〜 Les vendanges 2007 〜

2007年 ブルゴーニュの収穫状況

湿った冷夏が、どう影響するか?



 

 

 9月28・29日の2日間、収穫が終わった時期のブルゴーニュへ。「裏話2007年9月 その1」でも書いたように今年は収穫には参加できず、収穫後に現地やメールで生産者に収穫状況を尋ねる形となった。各生産者のコメントは別の媒体で紹介する予定なので、ここでは2007年の収穫までの推移をレポートしたい。

 

シャルドネよりも早かったピノノワールの収穫

 

まずは天候の概略を、フランス食品振興会発行メールマガジンhttp://www.franceshoku.com/から抜粋する。

 

暖冬と変わりがちだった春のために早く開花を迎えた後、涼しく雨が多い気候のせいで、ぶどうの成熟速度は遅くなった。

萌芽は4月初めの例外的に暑く、日照に恵まれた数日間に集中した。その後数日で発芽が始まった。この時点で過去10年の平均に比べて、10日ほど早かった。開花は気温が涼しい日が続く中、5月の中旬に始まり、6月初頭に終了した。結実も同様の天候条件のもとで広がり、畑により時期的に差があった。この間、発芽の時期にみられた早熟は、そのまま維持された。
 夏の天候は不安定であった。気温が例年を下回っていたために畑の衛生状態は良好に保たれ、他の生産地域のようなベト病の拡大は見られなかった。なお特にヨンヌ県など、一部の畑では激しい雷雨に見舞われた。
 収穫公示は収穫の開始を認める行政的な決定だが、成熟が早く進んでいることと、個々の生産者が、最適な収穫時期を自由に選択できるようにとの配慮で早くに行われた。
 2007年の収穫量は、2006年とほぼ同量の、150hl強と予想される。

 

その収穫公示日は以下。

  ヨンヌ県: 8月1日(ただしAOCイランシーとシャブリは9月1日)

  ソーヌ・エ・ロワール県: 8月8日(ただしAOCプイィ・フュイッセは8月15日)

  コート・ドール県: 8月13日

 

 これは記憶に新しい酷暑の2003年より早い。ただし実際には8月下旬から天候の回復が見込まれたため、収穫は8月下旬から9月上旬に集中したようだ。結果、北のシャブリと南のマコンで同時期に収穫が行われただけでなく、シャルドネよりピノノワールが先に収穫にされるという異例のパターンとなった。

 

暖冬と暑い春、そして多雨な冷夏

 今年が異常な天候と言われる理由は、「暑い春」と「多雨な冷夏」の組み合わせだろう。

 

4月

葉がどんどんと開いていく

  4月11〜18日、この時期はちょうど雑誌「リアルワインガイド」の取材に同行してブルゴーニュ入りしていたが、畑の様子が日々変わっていくのが視覚的にはっきりと分かった。ピンクがかった小さな芽があっという間に葉を生み出していく。そして緑色を帯びながら展葉し、茶色が勝っていた畑に緑が面白いように増える。この時点で畑の成長は区画によっては2〜3週間近く早まるケースもあったようだ。畑仕事が最も多忙なのはブドウ樹の成長著しい5〜6月だが、畑の成長スピードに追いつくために、生産者たちの仕事は一気に前倒しになった。

 とにかく暑い4月だった。暖冬の後の暑さゆえ地球温暖化という言葉が頭を頻繁に過ぎる。天気予報を見ると気温は20℃台後半だが、体感的にはもっと暑い。屋外での取材では首や腕がジリジリと日に灼けるのが分かる。この暑さはブドウ樹だけでなく、あらゆる植物の春の成長を早めたようだ。菜の花畑は真っ黄色に全開。ある生産者の家にはスズランが生けられていたが、「こんなに早くスズランを部屋に飾ったのは初めて。このまま行くと、また8月の収穫かも(苦笑)」。そして行く先々で「これがブドウの赤ちゃん!」と、茎に付いた小さな房を見せて頂いた。この暑さは4月一杯続いた。

 
〜 マコンの畑にて(4/15撮影) 〜

畑の野花もいっせいに咲き誇る

既に青々した畑


 

5月

 涼しさは戻ったが畑の早熟傾向はそのまま引き継がれ、5月の中旬〜6月上旬には3週間近く早い開花が見られるようになった。この時点で「開花から100日目が収穫日」というセオリーから、「8月の収穫」が現実のものとなってきた。

 

6月

6月 ロマネ・コンティの畑にて

  この月から、「多雨な冷夏」が本格化する。日中はなんとか晴れていても、夕方から夜半にかけて必ずと言って良いほど雨が降る。それも天気予報によると夕立のような激しい雨や雷雨だ。

 ただしこの時期は、まだ生産者たちにも余裕があったようで、「4月が暑すぎたから、少し成長スピードが緩くなるくらいで丁度良い」「7月後半から8月に晴れてくれれば問題は無いだろう」という声を聞くことが多かった。
 

7月

 6月と同じような天候が続く。作柄の心配だけでなく、雨が多く余りにも表土がぬかるむとトラクターを畑に入れる仕事や、晴れの日に行った方が有効な作業が滞ってしまう。それでも私がブルゴーニュに行く時は不思議と晴れに恵まれ、しかしそのせいで取っていたアポイントを直前になってキャンセルされることも多かった。理由は「貴重な晴れだから、今日のうちに可能な限り出来る仕事を全部やってしまいたい。訪問や試飲に費やせる時間が無い」。晴れであれば週末や、祝日である革命記念日(7/14)でも熱心な生産者は畑に出ていたようだ。「アキヨが来るといつも晴れだから、ずっとブルゴーニュにいたら?」という切実なジョークも出始めた。

またこの時期にボルドーの生産者と話す機会があった。「ボルドーに関しては、偉大な2000年もブドウの最終成熟期までは多雨だった。8月以降に太陽が戻れば、まだ大いに期待が持てる」。

ともあれブルゴーニュでもボルドーでも、8月の天候に望みをかけることになってきた。

 

8月

 この月、私はフランスにいなかったが多雨で涼しい冷夏は中旬まで続いたようだ。フランスから来るメールは「暗い」「大雨」「寒いから長袖を着ている」等。

8月・9月に湿度が最高になるような年に問題なのが灰色カビ病。これは収穫の質・量ともに下げるが、特に質の被害が大きいと言われている。そして畑によってはこの病気が蔓延し始めた。効果的な対策は腐敗防止剤の散布だが、散布が過ぎるとブドウの糖度が上がりにくいというデメリットもある。結局2007年の病害で最も深刻だったのは、ベト病やウドンコ病よりも「いかにボトリティスによる腐敗を食い止めるか(防ぐか)」だったのではないだろうか。

しかし最後の最後にラッキーだったのは8月の下旬に太陽が戻り、乾燥した北風が吹いたことだ。生産者たちは収穫を開始した。

 

9月上旬

 9月上旬に収穫を行った生産者は異口同音に、「収穫時期の天候は良く、最後になって雨から救われた形になった。乾いた北風が吹いて、夜は冷えるが日中は柔らかい太陽が差し、日中の気温は20℃くらいに上がった」。雨は生産者の持つ区画によるが基本的に日中は降らず、降っても夜中の小雨くらいで、特に収穫に影響は無かったようだ。また生産者によっては、この9月上旬の好天を最大に味方に付けるために一旦収穫を見合わせるパターンもあり、収穫期間は長引いた。

 なぜピノノワールの収穫の方が、シャルドネより早かったのだろう?これは各方面にメールで質問を送っており回答待ちだが、現時点で私が推測するのはボトリティスに非常に弱いピノノワールの性格ではないだろうか。コート・ド・ニュイの生産者たちの話を伺う限り、「いつ、灰色カビ病が蔓延しても不思議ではない状況」はかなり恐怖だったようだ。

「糖度と生理学的熟成を待つよりも、今はまだ健康で綺麗な酸を保っているブドウを確保することが先決だった」「この状況下で収穫時期にまで雨が降ったら最悪。晴れているうちに収穫するのが最善」「収穫量の激減を度外視して、質のみを追求できる資金的に余裕のあるドメーヌならともかく、やはりある程度の収穫量が無ければ経営は成り立たない。また今年は9月下旬まで待ったところで、それが良い結果に繋がる可能性は低いと判断した」。とにかく最後に訪れた収穫時期の好天を逃したら、次のチャンスがいつになるか、そして例え糖度の上昇や生理学的熟成が完璧でなくとも、得られた健康なブドウでベストを尽くしたい、というのがギリギリの選択だったのだと思う。

 ところで早くも2007年は「選果が決め手だったミレジム」と言われるが、収穫時に畑や選果台で行われる最終の選果に関しては、生産者によって意見は異なる。要するに難しいミレジムでも腐敗が蔓延しなかった場合は、最終の選果は例年通りで済んだようだ。ともあれ収穫の最後まで区画毎に細心の注意が払われたことは確かで、「何もかもが順調に済んだ」と言われる2005年とは対照的だ。収量に関しても「例年並み」から「恐らく30%前後の減」と生産者間でバラツキがあり、また同じ生産者でも「区画や銘柄によって収量がかなり異なったし、収量の違いの原因は腐敗果の有無だけではなく、例えばミランダージュが多かった区画でも必然的に収量は落ちた」と全く様々だ。

また特に白がメインの生産者たちからは、「満足できる品質」という回答も得つつある。

 

 生まれたての2007年ワインを数件で20銘柄ほど樽試飲した。余りにも早すぎる試飲なので今は何とも言えない。樽に入れられた直後のワインは今まで私が試飲する限り、本当に「ビックリしている」という言葉が近い。ベタな書き方をすれば、「この香りのする入れ物の中で、私は上手くやっていけるのでしょうか?」という風にワインがオロオロ、でも一生懸命に与えられた環境に馴染んでいこうとしている感じがして愛おしい。またマロラクティック発酵も始まっていないので、酸は撥ねるようにピチピチだ。それでも畑毎に風味が違うところに、「ああ、違う土地から生まれたのだな。少なくとも事故も無くワインになったのだな」と感激する。

 決して太陽には恵まれなかった2007年。それでも心ある生産者の元で育まれたら、どんな変化を遂げていくのだろう?

 

ドメーヌ・ドゥニ・モルテにて

ポンプの作業もワインに負担をかけないよう、可能な限り重力を利用する カーヴに収まったワインたち。左が2006年、右が生まれたての2007年

 

 

ドメーヌ・ドゥニ・モルテにて

生まれたてのワイン。AOCジュヴレイ・シャンベルタンの一区画。 生まれたてホヤホヤのワインを、樽に詰めるドミニク・ギュヨン氏(裏話2007年9月 その2)。長年の経験から、「音」でワインが樽をどこまで満たしたかが分かる。満杯になったところで、次の樽へ

ドミニクの、樽を見つめる視線が好きだ


 

ドメーヌ・ドゥニ・モルテにて

ドメーヌ・クロード・デュガにて

樽に入れられた直後のワイン。騒々しく、ピチピチと音を立てる デュガ家にて。生まれたてのAOCジュヴレイ・シャンベルタン。ブドウ摘みから参加したかったなぁ、、、。 弊HPお馴染み(?)、デュガ家の長女ラティシャ。とにかく無駄のない働きっぷりがカッコイイ。

 

 

〜 黄金になる前の丘 〜

ジュヴレイ・シャンベルタン レ・コルヴォーより。後に続くのはマジ・シャンベルタン

クロ・ド・ベーズを斜面上から眺める


 

 
デュガ家のグリオット・シャンベルタンの区画。ブドウの位置からして2番成りだが、なかなか美味しい。