ordeaux Primeurs 2007

〜 ボルドー・プリムール 2007 レポート 〜

(Bordeaux 滞在期間2008.3.31〜4.4)

 

 

 

右岸のあるシャトーにて7月。高台にあるブドウは樹齢100年超え。樹齢が高いゆえに根が深く這る。難しい天候の中、とても丁寧に世話をしているのだろう。綺麗なブドウ。

去る3月31日(月)〜4/4(木)、ボルドーで恒例のプリムールの試飲会が、各組織やシャトー毎に開催された。

 2007年の夏は雨が多く冷涼で、難しいミレジムとなったことは、すでに様々なメディアで報告されている。昨夏は私自身もボルドーに行く機会が多かったが、7月の時点で、畑の状態はかなり明暗が分かれていたように思う。風通しの保たれていないブドウ房では腐敗を起こしている粒が多く見られ、正直「これで収穫まで持つのだろうか?」と、不安を感じる畑も少なくなかった。「栽培から醸造まで、何もかもが順調に進んだ」2005年とは全く正反対で、2007年は畑仕事の段階から最善を尽くし、それが功を奏した場合にやっと、真摯なシャトーがどうにか健全なブドウを確保できた、というのが現実ではないだろうか。

今回「ボルドー・プリムール 2007 レポート」では、2007年の味わいに頻繁に見られた特徴と、その特徴を収穫までの天候を踏まえて、簡単に分析してみたい。

 

 

中身が無い? 〜 2007年の味わいに頻繁に見られた特徴 〜

 シャトー毎に差があることは言うまでも無いが、「難しい天候だったにもかかわらず、よくここまで完成させた!」と脱帽するシャトーもあった。そういう意味では、2007年は予想していたより遙かに良かったと言える。

 しかし今回、約400種類のプリムールを試飲して、もっとも頻繁にテイスティング・コメントに出てきた言葉は「中身が無い」。つまりワインの味わいの真ん中部分に求められる「膨らみや、後半の盛り上がりへの期待感」、「グリップ、または求心力や集中力、深み」が感じられないまま、寂しくフェイド・アウトしてしまう。器を作ったのは良いけれど、器の中身を満たす物質が足りないといった感じで、果実の不在が非常に顕著なミレジムだと思う。

この「中身の無い」ワインだが、典型的なパターンをテイスティングの流れで表現すると、以下になる。 

 

香り

     綺麗なベリー系のアロマを持っているものも多い。しかしこのアロマも、例えばワインのポテンシャルを見誤って新樽を多用した場合など、一気に台無しになってしまう。

味わい

     パターン1: 植物的で青っぽいタンニン

     パターン2: タンニンや果実味の密度が希薄で、全体的に水っぽい。

     パターン3: タンニンと果実味、酸とアルコールなど各要素のバランスが悪い。

余韻

     パターン1: もともと理想的に熟さなかったタンニンが無理に抽出されたようなワインでは、タンニンの収斂性が余韻を完璧に断ち切ってしまう。

     パターン2: 余韻が弱々しく、持続時間が短い。

 

 上記の特徴は、普段は豊かな果実味で綺麗な密度を醸し出す右岸・メルロ主体のワインにおいて、特によく見られた。また広い畑を所有するシャトーに、例年よりも安定性が見られる傾向があったのは(あくまでも傾向で、当てはまらない例もあったが)、アッサンブラージュでの調整に融通が利きやすかったのでは?と推測している。

 一方左岸は、右岸よりも成功していると思う。しかしカベルネ系を持ってしても、構造や骨格が例年よりもどうしても弱い。それはテイスティングでは、「輪郭がぼやけている」「輪郭はあるが、密度や背骨が弱い」という印象で感じられた。

 2007年を、2004年や2002年に重ねる意見を耳にすることがあるが、それには反対する。2004年は「クラシックなボルドー像」を、2007年より全般的に様々なシャトーが各々の手段で表現できたミレジムであると思う。また2002年は2004年と比べるとメリハリは弱いものの、2007年よりコンパクトなまとまりが冴えており、何よりも価格にお買い得感があった。

強いて言えば2007年は1997年に似ているかもしれないが、それは栽培・醸造、そして天気予報など、さまざまな分野の技術進化に支えられ、ギリギリ踏み留まった結果だと思う。

 

晩熟セパージュが有利?

 天候は後述するが、大雑把に言えば、2007年は全般的に「晩熟セパージュと、水はけの良い畑が有利なミレジム」だと思う。メルロ(早熟)を主要とする幾つものシャトーが、8月後半から9月に訪れた好天を、最後のチャンスに変えるために収穫をギリギリまで待ったと聞く(よって2007年の収穫期間は非常に長期に渡ったケースも多く、「開花から130日目あたりの収穫(通常は100日)」ということもあった)。しかし植物の生長サイクルや、果皮の厚さなどセパージュが根本的に持っている性格は完璧にコントロールできないわけで、また水はけの悪い畑では、水を吸い上げすぎたブドウの果皮が破裂してしまうケースもあった。果皮の質がワインの質に影響する赤ワインにおいて、「早熟セパージュ、水はけの悪い畑」を持つシャトーは、相当な苦労を強いられたはずである。

酷暑の2003年は晩熟セパージュが有利だったと思うのだが(早熟なメルロでは色づいた果皮が日焼けを起こしたり、ブドウの生理学的成熟を待つ前に、糖度の上昇と酸度の低下のバランスを優先して収穫する場合があった)、冷涼な夏だった2007年も、晩熟セパージュの我慢強さが有利だったのではないだろうか。実際、上手くワインに厚みを与えることができた幾つかの著名シャトーでは、例年になくプティ・ヴェルド(晩熟)の比率が高いケースもある。

 

2007年の、収穫までの天候推移

 以下は、(ボルドーワイン委員会C.I.V.B.のサイトより抜粋)

〜 07年シーズンの天候 〜

2月が暖かく、4月は平均気温を4.4度上回り過去30年で最高の、異例の暑さとなった。続く58月は4月に比べると涼しかったが、過去30年の平均のレベルであった。日照は、4月に過去30年平均に対し42時間増と記録的な日照量であったが、58月は不足した。しかし夏の終わりから秋にかけて再び日照に恵まれた。また雨は5月の降雨量が多かったが、シーズンの累計では過去30年平均をやや下回った。

〜 収穫前 〜

生産者が待ち焦がれていた高気圧が、830日からボルドーを覆った。このためぶどうは、フェノール類、アロマその他が成熟することができた。さらに、果皮の中のアントシアン類(ワインに色を与える)は、日中の暑さと夜間の涼しさが交互に訪れたために凝縮した。
 収穫期間は異例の長さとなった。メルロの収穫は910日から1010日の一ヶ月に渡った。生産者は品種による成熟度の違いや、区画やテロワールの違いを考慮しながら、区画ごとに収穫を進めた。これはぶどうを最適の熟度に至らせるためである。
 2007年は経験豊かな生産者のための年となるであろうことを強調しておかなければならない。継続的に病虫害対策を行い、グリーンハーヴェスト(摘房)や選果を実施した生産者は、良い果実を収穫するであろう。このような作業はコストがかかるが、今年のような難しい天候条件に対応するためには必要なものである。

<主な収穫公示日>
8
31():すべての辛口白AOC向けのソーヴィニヨン
9
7():辛口白AOC向けのすべての品種
9
10():甘口のAOC
9
18():すべての赤とロゼのAOC向けのメルロ、コット(マルベック)
9
25():すべての赤とロゼのAOC向けのカベルネ・フラン
10
1():すべての赤とロゼのAOC向けの全品種
 

ソーテルヌとバルザックのミレジムとなるか?

 10月半ば、ボルドーに2週間ほど滞在したとき、それはまさに「貴腐ワインびより」だった。朝は霧が立ちこめ、昼前からカラッとした晴天が訪れ、昼夜の寒暖差も素晴らしかった。

 2007年の貴腐ワインは、「2001年の再来」という呼び声も高い。ただ試飲では酸が歴史に残る貴腐ワインと比べて少し低く感じられた。よって少し重たさが拭えず、今の時代が求める洗練には届いていないのでは?というのが個人的な感想だ。もっともここは、「どのような貴腐ワインが好きか?」という、個人の嗜好に委ねられるレベルであると思うし、この地ならではの貴腐香がふんだんに付いた素晴らしいミレジムであると思う。

 

価格としては?

余りワインを酷評したことが無い弊HPで、このレポートは遠慮無く書くことにした。なぜなら、一部のシャトーのワイン価格は、今や「飲み物」の価格でなくなってしまっている。市場原理に刃向かう気はサラサラ無い。だがこの2007年の価格がそれなりの高額を維持するとすれば、個人的には、そこにお金を払う価値は感じられない(6月上旬時点では、限りなく2006年に近いか、やや低めの価格設定と聞いている)。

各ミレジムを「優・良・可」で分ける作業をしつつも、私自身は「優・良・可」をもっとポジティヴに捉えたいという思いがある。ワインが農産物であるとしたら、「優・良・可」が生まれるのは当然であり、もし全てのミレジムが「優」ばかりだったら、飲み頃を待つのにくたびれてしまう。「可」のミレジムだからこそ著名シャトーの価格も控え目で、購入や、早い時期から開けることに躊躇の無かった時代が、とても懐かしい。

一方でボルドーの少なからぬ生産者は、経営不振にあえいでおり、ブドウ畑の引き抜きにすら予算が足りないケースもあると聞く。余りにも二極化すると、中堅の実力者を見出しにくくなるのでは?と、不安になる。 

 

  著名シャトーのテイスティング・コメントなどは、6/15発売の「リアルワインガイド」にて、レポートの予定です。