Emmanuel GIBOULOT
〜一歩一歩、ビオ〜

(Beaune 2002.6.25


 

 VIVAVINというネゴシアンの試飲会でユベール・リニエのクロ・ド・ラ・ロッシュの1991〜2001年という、素晴らしい垂直試飲が行われた。その直後に試飲したワインは、リニエの印象に消されがちになってしまうものが多い中、エマニュエル・ジブーロのワインを初めて飲んだ。彼のブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ブラン 1999はずば抜けていた。その時の試飲コメントだが、

―ノワゼと、栗。カフェ。柔らかい酸とミネラル。熟成したコルトン・シャルルマーニュのよう(少し言い過ぎ?)―

となっている。最終的に彼のドメーヌにこう書き留めている。

―全てAOC以上。行くべき−  

テイスティング 2000&2001

ジーブロ氏

  アポイントの時間を予定していた午前の10時半から夕方の5時に変更してくれ、という電話がアポイントの数日前にエマニュエル・ジブーロ氏より入った。当日5時にセラーへ行くと、まさに畑から駆けつけてきた、という様子のエマニュエル・ジブーロ氏。というのも、ここ2週間ほど晴天続きで畑の全ての活動が活発になり、その結果畑での仕事も著しく増えているのだ。 彼は現在11のアペラシオンを生産している(ブルゴーニュ・アリゴテ、ブルゴーニュ ブラン&ルージュ、ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ブラン&ルージュ、コート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ、コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌ、サン・ロマン ブラン&ルージュ、ボーヌ・リュリュンヌ、リュリィ プルミエ・クリュ ラ・ピュセル ブラン)。今回は2001年のキュヴェをバレル・テイスティング、2000年のものをボトル・テイスティングした。テイスティング銘柄は以下。

 

2001年 バレル・テイスティング

白はアルコール発酵の全てを樫樽で行い、熟成も含めて12−15ヶ月(キュヴェにより最高18%の新樽)。現在マロラクティック発酵中のものと終了したものは、キュヴェによって違う。赤は温度調整器付き開放型木樽で醸造後、樫樽で14−15ヶ月熟成。

Blanc

*ブルゴーニュ・ブラン(ピノ・グリ、ピノ・ブラン、シャルドネが約1/3ずつ)

*ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ(樹齢25−35年。白ワインに非常に適していると言われる、白色泥灰岩。南東向きの斜面)

*コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌ(La Grande Chatelaine)(粘土石灰と小石。完璧な南向き斜面)

*コート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ(Les Pierres Blanches)(「白い石」という畑の名前通り、白色石灰が多い。ボーヌ・プルミエ・クリュ ブレッサンドの上部に位置する、南西向きの斜面)

 

2000年 ボトル・テイスティング

Blanc

*ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ

*ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ 1999

*コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌ

*コート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ

*サン・ロマン(白色泥灰岩。サンロマンでも上部に位置する。南西向き)

Rouge

*ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ

*ボーヌ・リュリュンヌ(Lulunne)(樹齢36−37年。ポマールとの境のボーヌの丘に位置する。小石が多く、南東向き)

 

まずは、2001年のキュヴェをバレル・テイスティング。

ブルゴーニュ・ブランのマニアックなセパージュに驚かされるが(これは各セパージュごとに試飲)特にピノ・グリは、現在ブルゴーニュではアロース・コルトン、ニュイ・サン・ジョルジュ、オーセイ・デュレスの3カ所にほんのわずか残っているだけらしい。そして珍しいだけではなく、アルザスのピノ・グリとは違う、少しレモン・バターを連想させる香りが印象的だった。アッサンブラージュ後、ピノ・グリはワインにグラな感じを与えるらしい。

又、ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイには顕著な石様のミネラルを、コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌには、マロラクティック発酵が終わっていないせいもあり、ポテンシャルのあるきらきらしたレモンの酸や、グレープフルーツの苦酸味を顕著に感じた。コート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュはマロラクティック発酵中と終了後のものを比較試飲したが、前者には新鮮な黄リンゴを囓った時のようなみずみずしさの中に、フリンティなミネラルを、後者にはより複雑さが増したミネラルを感じた。

そしてどのキュヴェにも共通しているのは、裏にねっとりとした甘さが潜んでいるということ。マロラクティック発酵が終わったものは「酸味が甘みを抱えている」とでも形容したくなるような絶妙な甘酸のバランスを見せる。そして土壌の特徴が味わいに素直に現れている。

 

 コート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ

次に2000年をボトル・テイスティング。

前回試飲会場で試飲した時よりも全体的に、よりミネラルのトーンの高さを感じる。熟成や抜栓後の時間によってこのミネラルが風味に溶け込んでいくのだろうが、AOC以上に感じられた大きな理由の一つに、この非常に質が良くポテンシャルのあるミネラルの存在がある。

ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ブラン 1999の今回の印象は抜栓直後だったせいか、アーモンド、草、藁、カカオの豆、白コショウ、石様のミネラル、蜂蜜の甘さ等、各要素がより鋭角な印象で感じられたが、やはりブラインド・テイスティングでオート・コート・ド・ニュイとは言わないだろう。

シェーブルの様な少し動物的なニュアンスが加わるコート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌや、焼酎に通じるようなアルコールの甘さを感じるコート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ、完璧な甘・酸・ミネラルのバランスを見せるサン・ロマンもそれぞれ魅力的だ。

 一方赤は梅や桜を感じさせるブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ、土、木、黒いスパイスをはっきりと感じるボーヌ・リュリュンヌ共々、後味に飲み飽きない酸があり心地よい。

 

2001年には色々悩まされた、と話す彼に、彼にとっての過去10年のベスト・ヴィンテージを尋ねてみた。すると、「答えるのは、難しい。私達がビオディナミを導入したのが90年で(ビオロジーは70年より)、稼働し始めたのは96年からです。毎年土へのアプローチが変わってきています。だから天候の良さ以外に、毎年生じる問題があって一概には言えません」

小さなパーセルを少しずつ持っているブルゴーニュの生産者は他の産地の生産者より、ビオディナミに移行することに、よりリスクを感じるようだ。彼の答えにはビオディナミのリスクに毎年まじめに立ち向かっている者の、正直な苦労と謙虚さが滲み出ていた。 


SO2について

 ビオ生産者を訪問していて感じることは、SO2に関する意見が顕著に分かれる、ということだ。

 彼もSO2はごく最低限の量(圧搾時と瓶詰め時)しか使わないが、「全く使わない」ということに関しては懐疑的だ。

 「ゼロだと、まず、イキが早い。数年でカタストロフ(壊滅的)な状態になっていたワインを、何度も飲んだことがある。セラーを出てから15度以下に必ず保てる保証なんて決してないんだ」

 「ビオが最近モードのように語られる部分もあるが、これは一つの農業体系であり、決してモードでは無い。でも一部の生産者の間ではSO2を使わないことこそが、最高のように語られる。これこそモードだ。SO2を使わないことと、シャプタリザシオンを行わないことが、まるで同じレベルで語られることはおかしい

 ベスト・ヴィンテージの質問と同じように、苦労した人間の正直な意見だ。

 ブドウや自然酵母、蔵付き酵母のポテンシャル、バクテリア、取引先の力量。それらが全て上手くバランスを取った時に、ごくごく一部の生産者がSO2を全く使わない、という手段を選ぶことが出来るのかもしれない。彼が言うように、ワインが死んでしまってはどうしようもないのだ。

日本で「SO2ゼロ」と紹介されている生産者でも、実際会って質問してみると「プレスク・ゼロ(殆どゼロ)」という答えが返ってくることの方が多い。ヴィンテージにもよるが、瓶詰め時にほんの少し使うケースが多いようだ。

SO2を使う、使わないより、与えられた環境で「どのように、より使わずにすむか」という問題に取り組む。逆説的だが、その手段の一つにビオディナミも挙げられるのではないだろうか?

 

美しい畑

 テイスティングの後、彼のコート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュとコート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌを見に行った。

 まずはコート・ド・ボーヌ ブラン レ・ピエール・ブランシュ。ここはボーヌ・プルミエ・クリュ ブレッサンドの上部に位置する、南西向きの斜面だ。車の前を横切るウズラの親子を追い払いながら、畑の頂上まで到着。 標高の高さに圧倒される。遙か向こうにアルプスやその手前にある、ジュラの街がぼんやり見える。美しい。背後には森があり、その香りも心地よい。そして「白い石」という畑の名前通り、白色石灰が多く、触るとほのかに暖かい。

 次にコート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌ。まさに森の中の畑!まるで秘密の場所に案内されたようだ。そして感動的なほど完璧な南向きの斜面。7時半を廻っていたが、1年中で最も日が長いこの季節、畑にもまだまだ容赦なく日が差している。

夏はここの仕事、本当に辛いでしょう、と思わず言うと、「まぁ、ブドウにはいいからね。それにここは周りもみんなビオだから、やりやすいんだ」

 そしてこの畑にもレ・ピエール・ブランシュに負けず劣らず、白色石灰がごろごろ。

二つの畑を見ているとあのねっとりとした甘さや、トーンの高いミネラルの味が口の中にまた蘇ってきた。

 

コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌの白色石灰

コート・ド・ボーヌ ブラン ラ・グランド・シャトレーヌ