Domaine de la COURTADE 〜進化する島ワイン〜

ドメーヌ・ド・ラ・クータード

 (Ile de Porquerolles 2003.3.21)

 

 

 

 一目見て、「気合い入っているなぁ」と思わせるボトルに時々出会う。手に持つとずしり、と重かったり、瓶底のくぼみが深かったり、肩がクラシックにいかっていたり、蝋で封印してあったり。そしてAOCコート・ド・プロヴァンスであるドメーヌ・ド・ラ・クータードのボトルもまさにそんな感じだ。その少しいかり肩のボトルを手にした時には「むむ。頑張っているぞ」という生産者とワインの意志を感じるのだ。

 実際ドメーヌ・ド・ラ・クータードは頑張っているのである。1983年創立という新しいドメーヌながら、2003年のベタンではAOCコート・ド・プロヴァンスとして唯二の一つ星を獲得。ベタンの主筆、ミシェル・ベタン氏に「偉大なレベルに成長するのに時間を全く無駄にしなかったドメーヌ」と評されている。

ポークロール島から臨む地中海。暑すぎる夏よりも3月の地中海ブルーの方が明るく、美しいそうである。ポークロール島は国定自然公園にも指定されている美しい島だ。

 そのドメーヌ・ド・ラ・クータードはマルセイユの南東、トゥーロンという港町から更に船で20分ほど南下したポークロールという島にあった。地中海にぽつん、と浮かぶ小さな島である。

 

 

ポークロール島のクリマとは?

 

 ところでこのポークロール島では紀元前1世紀の地層から、ブドウの破砕機が発掘されている。フェニキア人によりマルセイユ付近でワイン栽培が始まったのは紀元前6世紀と言われているが(その後シーザーのガリア占領と共に、ブドウ栽培は北に拡大)、その流れの中にこのポークロール島もあったというわけだ。一体ポークロール島の何がブドウ栽培に適しているのか?

 それにはまず、「フランスNo.1」と言われる圧倒的な日照量が上げられるだろう。年間日照時間は実に3000時間、365日中、294日は晴れている計算である。そうなるとブドウは過熟による酸不足や成長時の水不足が懸念されるが、それを助けているのが島を取り囲む海の存在である。

 海に「包まれた」ようにある島は一定の湿度と熱エネルギーを約束されており、標高こそ高くないもののいくつかの小さな丘陵もあるこの島では、最高気温でも27℃程度である。またドメーヌ・ド・ラ・クータードを例に挙げれば、これらの丘陵を利用して、より酸が必要とされる白やロゼ用のブドウは北東向きの斜面に、赤のプレスティージュ用のブドウは南あるいは南西向きの斜面に植えられている。同時に最低気温が6℃を切ることが滅多に無いこの島では霜害も非常に少なく、あっても年に1、2回である。そしてブドウが植えられている土壌は片岩(変成岩の一種)の断層だ。

 まさに「島気候」でブドウが育まれている、と言えるだろう。

 

ドメーヌ・ド・ラ・クータード

 

 現在約30haを所有するドメーヌ・ド・ラ・クータードであるが、畑の起源はポークロール島にあるドメーヌの中で最も歴史の古いDomeine de l’Ile(ドメーヌ・ド・リル。直訳したらそのまんま「島のドメーヌ」だ!)が、20世紀初頭に夫人のために買った土地を3つに分けたことに遡る。この3つが現在ポークロール島にある3ドメーヌとして独立しており、ドメーヌ・ド・ラ・クータードは1983年、ニース近代美術館などの建築家であるアンリ・ヴィダル氏によって立ち上げられ、その後ディジョンやボーヌで経験を積んだリシャール・オーテル氏を醸造長として迎え入れた。

 ドメーヌ・ド・ラ・クータードの畑や醸造を表現するには、先述のミシェル・ベタン氏の「偉大なレベルに成長するのに時間を全く無駄にしなかったドメーヌ」という言葉が最も適切であろう。

 資金的に裕福なのであろう、ドメーヌ・ド・ラ・クータードでは、必要と思われる設備投資を躊躇せずに実践している感がある。清潔で、十分な広さながら動線がきちんと設計された無駄の無いセラーには、ミクロ・ブラージュを実践できる近代的で高さのあるステンレスタンク、シャトー・ラトゥールから買い取っている樽(1−2年使用のもの)等が整然と並んでいる。また畑の仕事は1999年よりビオロジーを採用している。そしてこれらの条件をフルに活用して造られるワインが目指すスタイルは、ずばり「Vin de garde」、すなわち長期の熟成を経て飲まれるワインなのだ。

 ところでドメーヌ・ド・ラ・クータードで生産されているワインは全部で5種類である(ラ・クータード ルージュ、ブラン、ラ・キュヴェ・アリカストル ルージュ、ロゼ、ブラン。アペラシオンは全てコート・ド・プロヴァンス)。スタンダード・キュヴェ名である「アリカストル(Alycastre)」とはポークロール島に言い伝えられる伝説の竜に由来する名前で、こんなところはいかにも島で育まれたワインらしいが愛嬌がある。

黄色い花(何だろう)がなびく畑。この写真は赤ワイン用のムールヴェードル。

各ワインの簡単な醸造などの説明は以下である。

@    ラ・キュヴェ・アリカストル ルージュ

セパージュはグルナッシュ33%、ムールヴェートル66%。100%除梗。28−35℃の温度で行われるアルコール発酵は約15日間。この間毎日ルモンタージュ、ミクロ・ブラージュを行う。フリーランジュースはタンクの中に戻し、ミレジムによるが20−50%はバリック熟成、残りはタンクで熟成。卵白で清澄後瓶詰め。

A    ラ・キュヴェ・アリカストル ロゼ

グルナッシュ、ティブーロンは直接圧搾方、ムールヴェートルはフリーランジュースの形でアッサンブラージュされる(各セパージュは約1/3ずつ)。100%除梗。デブルバージュ後、22℃までの温度で行われるアルコール発酵は約15日間。この間毎日ミクロ・ブラージュを行う。フリーランジュースはタンクの中に戻し、ミレジムによるが20−50%はバリック熟成、残りはタンクで熟成。瓶詰め前に低温状態でワインを落ち着かせ、酒石酸などを沈殿させ、清澄後瓶詰め。

@    ラ・キュヴェ・アリカストル ブラン

セパージュは100%ロール。6時間の果皮浸漬マセラシオンを行い、5−6時間かけてゆっくりと圧搾する。デブルバージュ後、ステンレスタンクにて24℃までの温度でアルコール発酵が行われる。アルコール発酵中はミクロ・ブラージュが行われる。瓶詰め前に低温状態でワインを落ち着かせ、酒石酸などを沈殿させ、清澄後瓶詰め。

A    ラ・クータード ルージュ

ドメーヌ・ド・ラ・クータードのプレスティージュ・ワイン。セパージュはムールヴェートルがほぼ100%(畑は高度の高い、南、あるいは南西向きの斜面に位置する。収量は30−35hl/ha)。100%除梗。アルコール発酵は約3週間。この間毎日ルモンタージュ、ミクロ・ブラージュを行う。100%バリック熟成、期間は10−14ヶ月。

B    ラ・クータード ブラン

ドメーヌ・ド・ラ・クータードのプレスティージュ・ワイン。セパージュはロールがほぼ100%(収量は40hl/ha)。アルコール発酵は約3週間。果皮浸漬マセラシオンを行い、アルコール発酵後(この間毎日ミクロ・ブラージュを行う)、30%バリック熟成。熟成期間中(9ヶ月)はバトナージュを行う。

 

 

テイスティング

 

 試飲銘柄は以下。

     ラ・キュヴェ・アリカストル ブラン 2002(瓶)

     ラ・キュヴェ・アリカストル ロゼ 2002(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 2001(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 2001(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 2000(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 1991(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 2001(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ルージュ 2001(タンク。バリックでの熟成を経過、アッサンブラージュ後)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ルージュ 2000(瓶)

* ドメーヌ・ド・ラ・クータード ルージュ 1990(瓶)

 

 普段10年以上の熟成を経たコート・ド・プロヴァンスなど飲む機会はまず無いのだが、今回はドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 1991とドメーヌ・ド・ラ・クータード ルージュ 1990を試飲する機会に恵まれた。

 ドメーヌ・ド・ラ・クータード ブラン 1991はほどよくシェリー様の酸化が進んでおり、乾いた藁、蜂蜜、ブリオッシュ、アーモンド、干しバナナのような香りが心地よい。口に含むとまさに「海のミネラル」とでも呼びたいようなヨード感のあるミネラルと甘味が美味く混ざり合う。

 またドメーヌ・ド・ラ・クータード ルージュ 1990にはムールヴェードル由来の馬小屋を想起させられるアニマル香や、スーボア、シャンピニオン、漢方、葉巻の香りがあり、タンニンのこなれた味わいはアミノ酸の旨味に溢れている。

 ともに熟成のピークを迎えていると思われるが、水代わりに飲むようなコート・ド・プロヴァンスとの違いは当然ながら歴然としており、試す価値は十二分にある。ワイン単体で飲むのも面白いが、こなれたワインならではの食事との相性の良さも期待できる。

 

進化する島ワイン

 

 「発酵・熟成期間中はワインの酸化の進行に非常に気を遣う」と若き醸造スタッフ、グレゴリー・ギベルジア氏は語るが、既に採用されているミクロ・ブラージュの手法に加え現在研究中なのは、樽材の選択、すなわち焼き加減、木の種類やその組み合わせである。

 これらがワインの風味に影響することは必至であるが、ポークロール島という小さな島でこのような試みが現在進行形で行われている、ということ自体に正直かなり驚かされる。

 独自の島気候とこの研究熱心さがある限り、ドメーヌ・ド・ラ・クータードという島ワインは進化し続けるのであろう。