Vincent GIRARDIN 〜エシェゾー最新情報〜 6/19


* この文章は
生産者巡り(裏話)
 6/16〜20 〜暑すぎるぞ、ブルゴーニュ!&ヴァンサン・ジラルダンのエシェゾー最新情報〜
に記載されたものと同じです。
 

 ヴァンサン・ジラルダンは予想していたドメーヌとは全く違った。とにかく大きいのだ。普段小規模な生産者ばかり訪れている目には、眩しすぎるほど新しく、デカイ。そしてその大きさにかかわらず、おそろしく見付けにくい。なぜなら彼らは昨年6月サントネーからムルソーに引っ越し、しかしその住所はムルソー村の中心から全く離れており、ドメーヌの標識(フランスのワイン産地でよく見かける「ドメーヌはこちら」っていうやつである)を依頼したのも1年前なのだが、その標識はまだ出来上がっていないからである(広報の人曰く「ここはフランスだからね。ははは」)。

 敷地内にはいると試飲用のサロンに始まり、奥に案内されると赤・白ワイン用の醸造施設がそれぞれ一つずつ、そして同じく熟成庫がそれぞれ一つずつ。それぞれが清潔、かつ整然としていて、これまたデカイ。聞くと年間生産量はネゴシアンものも入れると40万本(これはメドックの小規模なシャトーよりも多い)、年間に仕込むキュヴェは約60種類(瓶詰めして出されるものは40種類近く)であるという。    

昨年ルイ・ジャドといった10以上の著名ネゴシアンを出し抜いてドメーヌドメーヌ・アンリ・クレールとピュリニィ・モンラッシェのバタール、ビアンヴニュを含む特級、1級や、エシェゾー、クロ・ヴージョの18年間のリース契約を結び、更にドメーヌの持株会社の株を購入できた理由が理解できるような気がする。この敷地内にはジラルダン氏の確固たる財力と若さが反映されている。

 

ところで試飲を進めながら、日本でも評判の「DRCのエシェゾーの畑から購入した葡萄で作られたDRC」に話題が及んだ時のことである。ジラルダン氏の最初の反応はこうだった。

「DRCからって、誰がそんな間違えたこと、言っているの?」

―ではDRCからでは、ないのですか?

「それは2000年までのこと。今はアンリ・クレールと契約した畑からだ。ところであなた、DRCのワインをどう思う?」

―素晴らしいと思いますが。

「そうかな、DRCは薄いし軽いよ。エシェゾーをテイスティングした時に、僕は平均だな、と思った。そこで聞くけれどあなたがニュイで好きなドメーヌは?」

―挙げるとキリがありませんが、今年特に感動したワインはデュガと、デュガ・ピィ、そしてパカレです。

「ふーん、、、。じゃあ、ドゥニ・モルテはどう思う?」

―素晴らしいと思うしやはり大好きなドメーヌの一つですが、時々『モルテ味』と樽がやや強すぎてテロワールが解り辛いところがあります。

「分かったよ」

 

 試飲は続く。それはコルトン・シャルルマーニュから、クロ・ヴージョ、そして渦中の(?)エシェゾーにまで及んだが、それらはどれも甘くとろりとリッチに凝縮していながら、テロワールを力一杯「見せている」。しかしテロワールが隠れることは、決してない(同行者であるHP「ブルゴーニュ魂」の主催者、西方さん曰く「セミナーに使いたいなぁ。分かりやすい」)。そして美味い。

 ジラルダン氏が批判したスタイルが「テロワールを自然に感じとる」ものだとすれば、ジラルダン氏のスタイルは「テロワールのエンターテイメント」だ。前者が陥る失敗があるとすればそれは余りにも「感じる」ことは広域すぎて、ともすればあやふやな着地点に降りてしまう、ということで、逆に後者が陥るかもしれない失敗は「見せ方が下品になっては台無しである」ということだと、私個人的には捉えている。もちろん両者にセンスが必要不可欠なことは言うまでもなく、その点でジラルダン氏は見せ方が美味い。彼のワインを試飲して思い出したのは北ローヌの「フランソワ・ヴィラール」のワインである。センスが良いのだ。

 そしてDRCに対する彼のこの意見には反対する人間は多いだろう。しかし、だ。もしかして何か事情があるのかもしれないが、生粋のブルゴーニュっ子でありながら、ここまでばっさりとDRCのエシェゾーを切り捨てる人間がいるだろうか?ある意味、潔く、かっこいい。そして「薄い、濃いではない、テロワールのニュアンス」こそがブルゴーニュの帰るべき道である、と考えるブルっ子が増えつつある中(私も個人的にはこちら側)、「凝縮して分かりやすく、誰にでも美味い」という自分のスタイルに躊躇ない姿勢も、これまたかっこいい。誰も彼もが同じスタイルに同調すればするほど、当然ながら一つのレジョン自体の魅力は失われるのである。

 ともあれ、「とことん、やって見せてくれ、ヴァンサン・ジラルダン!」だ。力のある主張は貴重である。そしてそれを出来る人はなかなかいないのだ。

 

ジラルダンの醸造設備(の一部)。

 

 

ヴァンサン・ジラルダン氏。

ドメーヌ設備全景。

 

 

参考:ヴァンサン・ジラルダンが生産するワインは以下(ドメーヌのパンフレットより)

マランジュ クロ・デ・ロワイエール

サントネー グラヴィエール

サントネー クロ・デ・タヴァンヌ

シャサーニュ・モンラッシェ モルジョ

シャサーニュ・モンラッシェ クロ・ド・ラ・トリュフィエール

バタール・モンラッシェ

シュヴァリエ・モンラッシェ

モンラッシェ

ピュリニィ・モンラッシェ レ・ザンセニエール

ピュリニィ・モンラッシェ レ・コンボット

ピュリニィ・モンラッシェ レ・シャンガン

ムルソー レ・ナルヴォー

ムルソー シャルム

ヴォルネー サントノ

ヴォルネー シャンパン

ポマール リュジアン

ポマール クロ・デ・ランボ

ボーヌ クロ・デ・ヴィーニュ・フランシュ

コルトン・ルナール

コルトン・ブレッサンド

コルトン・シャルルマーニュ

エシェゾー

クロ・ヴージョ

シャンボール・ミュジニィ レ・サムールズ

シャンボール・ミュジニィ レ・シャルム

クロ・ド・ラ・ロッシュ

クロ・サン・ドニ

ボンヌ・マール

シャルム・シャベルタンン

シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ

ラトリシエール・シャンベルタン

ジュヴレイ・シャンベルタン ラヴォー・サン・ジャック