Domaine du Vicomte LIGER−BELAIR 〜ラ・ロマネの格〜

 (Vosne−Romanee 2003.11.19)

 

 

 

 私の全く勝手な想像だが、ピノ・ノワールを愛するブルゴーニュの生産者達が一度は手がけてみたいと思う畑の一つは、「ヴォーヌ・ロマネ」ではないだろうか?しかしその地価の高さも手伝って、例え契約畑という形でも「手がけること」は想像以上に困難であるに違いない。そうなると一ブルゴーニュ・ファンとして祈ることは、もしヴォーヌ・ロマネという地を所有するのならその人達は並々ならぬ意欲と愛情を持つ、選ばれた者であってほしいのだ(手を抜くのなら、他のやる気溢れる生産者に畑を譲ってあげて欲しいと思うほどである)。

 

オ・レニョのクロにて。今年よりこの小カゴに変更。ここでも簡単にブドウを選り分け、運搬時にブドウが潰れないようにカゴの中身を均す。

 ドメーヌ・デュ・ヴィコント・リジェ・ベレール(注1)。あのラ・ロマネの所有者でありながら2000年が初ミレジムであるという、若きルイ・ミシェル=リジェ・ベレール子爵が率いるドメーヌだ。現在、一連のヴォーヌ・ロマネしか作らない。そしてグラン・メゾンであるブシャール・ペール・エ・フィスが熟成・貯蔵から販売までを管理していた時代の功績も認められるべきだが(栽培・醸造は他ドメーヌであった)、ルイ・ミシェル=リジェ・ベレール子爵という一人の「シェフ」が一貫して指揮を取っている最近は、明らかに畑で目にするものが変わってきている。それは柔らかく濃い茶色になった表土や、そして驚かされたのは2003年の収穫風景である。

収穫当日、小さなオ・レニョ(ラ・ロマネの上部)の区画にいるのは約70人の収穫人。人口密度の高さには「ベストのタイミングで、一気に収穫」というドメーヌの気合いが感じられる。収穫カゴは昨年より更に小カゴに変更(ブルゴーニュでは最小レベル?)、収穫後のブドウは運搬中に潰されないように一旦畑横の石垣でカゴを均され(畑と醸造所の距離はそう遠くないにも拘わらず、だ)、直ちに10人近くの選果人が待つ選果台へ。その直前に見たDRCの収穫風景が牧歌的に感じられるほど、畑に流れるスピード感が違う。

もちろんそうやって目にしたものがそのままワインの味わいに表れるものではないが、前回2月の試飲時2002年の各キュヴェには「予感」を感じまた6月には「La Revue du Vin de France(ラ・レヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス)」もこう評した。

―ジャン・ミシェル・リジェ・ベレールが収穫、醸造全てを行ったラ・ロマネ。素晴らしく繊細なワインはスミレとスパイスのアロマに満ちていて、明らかに以前よりタンニンは筋肉質ではなくなっている分、ピュアでフィネスに溢れた味わいに仕上がっており、ラ・ロマネ本来の味により忠実になっている。(★★★★(★)4つ星 : 将来性を見込んだ( )付き星も一つ追加)―。

 

 樽の中で2年目を迎えた2002年のラ・ロマネと、一連のワイン達(樽熟成期間は新樽で約15−18ヶ月)。貴重なモノポールの途中経過はいかに?

 

注1

ドメーヌに関する説明は、前回の訪問レポート「Domaine du Vicomte LIGER−BELAIR 〜2002年以降、La ROMANEEの鍵を握る若きヴィニョロンに聞く〜」を参照して下さい。

 

 

テイスティング 〜ラ・ロマネの格〜

 

 今回のテイスティング銘柄は以下。テイスティング順に記載。全てバレル・テイスティング。

 

* ヴォーヌ・ロマネ ル・コロンビエ(le Colombier) 2002

* ヴォーヌ・ロマネ クロ・デ・シャトー(モノポール) 2002

* ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ レ・ショーム 2002

* ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ オ・レニョ(Aux Reignots) 2002

     ヴォーヌ・ロマネ グラン・クリュ ラ・ロマネ(モノポール) 2002

     ヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュ オ・レニョ 2003

     ヴォーヌ・ロマネ グラン・クリュ ラ・ロマネ 2003

 

 2002年のラ・ロマネは6樽半。2002年―2005年は醸造したワインの半分をブシャール・ペール・エ・フィスに売却、熟成は各自で行われるので、残りの6樽半は既にブシャールに引っ越ししている、ということか。

 しかし樽数の少なさを嘆くよりも、そこにいたテイスター全員がラ・ロマネに認めたのは「格」である。

ビロードの花びらを持つむせかえるような赤黒いバラ、フローラルな香水、ピュアなスミレ、緻密な黒トリュフ、凝縮した赤〜黒系果実。時間の経過や鼻の近づけ方一つでニュアンスを微妙に変えていく様にウットリしていると、なかなか口に含めない。ようやく口に含むとタンニンの質の高さに驚くことに。それは今の楽しさと熟成後の期待を併せ持つ、細かさや層の深さなのだ。豊かでありながら「グラン・クリュ」を名乗るに相応しい軽やかなエレガンスもあり、コメントを書き留めることを野暮に感じさせるこの力や複雑さは、選ばれたワインしか持っていない類のものである。

 

ルイ・ミシェル=リジェ・ベレール子爵。収穫時より少しふっくらされたような気がするが(スミマセン)、それは言い換えれば痩せるほど2003年の夏が過酷だったということか?

 「タニック過ぎる、色が濃すぎる。そんなピノ・ノワールは求めない。過剰すぎるタンニンは望まない酸化を招く場合があるし、重要なのはタンニンの量ではなく質。種まで十分に熟したタンニンを無理に抽出するのではなく、あくまでもワインに『移し取る』。ワインは『生き物』だから、種からのタンニン一つ取っても、エネルギーやポテンシャルの自然な流れがある。それを無理に軌道修正しようとすると、シェフがその場しのぎで味を変えた料理と一緒で、不自然なバランスに仕上がってしまう。

結局はブドウの質が最も重要なポイントになり、まずその為に土を育て、変えていくのに4年近くはかかったと思う。GEST(注2)のメンバーと一緒に研究しているが、ラ・ロマネでは深さ12〜3メートルまで根が張るようになった。畑に生息する動・植物相も変わったよ」。

今回の訪問時、ルイ・ミシェル氏の説明は同行者も多かったせいか「ようこそ、シャトー・ド・ヴォーヌ・ロマネへ!」から始まるもので、シャトーの歴史から土の変化まで全てを熱く語るその様子には「子爵がヴォーヌ・ロマネを手がけるなら、最高のものであるべき」という気合いのようなものを感じさせられた。同時に畑の環境が整ったのは最近なのだ。2002年に驚愕するのはまだ早く、注目すべきミレジムはまさにこれから生まれてくるはずである。

ピノ・ノワールのフィネスとエレガンスがあり、かつ12本買ったら、その12本はそれぞれの楽しみがある。例えば1年に1本ずつ開けてもそこには時間が加味されて違う姿を見ることが出来る。そんなワインを造りたい」。

そう語る氏であるが、ヴォーヌ・ロマネやましてやプルミエ・クリュやグラン・クリュを名乗るなら、この「熟成」という性格を美しく体現できるワインこそ、消費者を真に楽しませてくれるのだ。このドメーヌにおいて熟成の結果を知るには少なくとも10年以上待たなければいけないが、現時点では様々な角度から考察しても、非常に良い予感がするのである。

 

ともあれ2002年のラ・ロマネは2月の試飲時より、更に強烈な印象を放つワインへ成長していた。瓶詰めは2004年1月下旬予定。今までの流れもあるので高価であろうことは想像に難くないが、価格に正当性が増したことは間違いない。同時に金銭的な余裕があれば、樽熟成の途中までルイ・ミシェル氏が手がけているブシャール・ラベルのラ・ロマネとも比較してみたいものである(澱引きの加減や、SO2の添加量、瓶詰め時期等が違うと察せられる。しかしブドウの出所は一緒で、またブシャールも言うまでもなく資力を持った名手なのだ)。

 

(注2)

GEST(Le Groupement d’etudes et Suivi des Terroirs):

 1995年、シリルヴ・ボンギロー氏(Mr.Cyrillev Bongiraud)と、ドミニク・ラフォン氏(コント・ラフォン)、エティエンヌ・モンティーユ氏(ドメーヌ・ド・モンティーユ)等を中心にしたヴィニョロンにより、以下の目的の為に結成された。

* 彼らのブルゴーニュ・ワインがよりテロワールを表現できるものになり、かつその状態を存続できること。

* より環境に配慮した農業を発展させること。

今日では多くの著名な生産者を含む、110のドメーヌが名を連ねている。

 

これで、よいだろうか?

 

 栽培に関しては現在GESTのメンバーと研究を続けるルイ・ミシェル氏であるが、仕込んだワインの方向性などについて「これで、よいだろうか?」と意見を求めるのが、アンリ・ジャイエ氏。ジャイエの弟子と称される人達の多くが、直接的な技術を学ぶのではなく「エスプリ」「哲学」「インスピレーション」である、と述べるが(実際アンリ・ジャイエ氏の仕事は今でも部外者にとって謎に包まれており、弟子と言われる人達が取っている手法も私が知る限り、実に多様である)、やはり「ご近所さん」のジャイエ氏と懇意である環境は非常に幸運であろう。

 「グラン・クリュを手がける喜びを感じると同時に、日々の天候や病害への対処、個々の作業のタイミング。全ての判断に対する責任は、自分にある。ミレジムを重ねるに連れて、ひしひしと感じることだ」。

子爵(Vicomte)ゆえか彼には外部からは見えない多忙さもあるようで、風の噂では栽培チームを現状よりも更に強化したいと考えている、という話も聞いた。とにかくルイ・ミシェル氏が力を注ぎながらも、まだ改良の余地がある、と考えているのは事実である。

「ボトルの中に答えを、じっくり待とうではないか」という2月のレポートと同じ結論に帰着するのは申し訳ないが、今回の訪問や、収穫風景、市場評価などを通して言えることは、「じっくり待つこと」が消費者にとって「楽しみに繋がる可能性の高さ」が見えてきた、ということである。