Domaine Philippe CHARLOPIN 〜ジュヴレイ・シャンベルタンの貫禄〜

  (Gevrey Chambertin 2003.6.18)

 

 

 

フィリップ・シャルロパン氏。大きな体躯に反して、とにかくテンポが早い早い。試飲する時間を確保するのがやっと!

「かのアンリ・ジャイエのエスプリを継承し、かつアンリ・ジャイエに賞賛される男」「ジュヴレイ・シャンベルタンにベルナール・デュガ・ピ、ドゥニ・モルテ、そしてシャルロパンありき」「8つのグラン・クリュ(注)を醸造できる恵まれた生産者」。

これほどの賞賛を浴び、かつ約16haの畑で24のアペラシオンを生産しているのにもかかわらず(年間生産量約60000〜75000本)、なぜか市場における彼のワインの露出度は低いとは思わないだろうか?露出度の低さはプルミエ・クリュ、グラン・クリュクラスになると尚更である。聞けばワインの大半は個人顧客に直売されると言うが、とにかく有名でありながら未だミステリアスな要素も多い生産者なのである。

訪問日当日、その前のアポイントがずれ込み30分ほど遅れる旨を電話で伝えると「30分も待てない」。時間を変更して頂いて行った試飲もとにかくペースが早い(シャルロパン訪問が2回目という同行者によると、これがシャルロパン・ペースであるらしい)。これではミステリアスな部分を解明する時間が無いではないか!

 

(注)シャルロパンが持つ8つのグラン・クリュは以下

シャンベルタン、シャルム・シャベルタンン、マジ・シャンベルタン、マゾワイエール・シャンベルタン、クロ・サン・ドニ、ボンヌ・マール、エシェゾー、クロ・ヴージョ

 

 

反過剰テクノロジー

 テロワール回帰の手段として自然なワイン造り、すなわちもう一度土に向き直り古典的手法にも再度真理を見出す優れた生産者は、現在のブルゴーニュに増えつつある。そしてその筆頭の一人がフィリップ・シャルロパン氏と言えるだろう。

長い歴史の中で観察を重ねた結果、明らかに違う味わいを持つ土地があった。それがフランス・ワインのアペラシオンが持つ真の価値だ。シャンベルタンの持つ地質、斜面の向きと角度、ミクロ・クリマは唯一無二のはず」。

 殆ど会話を許される時間も無い中で、アペラシオンが何であるべきかが言葉短かに説明される。

畑が自然にきちんと機能していれば、逆浸透膜なんて過剰なテクノロジーは全く必要ないはずだ。あなた方を昼間30分待つのも惜しければ、仕事の後に試飲するのは気が進まなかったのも、そこにある。畑に出ることは本当に大切だし、手作業で真面目に働けば仕事の後は本当に疲れるものだからね。とにかく最も大切なのは自分の区画の個性を把握すること、そしてその個性が最終的には生理学的に自然な状態で熟したブドウとなって表れることだ。

 収穫にしたって、状態を見ながら手作業で進めれば3週間かかることもある。でも機械で何も考えずに収穫してその後テクノロジーを駆使すれば、3週間で収穫どころかマロラクティック発酵まで持っていくことも出来るかもしれない。そしてそれなりのワインが出来るもの事実。でも僕にとってグラン・ヴァンというのは土地の個性のあるワインを指すのであって、そんなやり方じゃ個性を表現できるはずがないからね。炭酸飲料でもあるまいし」。

 意味のない30分を惜しむ彼の言葉からは、過剰なテクノロジーとは正反対に位置した、非常にじっくりとした慎重な仕事ぶりが透けて見える。

 ちなみに彼は畑仕事ではリュット・レゾネ(非常に厳密な減農薬)を採用し、低収量を実践している。また醸造においては選果後状況に応じて除梗、低温マセラシオン後、アルコール発酵を行い、樽熟成期間中は瓶詰め直前まで澱引きを行わず、清澄・濾過も行わない。

 

テイスティング

 

 今回のテイスティングは以下(全て2002年のバレル・テイスティング。試飲順に記載)

 

*ブルゴーニュ・ルージュ

*マルサネ モンシュヌヴォワ(Montchenevoy)

*ジュヴレイ・シャンベルタン VV

*ジュヴレイ・シャンベルタン エヴォセル(Evocelle)

*マゾワイエール・シャンベルタン

*シャルム・シャベルタンン

*マジ・シャンベルタン

*シャンベルタン

*ブルゴーニュ・ブラン

*フィサン・ブラン

 

 「濃い」「薄い」で言えば間違いなくシャルロパンのワインは「濃い」。そしてその過剰な樽などから来る濃さではなく、ピノ・ノワールの果実の旨味や土のニュアンスが凝縮したものである。近年ワイン業界に旋風を巻き起こしているフレデリック・マニャンは彼の友人であり、かつ彼が助言も行っているのだが、シャルロパンよりマニャンを飲む機会が多かった私は、最初のブルゴーニュ・ルージュを飲んだ時に真っ先にマニャンのワインを思い出した。

 それにしても、何というシャンベルタン!こんなグラマラスなシャンベルタンはお目にかかったことがない、と言っても過言ではない。イチゴやラズベリー、オレンジ・リキュールに浸した干しぶどうなどをふんだんに焼き込んだ肌理の細かいフルーツ・ケーキと、しっとりとしたチョコレート・ケーキをミルフィーユ状に細かく重ねてその周りをスミレで飾り付けたような、そんな圧倒的な豪華さである。しかし決して嫌味ではなく、それは「王」の豊かさと余裕である(シャルロパン氏には「シャンベルタンには力があるだろう」と簡単にまとめられたが)。マゾワイエールの酸と重みのバランス、シャルムにあるエレガントなミネラルと細かなカカオ、マジの女性的な香水のニュアンスと力強さの絶妙さ。ジュヴレイ・シャンベルタンのグラン・クリュを利き比べる、最高に贅沢なテイスティングである。

 またマルサネという普段軽視しがちなアペラシオンも彼の手にかかると見逃せないワインになる。そこにあるのは甘草や赤い果実の良い意味で少し田舎っぽい優しい甘さと、ところてんのような(?)海を感じる柔らかいミネラル。背筋の通った綺麗な酸。シャルロパンの上級ワインが手に入らない、と嘆くワイン・ファンにも超ダーク・ホースとしてお薦めしたい1本である。マルサネに開眼することも間違い無しだ。

 目の前にいるシャルロパン氏の堂々とした体躯にも、そしてそのワインにもあるのはズバリ、「有無を言わせない貫禄」である。

 

訪問を終えて

 

 用意していた質問の1/3も出来ずにつむじ風のように試飲が終わってしまった。

「毎月ジュヴレイ・シャンベルタンに来てるのなら、12月にでもまたおいでよ。ワインももっと落ち着いているし、変化がよく分かるよ」。

 仕事の邪魔さえしなければ(すみません、忙しい時にお邪魔して、、、)、彼は非常に寛容なブルっ子なのである。ちなみに余談だがジュヴレイ・シャンベルタン村にある唯一のワイン・バーは彼の娘さんが経営しているものである。こちらものんびり広々とした空間が心地よい、田舎ならではのお薦めのワイン・バーだ。おおらかそうな娘さんと片言の日本語を交わしながらワインを飲むのも、ジュヴレイ・シャンベルタンを訪れた時の小さなお楽しみである。