〜 Les vendanges 2008 〜

2008年 ブルゴーニュの収穫状況 その3

2008年の収穫までの推移

 

 



 「
ブルゴーニュ 2008年収穫までの天候 (前半 〜ブドウの結実まで〜)」を弊HPにアップした8月以降、ブルゴーニュから届く最新情報は、余り芳しいものではなかった。

8月は2007年ほど多雨ではないものの、涼しく、余り光に恵まれない夏。夏のヴァカンスから戻った生産者たちは、留守の間に畑に発生・拡大したウドンコ病やベト病の対応に追われることも多かったようだ。9月に入っても前半は8月の天候は引き継がれ、ブドウの最終の成熟はゆっくりと進んだ。また畑によってはカビや腐敗も見られ、その除去が進められた。7月までは可もなく不可もなく想定内で進んでいた生育が、8月に入り暗転した、というのが現状だろう。
 
コート・ドールで収穫が始まったのは9/20(土)頃から。しかし9月後半は好天が続きそうなことと、また冷たく乾いた北風が吹き始めたため、さらなるブドウの成熟を見込んだ生産者たちは収穫開始を見送ることが多く、最終的には9/26(金)・27(土)頃が、収穫開始のピークになったようだ。
 

3年連続の難しい天候推移と、もう一度ビオって?

今年は畝に捨てられたブドウを沢山見る

 「何もかもが順調に進んだ」2005年。しかしその後は2008年も含めて、3年連続の難しい天候推移となった。

今年は収穫時期の畑に入ると、畑の様相、特に葉の色が区画によってくっきりと異なることに驚いた。まだ葉が緑をしっかりと保った畑と、赤茶けて葉を落としてしまった晩秋のような区画が混在する。

私は栽培の専門家ではないので明言はできないが、葉が早くから褐変・落葉してしまう理由は、病害、土壌の成分組成や水分の含有量など様々らしい。そして生産者たちによると、今年はベト病で葉が侵されたケースが多いという。ビオやリュット・レゾネ、またはそれらを行っていないと一言で言っても、病害への対策は様々で、それが異なる畑の様相を生んだのではないだろうか。

「葉が緑の畑?いいタイミングで、農薬をしっかり撒いたのだろう」「今年はボロボロのビオ畑が多い」「リュット・レゾネと言っても、今年は介入が最大限に多い年だった」というような言葉を耳にすると、改めてブドウという単一の植物だけを植えるモノカルチャーにおいて、人間が介入する影響の大きさを感じる。

ワインの世界では頻繁に「自然」という言葉が使われるが、ブドウをヒエラルヒーのトップとして人為的に栽培している限り、すでにそれは自然界にはありえない生態系だ。ブドウだけではなく、農業という形態自体が不自然であることは忘れてはいけない。そのあり得ない生態系にどのように雑草や微生物を呼び戻していくか、化学薬品ではなく自然界にあるものをどのように畑に用いていくのか、天候という「自然」にどのように対峙していくのか、それらがブドウにどのようなメリットがあり、最終的にワインの味わいにどのように反映されるのか。今年のように難しい年に畑に立つと、ブドウ畑、生産者、そして消費者というそれぞれの立場にとって、「何を持って自然とするのか」ということを考えさせられてしまう。
 「大切なのは結果的にブドウが健全であること」という生産者たちの言葉が、最もシンプルで、真理に近いのかもしれない。

 

9月後半の好天に救われた?

 私がブルゴーニュに到着した9月下旬、全ての生産者から言われたのが「ここ3週間近く、天候が良い」。朝晩は冷え込み、昼間は柔らかい日が差し、冷たく乾いた北風が続いたのだ。実際、畑に立っていても、時折パーカーが煽られそうな強烈な北風が吹く。

 ベト病など病害が葉を侵すと、光合成が困難になりブドウの成熟に差し支える。この点においては葉の機能が限られた後の太陽は、絶大な効果ではなかったのかもしれない。しかし後半の冷たく乾いた北風は腐敗やカビを押さえ込み、ブドウを乾燥・凝縮させた。また質を重視する生産者たちは何度も摘房を行い、残されたブドウに、この好天がブドウ樹に与えるエネルギーを集中させることを試みた(もちろん収量の低さと品質が直結するわけではなく、あくまでも必要に応じた摘房であることが重要)。最後に訪れた好天をチャンスに変えた生産者は多いと思う。

 

ドメーヌ毎の進歩

 ブルゴーニュの収穫時期に訪れるようになって、7回目。だがたった10年足らずの間に、収穫の風景は変わったと感じる。

 初めて収穫の風景を見たのは2002年。この頃はジュヴレイのグラン・クリュでも、畑に機械摘みされた跡を見ることがあった。さて今日、グラン・クリュで機械摘みが無いのか?と尋ねられると確かではないが、畑を見て回る限り、重要なアペラシオンでは手摘みが基本であると思う。

 また醸造所内で見ることが増えたのは振動式選果台。今では当然のような認識のあるヴァンダンジュ・ヴェルトや選果だが、「成ったものをわざわざ捨てるなんて冒涜だ」という価値観があった時代は長かった。近年は殆どの優良ドメーヌが、収穫時に何らかの形で選果を行うが、それでも振動式選果台を見かけることは2002年当時は殆ど無く、当時見かけた時には「わっ!サンテミリオンみたい!」と驚いたものである。しかし近年は目に見えて増えている。ちなみにブルゴーニュで醸造器具を販売・レンタルするアラブルト社によると、振動式が普及し始めたのは2002年。以降、同社ではニーズが最も増え続けている製品の一つだという。

 それ以外にも、いかにブドウを傷めずに移動させるか、ブドウ果汁を疲れさせないか、という観点で、トラック、運搬ケース、除梗機、ジラフの改良。圧搾機やポンプの使い方、ひいては冷却方法やSO2の加え方など細部に渡って、「ブドウやワインをデリケートに扱う」という姿勢が徹底してきていると思う。それらの徹底がどの程度までワインの味わいに反映されているかを感じているのは、まずは当の生産者であろうし、それらは細部であり根本ではない。しかし近年、難しいミレジムでも特に失望するワインが少なくなったことは、こういった細部が丁寧に試行錯誤された結果だと思うのだ。

 

 初めて2008年を試飲できるのは、オスピス・ド・ボーヌの試飲会だろう。

 難しいと言われた2006年、2007年。最終的には「当初の予想より、ずっと素晴らしい」というのが正直な感想だ。その意味で、2008年も期待している。

 次回の2008年レポートは、「醸造風景」と「オスピス・ド・ボーヌ」にて!