Domaine GRAMENON   〜Deja vu デジャヴュ〜
(Cote du Rhone  2002.7.12)


 

グラムノン。何て印象が変わるワインなのだろう。

パリでグラムノンのメメ 1997年をブラインド・テイスティングした。テイスティング・コメントは「いちじく、甘草、オレンジビター、イチゴミルク、汗、紅茶の葉、干し芋。漢方っぽい甘さと旨みの典型的ビオ味→ロワールの濃いピノ」となっている。

やられた。メメだったとは。日本でのグラムノンのイメージも、ましてや「アペラシオン・コート・デュ・ローヌ」というイメージでもない。フランスに長い友人からは「グラムノンは、当てなきゃ駄目だね」と言われるが、私にとっては「晴天の霹靂」的メメであり、「ローヌに行く時=グラムノンに行く時」と固く決意したのだった。



ミシェルと息子さん。手にしているポスターだけでなく、ラベルも全てマダムがデザインしている

テイスティング 2001

 

ドメーヌ・グラムノンがあるモンブリゾンは、、ローヌ南部では最も北寄りのヴァンソーブルという区域にある。。やっと辿り着いたドメーヌ・グラムノンは、四方を自家ブドウ畑に囲まれた、標高300メートルに位置する小さなドメーヌだった。完全に独立しているので、ワイン造りには最高の環境だ。

笑うと目尻が下がる様子が、何とも言えず親しみやすい印象のマダムの説明を聞きながら2001年を試飲した。
2001年は全体的に軽い作柄だったので、7/12時点で例年より早く、既に全ての銘柄の瓶詰めが終わっていた(メメが最も遅く、7/4の瓶詰め)。又キュヴェ・パスカルはこのパーセルのグルナッシュの収穫前に不安定な天候が続いたので、2001年はキュヴェ・パスカルの名前では瓶詰めしていない。

 

テイスティング銘柄は以下。

*コート・デュ・ローヌ ブラン(クレーレット100%。樹齢20年)

*コート・デュ・ローヌ ブラン ヴィ、オニエ(Vie,on y est)(ヴィオニエ100%。Vie,on y estとは「人生、ここにあり」の意。コート・デュ・ローヌ ブランをヴィオニエ100%で生産することは@@@。そこで少し洒落でつけた名前。樹齢20年)

*コート・デュ・ローヌ ルージュ ポワニェ・ド・レザン(Poignee de Raisains:一掴みのブドウ)(グルナッシュ主体、サンソーを酸味とフルーティさを出すために年により5−10%加える。樹齢7−8年)

*コート・デュ・ローヌ ルージュ ル・グラムノン(グルナッシュ85%、シラー15%。樹齢10年)

*コート・デュ・ローヌ ルージュ ラ・シエラ・デュ・シュッド(La Sirra du Sud)(シラー100%。樹齢30年)

*コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ ヴァンソブル・レ・オー・ド・グラムノン(Vinsobres les Haut de Gramenon)(グルナッシュ80%、シラー20%。樹齢40年。この畑はドメーヌより20km離れた場所にある)

*コート・デュ・ローヌ ルージュ ラ・サジェス(La Sagesse:英知)(グルナッシュ100%。樹齢50−60年)

*コート・デュ・ローヌ ルージュ セップ・ソントネール キュヴェ・メメ(Ceps Centenaires,Cuvee Meme)(グルナッシュ100%。樹齢100年以上。セップ・ソントネールとは「100年株」の意。又メメは「おばあちゃん」の意

 

一時発酵用のステンレスタンク 一時発酵用のセメントタンク

 醸造に関しては、白はステンレスタンクで一時発酵の後、大樽熟成。赤はラ・サジェズ、キュヴェ・パスカル、キュヴェ・メメは木製の大樽で一時発酵の後、バリック熟成。それ以外の赤はセメントの大樽で一時発酵の後、大樽熟成(ただしヴァンソブル・レ・オー・ド・グラムノンのグルナッシュはバリック熟成)。全ての醸造熟成過程に置いて、新樽は使わない。清澄、濾過も行わない。SO2の使用はアッサンブラージュ時に少し入れるだけだが、年によって全く使用しないこともある(最近では1995年)。


 

 まずクレーレットで造られたコート・デュ・ローヌ ブランには、はっきりとパスティスの中にあるようなスターアニスの風味があり、思わず「なんてプロヴァンサルな風味なんだ!」と言うと、「でしょ?」とマダムはにっこり。

 グラムノンのヴィオニエは、個人的に最も好きなヴィオニエの一つである。柔らかい作りたての瓶に入ったヨーグルトのような風味が、いつも入っているからだ。

 ポワニェ・ド・レザンのイメージは「赤とピンク」。赤い果実、ピンク・ペッパー、桜の花。

 ル・グラムノン。柔らかいが豊富な酸と旨みが、甘く細かいタンニンとしっくりとまとまって滑るように喉を落ちていく様に驚かされる。

一時発酵用の木製タンク(写真に写っている男性の身長が186cm) 熟成用のバリック。壁には時間を感じるカビがしっとりと生えている。

 ラ・シエラ・デュ・シュッドになると、イメージは一変して「ピュアな黒」。黒い果実や、純度の高い黒砂糖、ひきたてのブラック・ペッパーが感じられる。しかし決して重くない。

 ヴァンソブル・レ・オー・ド・グラムノンは、ブドウそのものの味わいの中にコンフィされたカシスの味わいがはっきりと入っていて、心地よい甘みに複雑さが増す。

 ラ・サジェスには前述の果実やスパイスの他に、リキュールの香り、つまりパスティスや、グランマニエの香りをはっきりと感じることができる。

 そして、キュヴェ・メメ。ラ・サジェスにあったリキュールの香りのトーンが格段に高くなる。とろとろに冷やしたウォッカに感じるようなスピリッツの甘さもある。樹齢の古さを聞いていなかったとしても、明らかに他のワインとは違うレベルの凝縮感や、透明感がある。瓶詰め8日後ということでまだ落ち着いていないにしろ、甘く細かいタンニンは心地よい。

 「2001年は並年」とマダムが言うように(因みにマダムにとっての最近の良昨年は、1995、1998、2000年とのこと)、瓶詰め直後のものも含めて今飲んでも十分に美味しく(特にタンニンが柔らかい)、逆に2001年はセラーで熟成させるタイプではないかもしれない。しかしこの「軽く深く旨く後を引く」スタイルは、どの年においてもグラムノンに共通しているようだ。

 

グラムノンであること

 とにかく、飲みやすい。テイスティングであるにも拘わらず後半からは殆ど飲み込んでしまったが、全く最後まで疲れない。「杯が進む」とでも言うのだろうか、すいすいと喉を通った後、旨みの優しい余韻のせいで「もう一杯!」と言いたくなる味なのだ(またそう言ってしまえる親しみやすさもある)。

 最初の一杯は素晴らしく感じても、杯を重ねるごとに疲れるワインは個人的に苦手です、とマダム言うと、マダムは「私はコンクールのためにワインを造っているのではありません。先日もラングドックに行ってあるワインを飲んだのですが、正直疲れてしまいました」と肩をすくめながら答えてくれた。そして楽しそうにこんな話をしてくれた。つい先日友人がマダムのワインを6本買って帰ったらしい。すると翌日早速友人からお礼の電話が。「美味しくて、全部飲んじゃったわ!」。6本全部よ、とマダムが可笑しそうに笑う。しかし友人は翌日もすっきりとした朝を迎え、結果機嫌良くマダムに電話した、ということなのだ。

 グラムノンのポスターにも、グラムノンに至る道にある表札にも、そしてワインのカートンにも「Le Vin en Liberte」と書いてある。自由な(自由に)ワイン、とでも訳せばよいのだろうか。見る者にとっても「自由に」解釈できる言葉だ。ヴィ、オニエ(Vie,on y est)の例を思い出せば、「ワインがまずは飲み物である」ことを忘れてしまっている人達に一矢報いている言葉なのかもしれないし、またはワイン側に立って用いた言葉なのかもしれない。

 しかしこの言葉に「グラムノンであること」が込められているように感じる。「自由」という言葉を「自然」と置き換えても良いかもしれない(ビオである、等そんな狭い範疇ではない)。

 ブドウが望むように手助けしながら放任し、そうやって育てたブドウを飲み物に変え、その飲み物が時に友人のある夕食を賑わすことになった。畑、セラー、友人宅でのテーブル、どの場所で起きたことも素晴らしいが、決して特別なことではない。ごく自由で自然な選択と流れ。そしてマダム自身にも達観した人に共通して感じる、ある種の「抜け」がある。

 「Le Vin en Liberte」とはどのような思いで使っている言葉ですか、と質問しかけて、やめた。聞く前に飲め、そしてその質問は10年早い。なんとなくそんな気がしたからだ。

 

Deja vu(デジャヴュ:見たことが、ある)

メメのブドウの樹(樹齢100年)

全てが青々と

 グラムノンのワインを飲むと、試飲コメントは長くなる。それはグラムノンの中に、自分の経験に置き換えることができる香りや味わいが多いからだ。単純に言えば懐かしい味わいがふんだんにある。マダム曰く「グラムノンには、いつもショコラや、オレンジ、甘草の味わいがあると思う」と言うが、それを「チョコ、みかん、植物性の甘いもの全て」という自分のベタな記憶と置き換えても許されるだろう。

 そして畑の風景。緑の香りが濃く、裸足になりたいような健康な土、頭上に何も遮ることのない空、足元に落ちるダイレクトな影、肌の焼ける感覚、セミの声、人のいない昼下がり。クラブ活動もない小学生の頃に感じた夏休みや、沖縄の離島でぼーっとしている時の感覚と酷似している。デジャヴュ。ワインの味も、そのワインを生み出している風景も、初めて出会うものではない。ひたすら懐かしい。

 グラムノン。常に鮮烈な印象を残し進化しながら、原点に返っていくワイン。ボトルを前にした時に杯を重ねてしまうだけでなく、パリに帰ってきてももう一度「戻りたい」と思わせる、不思議な生産者である。