速報 オスピス・ド・ボーヌ 2005 その1

144eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE

〜 一樽あたりの平均落札価格は、前年比11,02%アップしたものの、、、 〜

  (Beaune 2004.11.20)




 

 145回オスピス・ド・ボーヌ競売会が去る11/20(日)に開催された。

 ところで今年のオスピスの平均落札価格(一樽あたり)は、前年を上回ることが確実視されていたと言って良い。なぜなら

 

@ 昨年の大幅下落(29,18%ダウン)への反動

A 2005年ミレジムに対する高い前評価

B     今年度よりオスピスの運営が地元のオークションハウスから、クリスティーズに移

 

という要素があったからだ。Bに関しては、クリスティーズの持つ世界的な顧客網により、「安定した売り上げ」「オスピスの活性化」を促すことが目的だ。

 この「安定した売り上げ」にオスピスがこだわる(?)のは、オスピスの精神が「チャリティ」にあるからだ。平たく言えば慈善事業に必要な資金と、それ以前にある良心が、単純に一ビジネスとして翻弄されるべきではない、となる。だが皮肉にもオークションにかけられる対象は、「ミレジムの出来」と「世界的な市場」をモロに反映する「ワイン」である。しかもそのワインは世界的に有名(高級)産地であるブルゴーニュ。昨年、大幅な下落傾向が明らかになってきた競売開始約1時間後、「オスピスは元来チャリティであり、単なるバロメーターではないのに」とオスピス側は落胆を隠せない発言をしたが、ブルゴーニュであるからこそ、関係者は価格を占ってしまうのである。そして今年は「チャリティのピュアな精神を、もう一度見直す」ということが、一つの命題であったのだが、、、。

 

会場風景

 

一樽あたりの平均落札価格は、前年比11,02%アップしたものの、、、

 まずは全体的な競売の結果である(資料はプレスとして、委員会から許可を得て正式に頂いたもの)。

 

    蒸留酒含む落札総合計: 3,798,330ユーロ(前年比25,07%増)

    ワインのみの落札総合計: 3,791,900ユーロ(前年比25,31%増)

    ワインのみ落札総樽数: 789樽(前年比 12,88%増)

    ワインの一樽あたりの平均落札価格: 4,806ユーロ(前年比 11,02%増)

赤: 4,373ユーロ前年比 14,09%増

白: 6,815ユーロ前年比 8,92%増

 

 さて、この一樽あたりの平均落札価格 前年比11,02%増」という数字をどう捉えるか、であるが、まずもし「昨年並み」であれば、クリスティーズは袋叩き(?)に遭っていたと思われる。かろうじて二桁台に乗ったものの、この数字は2003年と比べると20%以上低く、更には前年比割れした2002年と比べてもやや低い。

 筆者が渡仏して以来のブルゴーニュ・ミレジム観を一言で言えば、

 

2002年: 健康優良児

2003年: 稀少な異端児

2004年: 成功したワインに関しては、生産者の努力が生んだエレガント児

2005年: 天才児かも?

 

 であるから、オスピスに限定すると2005年は、品質(注1)の割に安価である。もっとも2003年が高評価である理由の一つは、今年後半から続出するアメリカ側からの高得点であると思う。そこで個人的に言えば、「世紀の酷暑」と言われるミレジムを飲めることは嬉しいが(もっとも温暖化が続けば、「世紀」では無くなるかもしれない)、多くの試飲を通しての感想は「ブルゴーニュの本質を感じるには難しいミレジム」。それは試飲をすすめる生産者の言動にも表れていて、彼らの言う「まぁこれは、特別なミレジムだからね」は、私にとって「これがいつものウチの味とは理解しないでくれ」と聞こえる。ともあれ私は、2003年の高評価には疑問を持つ。

 だが一方、2005年の前評判は、国民的な嗜好の違いを超えて関係者には耳に届いていた。チャリティでありながら情報に左右されてしまうのがオスピスならば、前評判も落札価格を引き上げる重要な要素であるべきで、そこにクリスティーズという名門を招き入れたのなら、オスピス関係者は前年比20%増くらい(2003年までは行かなくとも、2002年は軽く超える)を期待していたのではないだろうか?ただし一部のキュヴェは、確かに非常に高値で落札された(注2)

 翌朝、地元紙「Le Bien Public(ル・ビアン・ピュブリック)」の一面には、「(オスピスを)市場が支配した」という見出しが踊っていたが、この見出しは現実を言い当てていると思う。ワイン市場、ひいては経済自体が世界的に明るいとは言い難く、フランスでもワイン離れ傾向は続く(「ワイナート 2006年1月号 クリュクリュタイム」で報告)。またオークションにまで参加するブルゴーニュ愛好家はドメーヌを尊重するという意味で、オスピス・ド・ボーヌの一連のキュヴェは一部の高名キュヴェを除いて、誰がどのように造っているかも余り情報が無く、愛好家の購買意欲をそそるには押しが弱い。要するに市場は、オスピスにシビアだったのだ。

 

クリスティーズの運営に対する印象

電話での落札には計8人が対応。しかし余り忙しそうではない、、、。

 クリスティーズの参画で変わったことは、従来はネゴシアンや関係者しか参加できなかった競売が、一般愛好家にも開放されたということだ(以前はもし一般愛好家が落札したい場合は、ネゴシアンなどを経由しなければならなかった=関係者とのパイプが必要だった)。

 私の推測する限り、クリスティーズは今回のオスピスに関するパンフレットを、世界中の顧客にかなり幅広く送付している。知人の一人(クリスティーズと以前に問題があり連絡が絶えていたらしい)も久しぶりに受け取ったクリスティーズのパンフレットはオスピスであったという。またボーヌの各ホテルにもこのパンフレットは配布されていた。

これらの告知はオークション時の電話参加に反映されるものだが、私が今まで参加したワインのオークションと比較しても、電話周辺に活気ある忙しさが「頻繁に」訪れているとは思えなかった。また今年は昨年よりも90樽も多く、ロットも細分化されれば、オークションの進行にも時間がかかる。時間が伸びたせいとは言えないが、会場のテンションも途切れがちに見えた。

クリスティーズの手腕に寄せるオスピス関係者の期待はもちろん非常に高かったはずだ。記述が少し重複するが、それゆえに「一樽あたりの平均落札価格が前年比11,02%増」というのは、関係者が特に期待した「チャリティ精神も旺盛な、裕福な米国コレクター」を思ったほど上手く誘致出来なかったという点で、やや落胆しているというのが、現地で感じられた正直な感想だ。

  

 次回「オスピス その2」では、今回のオスピスの目的(毎年寄付を授ける慈善活動が変わる)や、今年から新しく加わった畑の区画、そして余り話題に昇ることのない(?)「オスピスの収穫・醸造状況」を、「オスピス その3」では、各キュヴェの簡単な歴史などを紹介したい。

 

(注1)

オスピス前日に計40種類のキュヴェの試飲を行ったが、特に欠点が目立ったキュヴェは2種類のみ。あら探しをすれば5〜6種類とも言えるが、昨年、特に赤は「良いと思えるのが5〜6種類」という結果とは対照的で、間違えなく全体的なレベルは断然高い。糖、酸、十分なタンニンや色合い、豊かなアロマといった、まずは生まれたてのワインが持つべき要素が揃っている、という印象だ。

オスピス前日に行われた、プレス用の試飲会場。 色合いもしっかりとしたマジ・シャンベルタン(手前)と、クロ・ド・ラ・ロッシュ(奥)

 

(注2)

代表的な人気キュヴェの価格は以下。( )内は2004年の価格。

 

マジ・シャンベルタン(マドレーヌ・コリニャン)のロット1Dが落札された時の表示版。

    マジ・シャンベルタン(マドレーヌ・コリニャン)

最高落札価格: 25000ユーロ(19000ユーロ、約32%増

最低落札価格: 21000ユーロ(17000ユーロ)

    クロ・ド・ラ・ロッシュ(シロ・ショードロン):

最高落札価格: 18500ユーロ(19200ユーロ)

最低落札価格: 17500ユーロ(15800ユーロ)

    ボーヌ(ニコラ・ロラン)

最高落札価格: 2800ユーロ(3000ユーロ)

最低落札価格: 2400ユーロ(2500ユーロ)

    コルトン・シャルルマーニュ(フランソワ・ド・サラン)

最高落札価格: 12000ユーロ(8600ユーロ)

最低落札価格: 7500ユーロ(7500ユーロ)

    バタール・モンラッシェ(ダム・ド・フランドル)

最高落札価格: 52000ユーロ(34000ユーロ、約53%増

最低落札価格: 52000ユーロ(33000ユーロ)