Bordeaux Primeurs 2005

〜ボルドー・プリムール 2005 レポート その1〜

(Bordeaux 滞在期間2006.4.3〜4.7)

 


 

 

シャトー・オリヴィエにて。「ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドー」主催・グラーヴ地区の試飲会場のビュッフェ風景。 (Click すると大きくなります)

 去る4月3日(月)〜5(木)、ボルドーで恒例のプリムールの試飲会が、各組織やシャトー毎に開催された。収穫終了直後から「例外的に素晴らしい年」と言われている2005年だが、果たしてその前評判は正しいのだろうか?

今回「ボルドー・プリムール 2005 レポート その1」では2005年の収穫までの状況と各委員会などのコメント、そして実際に試飲して感じた地域毎の傾向を、また「その2」では個々に廻ったシャトーのミレジム情報と、簡単なテイスティング・コメントを紹介したい。

 

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乾燥がもたらしたものは?

 

 2005年の収穫までの天候に関して、生産者側が口を揃えるのは「非常に乾燥していた」ということだ。しかし気温は同じく乾燥した2003年のような「酷暑」ではなく、平年よりやや高めを推移。「2003年を平均的な気温にすると、2005年」という表現も聞かれた。そこでまずは各委員会からの収穫状況報告、コメントを簡単に取り上げたい。(「フランス食品振興会発行メールマガジンhttp://www.franceshoku.com/」より抜粋)。

 

〜 収穫開始 〜

826日、シャトー・オー・ブリオンとシャトー・カルボニューの一部のソーヴィニヨン・ブランの区画で収穫が始まった。この2つのシャトーがあるペサック・レオニャンはいつもボルドーでは最も早く熟すところで、ペサック・レオニャン全体としては91日頃より収穫が始まる見込みである。昨年の収穫公示(白)は98日であったので、05年は、昨年よりやや早熟であると言える。
05
年は天候に恵まれ、日中は太陽がよくあたり、夜間は気温が下がった。分析の結果によると、白ぶどうはとてもバランスが良く、アロマに満ちている。現時点で品質について語るのはまだ早いが、ぶどう畑の衛生状態は健全で、カビや病気の被害も無い。
なお、2005年の特徴は雨が少なく乾燥していたことである。0491日から05828日までの12ヶ月間の降雨量は520ミリであった。同期間の30年平均の降雨量は922mm、また過去3年間の記録*)からも、05年が少雨であったことがよくわかる。
*)
 2002年 600mm2003年 756mm2004年 791mm
05
年の収穫量は04年を下回る見込みである。
(ボルドーワイン委員会C.I.V.B.より8/27付け速報
)

 

〜 例外的に素晴らしい2005年 〜 

ボルドーでの収穫は終わりに近づき、生産者からは笑みがこぼれている。収穫されたぶどうは、黒ぶどう、白ぶどういずれも良い可能性を秘めている。品質は素晴らしく、バランスが取れていて、見事なフェノール類(アントシアン、タンニン、アロマの成分)が豊かで、衛生状態も完璧である。6月の初めから夏の天候に恵まれ、収穫期間中もその好天が続いた。
白ぶどう
<ソーヴィニヨン>
8
月最後の2週間の天候が、ぶどうの成熟の進み具合に主導的な役割を果たし、アロマティックな特徴が備わり、熟し具合、酸度、フレッシュ感が見事にバランスのとれたものとなった。偉大な辛口の白ワインを生み出すための完璧なバランスがあり、糖度も並外れて高い。
<セミヨン>
9
月は、夜間は冷え込み昼間は暑かったので、甘口ワインには欠かせない貴腐菌に適し、このように好条件のもとで貴腐菌が発達し、蜂蜜のようなアロマや柑橘類の砂糖漬けのような要素が現れている。
黒ぶどう
夏の終わりに、夜間は冷え込み昼間は日照に恵まれる状態が続き、ぶどうの成熟は理想的な条件の中で進んだ。
<メルロとコット>
乾燥と気象条件のために果粒の大きさは例年より小さく、糖分が濃縮され、糖度は高い。アントシアン (ぶどうとワインの紫がかった赤い色のもととなる有機化合物)が濃縮されたため、色素の抽出も容易に進んだ。最初のキュヴェの試飲後の全般的な評価としては、とても反応が良く素晴らしい可能性が感じられる。
<カベルネ・ソーヴィニヨン/カベルネ・フラン>
熟期の遅いこれらの品種は、雨も降らず理想的な高気圧のもとで完全に熟すことができた。糖、アントシアン、アロマ、タンニンがまれにみるほど良いバランスを示しており、まさに「ボルドー」らしさを現している。「ボルドーの味」ともいえる丸みがありフルーティなワイン、長期熟成向けのワインがすでに予想されている。
2005
年の気象状況、収穫量などはこちら → http://www.franceshoku.com/vendange/
(ボルドーワイン委員会C.I.V.B.プレスリリースより10/5付け速報)

〜 傑作となりそうな2005 (サンテミリオン生産者組合) 〜
2004
年は、とても古典的であるところが魅力であったが、2005年は、その信じられないほどの活力と量感に驚かされる。
今年の天候で記憶に残る特徴は、乾燥していたことである(4月以降の降雨量は例年の50%に満たなかった)。冬の終わりから9月下旬までこのように乾燥すると、いつものことであるが、サンテミリオン、ポムロール、フロンサックの偉大なテロワールの表情を引き出すためには好条件となる。しかし生産者は、ぶどう樹がこのすばらしい条件を活用できるよう、摘房などの大変な作業をいつもと変わらず行った。
すべての要素が理想的に結びついてこの見事な結果となった:
― 乾燥して穏やかな春の中で、開花はまとまって早く進んだ。
― 夏は過度ではないが暑く、乾燥した状態が続いた。このおかげで色づき(7月下旬)は早く一様に進み、果実の中で諸成分が蓄積され、メルロは一様に熟した(当地域の品種の70%を占める)。
― 8月下旬に救いの雨が軽く降り、9月は日照に恵まれ暑く、ぶどうは穏やかなうちに熟すことができた。
― 収穫は早い区画で915日から始まり、好天のうちに続いた。
  
収穫されたメルロの素晴らしい品質は、信じられないほど良い年であったことを示している:
― 果粒の大きさは平均的で、収穫量は抑えられた。
― 天然アルコール度はどこでも高く(約13度)、ぶどう樹の素晴らしい働きを示す酸と見事なバランスを伴う。
― 果皮は厚く、フェノール類に富み、熟している。フェノール類のポテンシャルは過去20年間でもっとも多い。
― 果汁は信じられないほどアロマが強い(赤や黒い果実のアロマ)。

(928日付けプレスリリース。ポムロール、フロンサックからも同様の報告あり

 

以上の報告を見ると全く問題が無い。要約すると「乾燥と適度な気温」が一般的にブドウに寄与したことは、

 

     糖やフェノール類の完璧な成熟、果皮の厚さ、バランスの良い酸

     自然に抑えられた収量

     病害の抑制

 

となるだろう。また収穫開始日はシャトーによるが、全般的に昨年より1週間前後早い。

 

カベルネ系=左岸が有利?

 

 さて、ここからは味覚的な問題であるが、個人的には今年のメルロに少し疑問を持っている。

 生産者に伺った数値によると、左岸・右岸ともメルロの天然アルコール度は13度がごく普通、時には15度近くまで上昇したらしい。そしてまだ酒質が不安定な時期とは言え、メルロ主体のワインで頻繁に感じられたことは、

 

     十分なフェノール類との相乗効果で、ポートワインのような量感

     メルローの魅力の一つ「赤い果実」系が隠れ、「黒い果実味」系に支配されがち

     香りの高い評価が、味わいに追いつかない(試飲時には「尻すぼみ」な印象)

     余韻が「アルコールによる熱感」のみで構成され、酸やミネラルの爽やかさが見出せない。

 

というものだ。要するにワインとしてのバランスがやや重すぎる。また「十分なフェノール類」が2005年は当然のように語られているが、右岸ではシャトーにより「フェノール類の成熟がブロックされたのでは?」と思われるようなタンニンの乾きが散見され、そこに新樽とワインのポテンシャルが合わないと樽由来の乾きも加わる。またタンニンが豊かでも問題はその質で、過剰な収斂味や潤いを欠いた埃っぽい質感も頻繁に感じられた。特にこの傾向が強いのが、サンテミリオンとその衛生地区、フロンサックだ。だが不思議なことに、やはりメルロ主体であるポムロールは前者よりも繊細さや軽やかさを残すことに成功していることが多い。

 ともあれ「メルロの上昇しすぎる天然アルコール度」をどのように導けたか、ということが、一つのキーであるようだ。

 

 一方、左岸である。グラーヴ地区はシャトーによる力量の差が最も多く見られたが、サンテステフ〜マルゴー間、またメドック、オー・メドック、リストラック、ムーリは全体的にレベルが高い。特にポイヤック、サン・ジュリアンは確かに「例外的に素晴らしい年」という賞賛が本当に相応しく思われた。印象的だったのが格付け2級の「グリュオ・ラローズ」。2005年のこのシャトーには、1級に共通するような「オーラ」がある。

 結論から言うと、2005年は「左岸が歴史に残る」というのが私の見解だ。

 ただ気になるのは価格。前年比40%程度の上昇が囁かれており、少なくとも高値設定は確実だろう。

 

〜 その2に続く! 〜

 

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ポムロール協会主催の試飲会場。

観光地でもあるサンテミリオンのワインショップにて、試飲。奥にあるグラス型のキャラフが、サンテミリオンでは人気?(ワインバーやレストランで頻繁に見かける)

シャトー・ラトゥールの畑。ビオちっく。


 

シャトー・オー・ブリオンにて。