オスピス・ド・ボーヌ 2010 

150eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE

〜 2010年の味わい。また中国の台頭など 〜

 (Beaune 2010.11.21)

 

 

 

150回オスピス・ド・ボーヌ競売会が11/21(日)に開催された。

近年、この時期のオスピスに通う理由は、最新のミレジム(今年なら2010年)を試飲する機会が多いからだ。今回はオスピスを含め、計約130種類の2010年を試飲することができた。

 

2010年の味わいは?

2010年のブルゴーニュにおける天候推移は、12/15発売号の「リアルワインガイド」でレポートしているのでここでは割愛するが、2010年のファースト・インプレッションは、天候推移の難しさから予想したよりもかなり良い。

まず赤・白ともに、現時点では例年よりもリンゴ酸が高く感じられた。マロラクティック発酵後に酸の印象は変わるはずなので、酸の質やバランスに関して今は言明できない。

そこで赤は、タンニンの質と果実味に重点を置いて試飲した。ピノ・ノワールは収穫前に、灰色カビ病の拡大が見られ、「ブドウの完熟を待つか、ブドウが健全なうちに収穫を終えてしまうか」という収穫日の見極めがとても難しかったと聞いている。よって試飲前に杞憂したのは、タンニンの質であったが、タンニンには2004年のような青さや、難しいミレジムにある乾きがない。2005年のようなスケールと緻密さはないが、とても良質でしなやかだ。また果実味には2009年のような圧倒的なヴォリュームはないものの、ピノ・ノワールらしいチャーミングさがある。きゅっと引き締まって目の詰まりが良く、適度な緊張感が心地よい。香りと味わいにも一貫性があり、コンパクトながらバランスが取れている。夏が涼しかった割には、とくに線の細さもなく、あくまでもファースト・インプレッションだが、瑞々しくクラシックなミレジムになりそうだ。

白は果実味が充実しており、やはり2009年のようなパワーは無いものの、適度な糖度の高さや厚みある。また非常に早い段階ながら、AOCの個性も生まれつつある。全体的には赤よりも白の方が、生産者の苦労は少なかったのではないだろうか。自然な密度や素直な伸びやかさが印象的で、余韻まで綺麗な集中力が続く。

毎年この時期に試飲をしてきて、もっとも難しかったのは2004年と2008年だったが、2010年はワインにとくに困難さというのは見つからない。もちろん生産者の力量が重要なのは言うまでもないが、個人的には期待の持てるミレジムになると予想している。

 

昨年と同じような写真だが、プレス用のオスピスの試飲会場にて。

 

オスピス・ド・ボーヌの価格

オスピス・ド・ボーヌの価格は以下。
 

ワインの一樽あたりの平均落札価格: 6958ユーロ(前年比 11.32%増)

: 6133ユーロ(前年比 12.65%増)

: 11437ユーロ(前年比 15.70%増)
 

今年は出品樽数が昨年よりも少なく(643樽。昨年は800樽)、希少性が生まれたこともあるが、一樽あたりの平均落札価格は、偉大なミレジムと言われる2005年や2009年よりも高い。オスピスの価格が市場価格に直結するわけではないが、ブルゴーニュ全体で2010年は収穫量が減っていることは、価格を引き上げる要素になるかもしれない。

 

オスピスの競売会場にて。


 

中国の台頭

 今回のオスピス・ド・ボーヌやクリスティーズの運営、競売会の前に行われたプレス向けの説明会は、かつてないほど中国に最大限の配慮をしたものだった。

オスピス・ド・ボーヌは大きな可能性が見込まれる中国に焦点をあて、オスピス・ド・ボーヌ慈善競売会の史上初めて、数々のイベントを中国で行ったほか、競売会当日には、中国の映画スターLiu Ye氏が招待された。

またブルゴーニュワイン事務局も、中国への販売促進を強化していく構えだ(プレス向けの説明会は、1/3が中国市場の話しに終始したのではないだろうか)。

中国にとって現在「高級ワイン」と言えば、ラフィットなどに代表されるボルドーの一部の著名シャトーである。ブルゴーニュにしてみれば、高級ワインの部門はボルドーに先んじられた感があるのだろう。ただし高級ワインの生産量がボルドーに比べて極端に少ないブルゴーニュが望んでいるのは、一部の高級ワインが需要過多になることで、さらなる価格高騰を招くことではない。中国に購入してほしいのは、「中間帯のワイン」、つまりヴィラージュやプルミエ・クリュである。AOCブルゴーニュやボージョレではない。現在中国に対するブルゴーニュワインの輸出量は世界14位であるが(フランスワイン全体での抽出量は世界10位)、中間帯のワインが売れることで、ブルゴーニュの輸出量が、量・金額ベースともに大きく伸びることを狙っているのだ。平たく言えば、「中間帯のワインまで、ボルドーに市場を奪われたくはない」というのが、ブルゴーニュの本音だろう。

ところで中国の高級ワインブームで高騰した一部のボルドーに、購入の見切りをつけた日本人消費者は私だけではないはずだ。何年先に飲めるかも分からないたった1本のワインに、10万円以上も払うのは、普通の感覚では馬鹿げている。そして生産量の少ないブルゴーニュに大量の中国の買いが押し寄せることを恐れている日本人消費者も、やはり私だけではないだろう。

ブルゴーニュのワインも、一部の著名ドメーヌのものは、すでに充分すぎるほど高騰している。もう買えない。はたしてブルゴーニュワイン事務局の狙い通り、中国は中間帯のワインに注目するのだろうか。私はそうは思わない。中国が注目するのは、まずはやはり著名ドメーヌのワインだろう。著名ドメーヌのワインが、ますます手の届かない存在になるのは遠い将来ではないと思う。また中間帯のワインも、もし中国が注目すれば、需要と供給の市場原理で、必ず価格は上がるはずだ。ブルゴーニュワイン事務局の分析では「日本の市場は非常に安定している」という安心材料なのだが、中国の台頭によって、もし今の需要と供給、価格の均衡が崩れる日が来れば、それは必ず日本のブルゴーニュ市場にも影響する。日本には根強いブルゴーニュ・ファンは確かにいるが、同時に世界中のワインを自由に選ぶ、広い選択肢を持つ市場でもあるのだ。個人的にはこれ以上の価格上昇により、日本人消費者のブルゴーニュ離れが起こらなければよいと願うのだが、、 。