Domaine Jo Pithon  〜 2004年の輝き 〜

Les Bergères 2004.11.18)

 

 



 「2004年ミレジムとは?」を語るには収穫の翌春でもまだ早いのだろう。しかし収穫後、最初の仕込みが終わった時点で各産地に流れている空気には、各委員会が発信する収穫情報からは見えない、生産者たちの「そのミレジムへの満足度」が垣間見えるような気がする。その点で今回のロワール訪問で巡った、
ナント ー アンジュ ー ソーミュール ー トゥーレーヌ周辺の生産者たちの表情は明るく、コトー・デュ・レイヨンのジョー・ピトン氏(ドメーヌ・ジョー・ピトン)も、「2004年に喜んでいる」一人だ。

 そこで今回は、2004年のバレル・テイスティングをメインに、各キュヴェの簡単な土壌の特質も並記したいと思う。

 

ドメーヌ・ジョー・ピトン

 1978年に設立されたドメーヌ・ジョー・ピトンは現在、アンジュとコトー・デュ・レイヨンを中心に約10haの畑を所有し、この地域で最も魅力的なシュナン・ブラン由来の白ワインを送り出す「自然派」生産者の一人として、既に高い評価を確立している。そのピトン氏が栽培に採用している方法はビオロジー。だがビオ以前にまず特筆すべきことは、氏らの絶え間ない「畑さがし」と「畑に合った作業方法の模索」、そして「シュナン・ブランを完熟に導く姿勢」であろう。

同名のアペラシオンでも区画ごとの特質(土壌・斜面の向きや角度)は刻々と変わるが、ドメーヌの周辺には、ブドウにとって理想的でありながら、傾斜度の高さゆえ第2次世界大戦前後を境に、忘れられた区画もあったようだ(終戦後は畑における機械化が進むと同時に量産化も重視され、作業が容易な平地が好まれたのである)。そこで彼らはドメーヌ設立後も、より理想的な畑を見つけるために暇を見つけては「忘れられた区画」をくまなく歩き、時には既に入手していた畑も「品質」のために手放すことを厭わなかった。そして新たに入手したいと思える区画が急傾斜であれば実際の栽培に向けて、やはり急傾斜で有名な畑、北部ローヌやスイス、モーゼルを訪れ、急傾斜での作業に必要な技術を採択していったという。

また90年代には「その天然の糖度の尋常ではない高さゆえ、醸造が困難に陥った」と評されたこともあるこのドメーヌであるが、「私がシュナンに求めるのは、単なる糖度の高さではない」と、氏はキッパリと言い切る。つまり氏が追求するのは「完熟したアロマ」であり、十分な糖度と「この土地ならではのフレッシャー(みずみずしさ)」のバランスなのだ(貴腐ブドウであれば、ブドウが貴腐菌特有の風味を備えることも重要視している)。よって、補糖はデザート・ワインにおいても許可されているが、ドメーヌでは「風味を伴わない」という理由で一切補糖は行われず、多くの努力は「畑」で費やされる。つまり甘やかすと量産タイプに陥りやすいシュナン・ブランを完熟に導くには厳密な剪定に始まり、正確な仕立て、風通しと日当たりを確保するための除葉や摘房、加えて自然酵母が存在する健康な土壌を育てることが必須であり、その上でドメーヌでは収穫時、セック用のブドウなら2回、貴腐なら3−5回の選果を行う。ちなみに一次発酵はその天然の高い糖度と、自然酵母に委ねられるために、収穫の翌夏まで続くそうだ。

 

仕事に妥協が無いそのピトン氏が、2004年を喜ぶ理由は主に2点。まずは収穫までの過程に雹害や、湿度の高さによる病害が少なかったこと、そして結果として一次発酵中の一連のワインが、「フィネス」に溢れたものになりそうな予感が既にあることだ。

 

テイスティング

 今回のテイスティング銘柄は以下(全て2004年のバレル・テイスティング。テイスティング順に記載)。

〜セック〜

  アンジュ・ブラン レ・ペピニエール(Les Pépinières。樽違いで3種試飲。ボーリュー・シュル・レイヨンに位置する南向きの斜面は、砂岩と石炭を多く含む土壌)

  アンジュ・ブラン レ・ベルジェール(Les Bergères。樽違いで2種試飲。サン・ランベール・デュ・ラテに位置し、片岩土壌)

  アンジュ・ブラン レ・ベルジェール(コトー・デュ・レイヨン・ボーリューに位置するレ・トレイユという区画のもので、傾斜度50%の斜面は南向き。2000年に植樹)

   サヴァニエール ラ・クロワ・ピコ(La Croix Picot。砂岩と片岩土壌)

  アンジュ・ブラン レ・ボンヌ・ブンシュ セック(Les Bonnes Blanches。サン・ランベール・デュ・ラテに位置するVV)

〜デザート・ワイン〜

   コトー・デュ・レイヨン レ・キャトル・ヴィラージュ(コトー・デュ・レイヨンの4種類の土壌違いの一つ。アッサンブラージュ前。貴腐化したブドウと若いブドウが半々)

  コトー・デュ・レイヨン サン・ランベール レ・ボンヌ・ブランシュ(COTEAUX DU LAYON ST LAMBERT Les Bonnes Blanches。樽違いで2種試飲。数種の片岩と粘土土壌)。

  カール・ド・ショーム レ・ヴァレンヌ(Les Varennes。VVの区画。石炭と片岩土壌)

 

 以上は、コトー・デュ・レイヨン内の村名

 

 コトー・デュ・レイヨン周辺の多様な片岩は、先カンブリア紀(5〜40億年前)に形成され、炭化物や角石を多く含み、それらはミネラルの点でシュナン・ブランに非常に寄与しているらしい。

 まだ糖度を多く残す発酵過程のワインは、まずは白桃を囓った時にほとばしる果汁のようにひたすら美味で新鮮な状態ゆえ、土壌と味わい(ミネラル)の相関性はよほどこの地でのテイスティングに精通した者でない限り、この段階では断言するべきではないのだろう。しかし樽違いで試飲を進めていくと、キュヴェによっては澄んだソプラノのような鮮烈な酸があり、ミネラルの質の違いや貴腐の有無は、ボリュームとして毎回違う印象を口腔に残していく。そして殆どジュースのような状態のキュヴェでも、余韻は確実に長いのだ。「良いワインとは、良いブドウであってこそ」は周知の事実であるが、果汁の持つ個性やポテンシャルとはこういうものなのかもしれない、と試飲した者に思わせる力がある。ピトン氏自身も太鼓判を押す2004年、出荷は早くとも2006年であるが、ここはワインになった姿を楽しむ日を、期待を持って待ちたいものだ。

 

訪問を終えて

 ワイン生産者の個性が強いことは珍しくない。しかし彼らの中でもジョー・ピトン氏の風貌は迫力満点(?)で、しかし物腰は柔らかく、そしてワインになり始めた各キュヴェは輝くような生命力に満ちている。短時間の試飲だったものの、様々な印象の強さゆえに忘れられない訪問となった。

訪問時はちょうどノエル(クリスマス)の前、つまり「フランス人が最もフォア・グラを食する季節=貴腐ワインが喜ばれる季節」だった。そこでコトー・デュ・レイヨンを数本、友人たちへの手土産に購入したが、ワインを手渡す時に氏の写真も添えるとまずは非常にウケる(ピトン氏、ゴメンナサイです)。そしてノエル後、氏のワインを堪能した友人たちは口を揃えてこう言うのだ。「彼の風貌も忘れられないが、ワインも同じくらいに忘れられない!ブラヴォ、ジョン・ピトン!」(そもそも「ジョー・ピトン」という名前自体が、氏・名ともにフランスでも稀らしい)。ともあれ誰が飲んでも、秀でたものに感じられるということは凄いことだと思う。一方で氏の息子さんはブルゴーニュのニコラ・ポテルで研修中であり、次世代も様々な経験を吸収中であるようだ。

彼らのワインは白のみであるが、その多様性ゆえどんな季節でも何らかの銘柄がピッタリとはまり、「失望」とは縁のない味わいだ。ロワールの魅力と底力を味わいたい人に、確実にお薦めできるドメーヌであると思う。

 

友人がプレゼントしてくれたという、バッカス版ブッダ。モミアゲの具合が氏と似ている? ジョー・ピトン氏。一度お会いすると忘れられないインパクトの持ち主。