ordeaux Primeurs 2006

〜ボルドー・プリムール 2006 レポート その1〜

(Bordeaux 滞在期間2007.4.2〜4.6)

 

 


 

 去る4月2日(月)〜5(木)、ボルドーで恒例のプリムールの試飲会が、各組織やシャトー毎に開催された。2005年が早々と偉大なミレジムと騒がれたのに対して、2006年は前評判の時点でかなり見解が分かれていた。またフランス国内でも各産地で気候は異なるが、ブドウ樹の成長期の天候の推移は全国的に非常にイレギュラーであった。そして最も気になるのは収穫時期に断続的に降った雨が、ブドウの質に与えた影響である。

今回「ボルドー・プリムール 2005 レポート その1」では2005年の収穫までの状況、そして実際に試飲して感じた地域毎の傾向を、また「その2」では個々に廻ったシャトーのミレジム情報と、簡単なテイスティング・コメントを紹介したい。

 

 
 
 
シャトー・ムートン・ロートシルトにて。本当にこのシャトーは良くも悪くも予想を裏切る。この難しいミレジムで、いきなりホームラン?の感あり。

 

 

イレギュラーな天候の推移と、命運を分けた9月の雨

  まずはボルドー全域の天候の推移である(ボルドーワイン委員会C.I.V.B.のサイトより抜粋)

 

<2006年の天候と、1971年から2000年までの30年平均との比較>
4
日照時間:192時間(+15時間)
平均気温:12.7(+1.1
降雨量:27mm-53mm
5
日照時間:228時間(+7時間)
平均気温:16.7(+1.3
降雨量:47mm-37mm
6: 06年の中で最も日照量が多かった
日照時間:258時間(+33時間)
平均気温:21.4(+3.1
降雨量:25mm-39mm
7月: 過去85年間で最も暑かった
日照時間:242時間(-1時間)
平均気温:25.2(+4.4
降雨量:46mm-9mm
8月: 過去20年間で最も涼しかった
日照時間:225時間(-24時間)
平均気温:19.8-1
降雨量:72mm+12mm
9月: 過去60年間で最も暑かった
日照時間:204時間(+23時間)
平均気温:21.1(+3
降雨量:98.4mm+8mm

()
内数字は、1971年から2000年までの30年平均との差異

 

 数字だけ見ると5月、6月共に気温は例年よりやや高めだが、開花時期である5月下旬から6月上旬は季節外れに涼しく、開花はブドウ品種や区画によってバラツキがあったようだ。

そしてブドウ果の成熟期である7月〜9月は気温の変化が著しい。7月は「2003年の再来か」と言われたほどの猛暑となり、気温の高さと乾燥はブドウの健全な色づきに貢献した。だが8月は一転して秋のような涼しさ。「8月がワインを作る」という生産者は多いが、この涼しさは色づきの進行を緩め、ブドウ果の成熟にばらつきが見られる一つの要因となった(一方アロマの形成には寄与している)。また多雨であったため、区画によっては病気が蔓延したケースもある。最終的に9月上旬に再来した暑さはブドウの最終的な成熟を大いに助けたが、8月から続いた湿度の高さはブドウ房間に通気性が保たれていない場合など、腐敗や病気を生む要因ともなった。そして決定的だったのが9月下旬以降から10月の最初の数日までに断続的に降った雨である。

2006年は通年で見ると、決して多雨なミレジムではない。例えばシャトー・ムートン・ロートシルトの資料を見ると、約730mm(1962〜2005年の平均は約883mm)。しかし降った時期が悪かった。9月中旬以降とはまさに収穫時期であり、地域によっては一晩で30mmという雷雨に見舞われることがあった。このため収穫時期が早いメルロ(右岸)や、ソーヴィニヨン・ブラン(ペサック・レオニャンの辛口白)がより成功を収めている、という意見がある。また9月下旬〜10月上旬の雨に耐えたカベルネ・ソーヴィニヨンには凝縮度が生まれたが、厳しい選果を行う必要があったようだ。

テイスティングで全体的に感じられたことは、シャトーにより非常に品質にバラツキが見られるということだ。ただし成功しているワインには、偉大なミレジムが持つ圧倒的な果実味や長熟のポテンシャルは感じられないものの、チャーミングなアロマや、1996年のような堅牢かつトーンの高い酸やミネラルがあり、綺麗にまとまっている。

2006年の総評として「クラシックなミレジム」という表現が聞かれる。だがこのクラシックさは、ごく普通な天候の下、ごく普通に造られた時に生まれる「らしさ」ではなく、「人智により、シャトーによっては綺麗なバランスを導けた」ものだろう。つまり2006年とはボルドーならではのアッサンブラージュの多様性や高い醸造技術がワインの出来を左右した大きな一因であり、言い換えれば「ボルドーは難しい天候であっても決して大失敗はしない」ことが証明されたミレジムなのだ(実際にもっと悲惨な出来を想像していた)。

 結論として2006年に成功したシャトーとは、

  8月〜9月の高い湿度に対して、畑を健全に保つことができた

  収穫時期の見極めの妙

  厳しい選果

  高い醸造力

を、一定のレベル以上で兼ね備えていたと推測される。

 

本当に早熟品種が優位なのか?

 9月下旬の降雨により、収穫時期が早い品種を多く用いる地域が有利とされている。テイスティングを通して感じたのは、確かにソーヴィニヨン・ブラン(ペサック・レオニャンの辛口白)ではこの推測はピッタリと当てはまる。全体的にアロマティックで果実味にも集中力があり、綺麗な酸やミネラルに支えられたワインが多い。

ではメルロを多く用いたサンテミリオンやポムロール。個人的には左岸よりも品質のバラツキがより感じられた。例えばポムロールでは一部のシャトー(試飲した中ではクリネ、レヴァンジル、ネナン、ヴィユー・シャトー・セルタン)には、果実味の透明感とそれを際立たせるミネラルがあり、この地ならではの繊細さが前面に出ている。だが一方で特に小規模なシャトーには、ブドウ果の成熟を待ちきれなかったような青いタンニンや、味わいの真ん中にあるべき果実味の欠如、調和から外れた酸とミネラルの乏しさ、過ぎた抽出による余韻の乾きが頻繁に見られた(この欠点はサンテミリオンにもシャトーの規模を問わず、やはり頻繁に見られた)。また価格も考慮すると、右岸ではフロンサックの健闘を讃えたい。

 

その他のアペラシオン

 遅い収穫が最も不利に働いたのは、ソーテルヌとバルザックだろう。ワイン的な密度はあるものの、この地を特徴づける貴腐香に全く乏しい。

 また左岸で最も一定以上のレベルをアペラシオンとして保っているのは、マルゴーだろう。全体的に2006年の良い意味での細さがこの地のフェミニンさと相乗し、果実味寄りの心地良いワインとなっている。試飲した中では、ブラーヌ・カントナック、ジスクール、マレスコ・サンテクジュペリ、マルキ・ド・テルム、デュホール・ヴィヴァン、モンブリゾンのバランスの良さが印象的だった(マルゴー、パルメのコメントは別の機会に書きたい)。特にマレスコ・サンテクジュペリはボルドーワインの風味に画一化を感じる昨今、ミレジム毎にシャトーの個性をはっきりと感じることが出来る貴重な存在であると思う。

 

価格としては?

 2005年の価格高騰は尋常ではなく、一般的に偉大とは言われないであろう2006年である。単純にワインの出来から言えば「蔵出し価格は2005年の半額以下で当たり前」。また全く味わいのタイプは違っても「コンパクトなバランスを持つ」という意味では2002年に似ており、ミレニアム狂騒を経て一旦良心的な価格が付いた2002年と同程度の蔵出し価格なら、本当にお買い得と言えるだろう。

 しかし現実はそう甘くなく、2002年と同程度であるというのは、まずあり得ない価格設定であるというのが流通に関わる方々の見解である。ここは各シャトーの発表を待つしかないのだが、、、。

 

〜 続きはボルドー・プリムール 2005 レポート その2」で! 〜