

 そして真骨頂である「ラ・ロマネ」。こちらは非常に「豪華」なスタイルに向かいつつあるようだ。少しの還元香を押しのけながら、むせかえるような熟したグリオットや、花びらの厚い真っ赤なバラの香りがあり、たっぷりとして甘みのあるタンニンは飲み手の嗜好によっては、例年より好ましく捉えられるかもしれない。2002年に比べると現時点では少し余韻が短めに感じられたが、瓶詰め迄まだ時間はあり(通常このドメーヌでは15〜18ヶ月の樽熟成を行う)、様々な要素が最終的にどのような複雑性、余韻の長さに結びつくかは未知数である。ともあれ補酸が功を奏した事もあるだろうが、たっぷりとしたミレジムでありながら、どのワインにも好ましいバランスがある。

 今やワイナートにも大々的に紹介され有名なパリのワイン・ショップ、「LAVINIA」のフランス・ワイン部門責任者によると、ブシャール社に樽ごと売却した後の両カーヴでの熟成の違いは、「リジェ・ベレールは澱引きをしない」と「ブシャール社は澱引きをする」であるらしい(ジャン・ミシェル氏が意志を変えない限り、樽の売却は2005年ミレジムで終了する)。リジェ・ベレールの2003年に、現時点ではタンニンの重苦しさや乾きは全く感じられなかったが、過剰な抽出を避けるために例年より澱引きの回数が増えるかもしれない、という生産者もいる中、この澱引きの有無の差が、両者の瓶詰め後のワインの風味にどのような差違をもたらすのかも興味深い(もっともこれは、リジェ・ベレールが例年通り澱引きを行わず、かつ両者のワインを買い揃える金銭的な余裕があれば、の話だが)。

 

土への挑戦が続く

 

 新しいニュースはありますか?と尋ねると、少し考えた後に氏が答えたことは、

「11月には、馬がやって来る」。

氏がドメーヌの仕事に着手してから、まず最初に得たかった成果は「土壌の生態系を取り戻し」、「ブドウの根を地中深くに張らすこと」で、その為に馬での耕作を試みていたことは述べてきたが、最終的にその効果が数値と実感として得られたことが、氏に馬の購入を決断させたようだ。

 また以前から風の噂で聞いてはいたが、2005年からはネゴシアン部門も開始される「かも」しれない、とのことである。もし開始されればドメーヌものとの位置づけをどうするかなど、ここはむしろビジネス・センスが問われる場所であるが、これは詳細が決定したら、またこのHPでも報告したい。

 氏が生産者の道を選択するまでの過程は、親子代々ブドウ畑に立ってきた、典型的なブルゴーニュの生産者のものとは違う。しかしグローバルな行動力や、理論性を持ちながら「畑(土)との仕事を重視する」姿勢は、ブルゴーニュの志の高い次世代と共通する。

 様々な経歴を持つブルゴーニュの次世代がどう進んでいくかは、今後のブルゴーニュの一つの面白さであろうし、その中の一人として、やはりこのドメーヌは追いかけていきたいと思うのだ。

 

(追記)

今回リジェ・ベレールとのアポイントを取ってくださった「ブルゴーニュ魂」の西方氏に、お礼申し上げます!