Domaine Claude DUGAT

〜新しい、カーヴにて〜

 (Gevrey−Chambertin 2005.6.1)

 


 

 

 いよいよ日が長くなってきたこの季節、産地巡り再開には気持ちの良い季節だ(もっとも生産者にとっては畑仕事が佳境を迎えるので、訪問者を迎えるのは大儀だと思う)。そして久しぶりにこの地に訪れるのなら、必ず話を伺っておきたい生産者というのが私にとっては何軒かあって、その一つは間違いなくこのデュガ家である。このHPでも最も出場頻度(?)が高い一家であるが、私が通い詰める理由が過去のレポートから少しでも伝わっていれば幸いだ。

 

 ドメーヌの敷地内に入ると、手前右手側の砂利が妙にいつもより白っぽい気がした。聞けばデュガ家にネゴシアン・ワイン「ラ・ジブリヨット」が加わったことで、昨年末から新たに地下カーヴを増築し、私の訪問の数週間前にやっと工事は完璧に終わったのだという。砂利の白さは、その真下にある新カーヴの工事の名残だったのだ。

「新しいカーヴを知らないってことは、それだけ長い間アキヨは来ていなかった、ということだね」。

毎回ながら私の訪問は彼らの得には全くならないのだが、そんな話し方にも優しさを感じてしまう。ところでクロードの従兄弟、ベルナール(デュガ・ピィ)も、ポマールから始まる幾つかの畑を入手した2003年暮れから地下カーヴの拡大工事を施工したが、その工事現場を見た時には、改めてその深さと、地震の脅威に晒されない「石文化」に感動したものだった(高所恐怖症の私にとっては、平静にのぞき込むことができない巨大な空間と言った方が正しい)。ともあれ生産者達がカーヴを増改築する時、そこには作業動線の改良の意味が含まれる。お隣の神父さんのカーヴを間借りしていた「ラ・ジブリヨット」であるが、また一歩、表からは見えない努力や投資があったのだと思う。

 

テイスティング

 今回のテイスティング銘柄は以下(テイスティング順に記載)。

 

〜 バレル・テイスティング 2004

     ブルゴーニュ・ルージュ

     ジュヴレイ・シャンベルタン

     ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ ラ・マリー

     ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ

     ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ ラヴォー・サン・ジャック

     シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ

     グリオット・シャンベルタン グラン・クリュ

     シャペル・シャンベルタン グラン・クリュ

 

〜 ボトル・テイスティング 2003 〜 

     ブルゴーニュ・ルージュ 

     ジュヴレイ・シャンベルタン 

      ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ 

 

     (ラ・ジブリヨット

     ジュヴレイ・シャンベルタン

     ポマール

     マジ・シャンベルタン 

 

旧カーヴを抜けて、新カーヴへ。まだまだガランとした感じがいかにも新しい(ブルゴーニュ・ルージュのみ、まだ神父さんのカーヴで眠っている)。 カーヴの守り神?なんとなく、コミカルだ。


 2004年は全国的に見て、ブドウの成長期の畑で最も苦戦を強いられた産地はブルゴーニュではないかと思う。その結果理想的なブドウの確保が先決で、デュガの選果も厳密であったが、多くの真摯な生産者達は醸造前の最終選果に非常に気を遣った。また発酵・熟成開始後も現時点の生産者の声を聞く限り、決して手放しで安心できるものではなかったようだ。

2004年はタンニンや色合いの抽出がゆっくりと進み、しかし自然酵母に任せている以上、ワインの力に任せるしかない。『その土地らしい骨格』が果たして得られるかどうかかなりヒヤヒヤしたが、やっと私たちが期待する個性が生まれ始めたところ。またマロラクティック発酵の途中なので、酸は今感じるものよりもぐっと落ち着いたものになるはず」。

 クロードの言葉通り樽の栓を開けると、シュワシュワという元気な「マロ活動中」の音がする。昔、シャンパーニュ・グラスに耳を傾けてその音を聞くのが好きだったが、樽に耳を近づけるとそれは生命溢れる「ワインの歌」のように聞こえて、最近はこの「ワインの歌」が、この時期にカーヴを訪れる小さな楽しみの一つになっている。

 

 ところで、ワインである。まずはドメーヌものであるが「マロ途中」ということを差し引いても、味覚で感じられる全体的な酸のレベルはとても高い。この酸が口に含んだ時よりも、むしろ余韻に長く伸びる様は私が好むブルゴーニュの姿であるが、もっとも感心したのは、この難しかったミレジムにおいて、タンニンの青さや乾きが全く無いということだ。とても細かく、しかしクロードが案じた「ジュヴレイらしい骨格」という点ではジュヴレイならではの強さがある。また例えブルゴーニュ・ルージュであっても、ジュヴレイ村由来と感じさせるスミレの香りがあり、ワインの格が上がるに連れて、複雑な層をなすフローラルさ、果実やミネラルの冷たい緻密さが増していくのは不思議ですらある(基本的に醸造過程はどのキュヴェも同じなのだから、これはやはり畑の個性なのだと思う)。そしてデュガ家における「異端児」(?)、ラヴォーにラヴォーらしい鉄っぽさ、剛健さを感じた時に、デュガの2004年はまさに「人と天候と土壌」という意味で(風土とでもいうのだろうか)、完璧な「テロワールのワイン」なのだと確信した。2003年のように天候に極端に翻弄されることなく、人間の努力こそがそのミレジムの気紛れな天候と、土壌の個性を上手く引き出してみせる。2004年をカーヴで試飲するのはこれからだが、ブルゴーニュを好きな人達が愛する、「人と風景の見える」ワインが生産者によっては劇的にあるのが2004年ではないだろうか。

 一方、2003年。謙虚なクロードは「私たちのワインとしては、豊かすぎる気がする」と言う。確かにふんだんにある黒い果実風味が前面には出ていて朗らかだとは思った。だがやはり硬質なジュヴレイ節も十分に感じる。そしてタンニンが「乾いていないか、また滑らかで伸びがあるかどうか」という点はグラン・ヴァンで

あれば飲み手として求めてしまう私であるが、乾きやえぐみが全くない柔らかいタンニンに脱帽する

(2003年は過剰な日照量が、産地を問わずワインに焼けたタイヤのような香り、続く喉が渇くようなタンニンを与えることが多いと思う)。思えば2003年、このデュガ家の収穫に参加させて頂いたが、半ドライ状(?)のブドウを切り取り収穫バケツに入れた時、クロードに「アキヨ、そのブドウを食べてごらん。美味しくないブドウならば、それはバケツに入れてはいけないブドウだから」と言われた(とにかく私が摘み取り

に迷った時に言われることは、ただ「食べてごらん」だった)。確かに半ドライ状のブドウには、樹になりながら

既に発酵が始まっているかのようなシェリーっぽい味わいがあって、今更バケツに入れるべきではない気がしたが、収穫人チームを熟練さんが占める「チーム・デュガ」ならばこそ、「畑での選果」を謳わなくともかなりブドウはカーヴ到着以前に淘汰されたのだと思う。結局例を見なかったミレジムだったからこそ、ここでもやはり「人がどう向き合ったか」という点では、2004年と同様だ。

道路を挟み、左右にジュヴレイの9つの特級畑が連なる。そして目を凝らせば、緑の中にはポツポツと人が。

 

 

  最後に「ラ・ジブリヨット」だ。ニュイっ子であるクロードにとって、ポマールはどうも馴染み辛く感じているような印象を受けるが、オレンジやその皮を思わせるような酸や心地良い甘苦みと、他の要素のバランスは、一般的なポマールと比較して、個人的に好きなスタイルだ。そして、マジ・シャンベルタン。こちらは樽熟成の進み方にクロードはまずまずの感触を確信しているようで、2004年にしては良い意味でワインに適度な重みがあり、複雑さ、余韻の伸びはデュガ色が強い。過去のこのマジの大ヒットは1985年であったと記憶しているが、デュガ家がこれから先もマジに関わっていくことを、一ワインファンとして期待する。

 

試飲直後に、4haという全国的に見ても小規模な畑から、6人ものデュガ家メンバーや熟練のヘルプさん達が帰ってきた。冒頭にも書いた「畑の仕事がピークであるこの時期」、ジュヴレイの村内に畑が集中するデュガ家では区画毎の作業時差が少なく、仕事の密度は高くなる。それでも6人、というのは多い。

今年も収穫はデュガ家に参加する予定であるが、一家の丁寧な仕事の集大成であるブドウは、私もやはり丁寧に摘みたいと思う。そして自分が収穫に関わったミレジムの試飲というのは、チョッピリ特別なものなのだ。