オスピス・ド・ボーヌ 2008 その3

148eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE

〜 品質が向上しつつあるオスピス・ド・ボーヌの背景とは? 〜

  (Beaune 2008.11.16)



 

 

  難しい天候推移で、フランスの有力紙「ル・モンド」や「ル・フィガロ」からは早々と「有望ではない」という烙印を押された2008年ミレジム。収穫後に取材した生産者たちのコメントを聞くと、それでも細心の注意を払って難しいミレジムを乗り切った印象を受け、試飲を楽しみにしていた。

 2008年をオスピス・ド・ボーヌの期間中に、私が試飲する機会は主に2回。ボーヌ市内のパレ・デ・コングレで開催される試飲会(2008年を主に、ブルゴーニュの生産者たちのワインが約3000種類展示される)と、オスピス・ド・ボーヌのプレス用の試飲。前者でまず、2008年への予想よりもポジティヴな感触を得て、次は後者へ。

 これがなかなか良かったのだ。前評判では白の評価が高かったが、私が驚いたのはむしろ赤。いくつかのキュヴェにはやや乾いたタンニンが見られたものの、全体的にはきれいな果実味の目の詰まりも良く、コンパクトにまとまり、ブドウ自体の品質の良さや、丁寧な醸造が垣間見える。2006年以来3年連続で難しいミレジムが続いているが、オスピス側の手腕の冴えが、明確になったミレジムであると思う。

プレス用の試飲会場にて。

 

 キュヴェ数も多く、ラベルは皆同じに見え(?)、私自身がワインを買う時に余り第一候補に挙がってこないオスピス・ワインだが、オスピスを一ドメーヌと捉えると、ここ数年の「オスピス・マーク」は品質の証と言っても良いかもしれない(もっともその後の熟成によって、ワインはまた左右されるのだが)。

 オスピスを簡単におさらいすると、畑面積は60ha(うちピノノワールが50ha、シャルドネが10ha)。22人がオスピス・ワインのために雇用され、栽培・醸造の責任者はローラン・マス氏である。キュヴェ数は赤が32、白が12の計43キュヴェ(2008年より、「ポマール プルミエ・キュヴェ エプノ」が加わった)。

 2008年に関しては、栽培で初めてほぼビオロジーを実践したミレジムでもある。近年、生産者のビオロジーへの変換には、市場のニーズや、フランスの農水省が推進する減農薬・ビオロジー化政策への対応があるのかもしれず、またビオロジーへの変換が結果に表れるには数年かかると言われている。しかし「少しずつでも、ワインのオリジナリティや特徴、ピュアさやナチュラルさを見つけ出していきたい」というマス氏の言葉は力強い。醸造や熟成の手法にもよるが、オスピスが栽培的にビオ・ワインとなり、さらには今よりもよりナチュラルな、近年多くの生産者がシフトするエレガントとフィネスを表現するワインになる日が来ても不思議ではない。

 また今年出品された樽数は、赤が450樽、白が94樽の計544樽であり、これは過去21年間で最も少なかった。病害や雹害があり、選果を厳しくした結果だが、収量は赤で23hl/ha、白で32hl/haとかなり低い。収量の低さ=高品質では全くなく、むしろ超・低収量は過剰な濃縮をワインに生むが、今回のオスピスの収量の低さは、マス氏の「オスピスとして品質が高いブドウのみを使った」という言葉通りなのだろう。

 

 落札価格の低下が、最終的なボトルの価格にどのように反映されるかは待たなければならないが、品質が上昇気流に乗っているワインをオスピスに見つけられたことは、単純に嬉しい。

 

オスピス・ワインの責任者、ローラン・マス氏。