オスピス・ド・ボーヌ 2006 その1

146eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE

〜 一樽あたりの平均落札価格は、前年比15,86%アップ 〜

  (Beaune 2006.11.19)

 
 





   146回オスピス・ド・ボーヌ競売会が11/19(日)に開催された。

 2006年のブルゴーニュは弊HPでも何度か述べてきたように、ブドウの成長期の天候が非常にイレギュラーだった。生産者の声を聞く限り「栽培から醸造まで、何もかもが順調に進んだ2005年」とは対照的で、生産者や区画によって、ワインの味わいにはかなりのバラツキが生まれそうだ。また収穫時期に現地入りした時には、特にコート・ド・ボーヌでかなりの腐敗果が見られた。そして醸造過程では選果を行ったとしても「抽出の加減」が非常に難しかったようである。要約すれば「2005年のように、一般論として偉大なミレジムであるとは言い難い」。そこでまずは、競売前日に行われたオスピス・ワイン試飲の感想である。

 

品質と価格は見合うのか?

 正直言って赤は難しい。マロラクティック発酵もほぼ始まっていない非常に若い時期の試飲なので、主な判断材料は「タンニンの質・果実味の集中力・余韻の長さ」。オスピスに関しては過去4年間まったく同じ条件下で試飲をしているが、2006年は過去と比べてもタンニンの収斂性や乾きが全体的に非常に目立つ。またアロマにある好ましい果実味が味わいに引き継がれないワインも多く、真ん中の膨らみに欠け、一部のワインを除き骨格や余韻に欠ける。そしてオスピス・ド・ボーヌの栽培・醸造責任者を務めるローラン・マス氏は「赤は区画により、早飲みと熟成タイプにはっきりと別れるミレジム」と語った。

 一方赤の後に行われた白の試飲。周囲のジャーナリスト達からも「白は極めて素晴らしいミレジム」という声が上がり、私も概ね賛成できる。だが個人的には試飲すること自体が厳しかった赤の後ゆえ、白がより良く感じられたのも事実。また何よりも「では2005年と比べるとどうなのか?」となると、白も「果実味の集中力」という点では2005年に及ばない。

 結論から言えば、市場の流れを全く無視し、純粋に「品質と価格は比例すべき」という視点で見ると、2006年の価格は2005年より確実に抑えられるべきである。だが実際は、一樽あたりの平均落札価格が前年比で15,86%増となった。

 

     蒸留酒含む落札総合計: 3,793,064ユーロ

     ワインのみの落札総合計: 3,784,400ユーロ

     ワインのみ落札総樽数: 680樽

     ワインの一樽あたりの平均落札価格: 5,565ユーロ(前年比 15,86%増)

    赤: 4,417ユーロ前年比 1,08%増

    白: 11,150ユーロ前年比 63,61%増

 

 確かに2005年のオスピスの価格は「偉大なミレジムの呼び声」「運営をクリスティーズが担当」という要素があったにも拘わらず、一樽あたりの平均落札価格が前年比11,02%増の4,806ユーロであった。この価格は2003年と比べると20%以上低く、更には前年比割れした2002年と比べてもやや低かった(また2004年が極端に落ち込んだ翌年でもあった)。オスピスのハンマープライスに限れば、2005年は良心的な価格だったとも言える。またオスピスの元来の精神はあくまでも「チャリティ」だ。「チャリティの結果」としては収益の安定・増加は必要なので、「値上がり」は「チャリティの成功」でもある。

 ただし弊HPでも毎年書いてきたが、有名産地で行われる歴史的なオークションゆえ、たとえチャリティであっても「市場価格のバロメーター」として見られることは避けられない。そして今回の結果は「品質は前年よりも低いのに、やはり値上がり傾向か」という印象を強烈に与えてしまったのではないだろうか。
 

ブルゴーニュの強気は、いつまで続く?

おなじみ、会場風景。若干、後方の席は例年より空きが多いかも?

 もちろんオスピスの結果が、そのまま市場価格に反映されるわけではない。例えば近年なら2004年。オスピスでは「2003年の高騰の反動」もあり、一樽あたりの平均落札価格は前年比を29%も下回った。しかし生産者としては収量が激減した2003年の穴埋めを2004年ミレジムで行う必要もあっただろうが、ドメーヌの実際の蔵出し価格が急激に下がることはなかった。しかもユーロ圏外での市場になると、ユーロ高が加わり、2004年の価格は2003年とほぼ横ばいだ。一方「日本の市場」に限定すれば、一部の著名ワインの止まらない値上がりに、それでも愛好家が付いていったのは2002年ミレジムまでに感じられる。これ以上の値上がりは確実に「ブルゴーニュ離れ」を引き起こしそうなのだが、どうもブルゴーニュには「一輸出国」である日本の息切れがまだ伝わっていない。

 そして蓋を開けるのも恐い(?)のが、次に控える2005年ミレジムの市場価格である。

 前述のようにオスピスでは、2005年は2003年と比べると20%以上低かったが、現実は必ず異なるだろう。ブルゴーニュの多くの生産者も一部の「ボルドー・プリムール 2005」に非常な高値が付いたことは知っており、品質への評価も非常に高い。また2004年を買い控えたアメリカが2005年を必ず購入するはずだ。要するに生産者にとっては、少なくともわざわざ前年より蔵出し価格を下げる必要は全く無いのである。

 ネゴシアン協会会長、ルイ・ファブリス・ラトゥール氏(メゾン・ルイ・ラトゥール)曰く「ブルゴーニュは現在、輸出は量・金額ベースともに順調。1990年と匹敵する素晴らしいミレジム・2005年を上手く販路に乗せたい」。この言葉に感じられるのも、あくまでも強気姿勢である。2005年は購入を諦めざるを得ないワインが、2004年よりも遙かに増えてしまうのは避けられそうにない。その2005年より、「オスピス価格」は更に上昇した2006年。消費者にとっては良い意味で、オスピスの結果が市場価格に反映されてほしくないと願うのだが、、、。

 

(補足)

代表的な人気キュヴェの価格は以下。( )内は2005年の価格。

 

     マジ・シャンベルタン(マドレーヌ・コリニャン)

   最高落札価格: 28000ユーロ(25000ユーロ)

   最低落札価格: 22000ユーロ(21000ユーロ)

     クロ・ド・ラ・ロッシュ(シロ・ショードロン):

   最高落札価格: 24000ユーロ(18500ユーロ)

   最低落札価格: 22000ユーロ(17500ユーロ)

     ボーヌ(ニコラ・ロラン)

   最高落札価格: 4000ユーロ(2800ユーロ)

   最低落札価格: 3200ユーロ(2400ユーロ)

     コルトン・シャルルマーニュ(フランソワ・ド・サラン)

  最高落札価格: 26000ユーロ(12000ユーロ)

  最低落札価格: 18000ユーロ(7500ユーロ)

     バタール・モンラッシェ(ダム・ド・フランドル)

  最高落札価格: 65000ユーロ(52000ユーロ)

  最低落札価格: 61000ユーロ(52000ユーロ)