Domaine Philippe et Vincent LECHENEAUT

〜最新ワイン、2002年モレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルムを利く〜 

 (Nuits−St−Georges 2003.5.29)

 

 

 

 「優れた」コート・ド・ニュイの生産者が2002年というミレジムについて悪く言うのを聞いたことがない。

 ここで「優れた」と限定するのには理由がある。

 

ヴァンサン氏。外国人にも解りやすい語彙のフランス語でゆっくりと説明してくれる。

―2002年9月初旬の大雨は南フランスでは大損害を与え、ここブルゴーニュでも1週間ほどよく雨が降ったが、十分なチャンスのある年だ。もし収穫を待てなくなるとしたら、熱によるブドウの腐敗が見られた時だろうが、少しの涼しい風が吹けば、この腐敗も避けられる。

あの雨の後腐敗が見られる他の生産者の畑もあるが、自分たちの畑に関して言えば今のところ全く問題なし。というのも収量を抑えているので、それは風通しの良さにもなり、よって病気も避けられる。

あの雨以来、晴天が続いている。このまま行けば、完璧な収穫を迎えられるだろう。―

 

 これは昨年の収穫前の、ヴォーヌ・ロマネの生産者ジャン・タルディのコメントだ。このコメントから言えることは、「2002年は乾燥したミレジム」と言われながらも9月初旬の雨の影響はやはり見逃すことはできず、この影響を回避し、最終的に2002年というミレジムの素晴らしさを最大限に享受できたのは、収量を抑え、エフォイヤージュ等を厳しく実施することによってブドウに風通しと適度な日当たりを確保できた生産者である、ということだ。

 

 そこで「ドメーヌ・ヴァンサン・エ・フィリップ・レシュー」である。

 昨年彼らを訪問した時に彼らから感じ取れたのは、やはり畑仕事に対する非常に真摯な姿勢である(畑仕事にはビオロジーを実践)。そして彼らのワインを試飲することは「テロワールの違いを理解する」喜びに溢れていて(前回訪問時の題名は〜ニュイの違いを知りたければ、ルシュノーを飲め!〜である)、しかも労働とセンスの賜のそのワインは純粋に「美味い!」。

また2002年より彼らはモレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルムを手に入れている。「真に真面目な生産者の2002年」「モレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルム」「レシュノー」。こんな美味しそうな要素が揃えば、これは再訪するしかないではないか!

 

2002年とは?

 

 「2002年はやはり偉大なミレジムと似ているところがあるけれど、個人的には『1999年より更に良い』と思っている。樽と合わせても焦げすぎたニュアンスが出ず、糖度はまさに最高なのに、きちんと酸も残っている。普通は糖度がここまで上がると酸は必然的に落ちてしまうのだけれどね。2002年のフランスワイン全般の印象は決して良い印象ではないかもしれないけれど、ブルゴーニュとシャンパーニュに関しては突出していると思うよ」。

2002年をヴァンサン氏はこう評した。一体なぜ「最高の糖度」と「十分な酸」という嬉しい矛盾が2002年というミレジムには起こったのだろうか?

「確かに9月前半には雨が降った。でもその後、特に収穫の1週間前は快晴で、なのに気温は不思議と上がらなかったんだ。だからブドウは十分に日光の恵みに預かりながらも、涼しい風に守られて、結果、高温による腐敗や酸の低下も起こらなかった」。

 2002年収穫1週間前。どうやらお天気の神様は快晴と冷気という粋な気まぐれを、まさにベストの時期に起こしてくれたようである。

 

テイスティング 〜気になるモレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルムは?〜

今回のテイスティング銘柄は以下(全て2002年のバレル・テイスティング。試飲順に記載)。

     ブルゴーニュ・ルージュ クロ・プリウール

     シャンボール・ミュジニィ

* モレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルム(2002年より)

* ジュヴレイ・シャンベルタン

* モレ・サン・ドニ(クロ・サン・ドニ上部のプルミエ・クリュ、レ・シャフォLes Chaffotsを量が少ないために格下げ、他のモレ・サン・ドニのパーセルとアッサンブラージュ)

     ニュイ・サン・ジョルジュ 

* ヴォーヌ・ロマネ

* ニュイ・サン・ジョルジュ ダモード

* ニュイ・サン・ジョルジュ プルリエール

* シャンボール・ミュジニィ

     クロ・ド・ラ・ロッシュ

 

 レシュノーの2002年は目が眩むほど濃密である。ワインによって構成はもちろん異なるが、スミレやバラ、熟したラズベリーやイチゴといった赤や紫のイメージを持つ花と果実が、透明感を持ちながら、むんむんと甘やかに零れ出てくるのだ。そしてヴァンサン氏の言葉通りに酸はぴしりと通っており、それは熟したタンニンと一緒になって美しい余韻を導いてくれる。また良いと言われるミレジムが時に過熟でテロワールを隠してしまうことがあるが、レシュノーの「テロワール節」は2002年も健全である。いや、よりパワーアップしていると言えるだろう。

 ところで気になるモレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルムである。モレ・サン・ドニ特有の少しフュメした香りの後は優れたジュヴレイ・シャンベルタンを思わせる湿ったスミレが圧倒的。その後スミレと黒い果実がまるでミルフィーユのように層をなして現れ、その香りの断層がゆっくりと開いていく状態は実に魅力的だ。密度も申し分なく、たっぷりとしたボリュームもあるのに決して重くない。余韻も長くエレガント。瓶詰め後の姿が待ち遠しい。

 困難であった2001年を評して「収量を抑え、選果を徹底されたワインのみが興味深い」と以前ヴァンサン氏は言っていたが、2002年のようなより容易なミレジムにおいては「低収量・選果の徹底」が当然ながら「真に偉大なワイン」と「なんとなく良く出来たワイン」を分ける重要なファクターになることを改めて痛感させられる。

 

畑仕事の重要性

 

 「畑にずっと出ているからなかなか電話にも出られない」とヴァンサン氏は笑うが、試飲を進めながらのヴァンサン氏の説明は、常に畑仕事へ戻っていく。まさに彼は「畑に立ち返る人」である。

「常に畑に入ってブドウや土が何を必要としているかを感じ取る。答えはいつも畑にある。美しい剪定、収量の制限、畑におけるその時々の優先性。クローンや接ぎ木の正確な選択。それらも常に畑に入っているからこそ判断し、実行に移すことができる。もちろん収穫時の見極めも大切。雨の日の収穫なんてもってのほか。澱が大きくなるし澱自身の質も完全に下がる。となると澱と一緒に寝かす後の段階も台無しになるし、ノン・フィルター、ノン・フィルトレも難しくなるからね。

とにかく健康で質の高いブドウがあって初めてブドウの力に任せた自然なワイン造りや、結果としてテロワールの違いが表れると思うんだ」。

ブドウの質の前には、まず「畑仕事」ありき。レシュノーの基本にして、徹底して貫かれたスタンスである。

 

 話は変わるがヴァンサン氏の子供達は大変に躾がよい。休日の夕方玄関先に立つ見慣れない東洋人の集団(?)の姿を認め、それが自分たちのお父さんの客であることを知るやいなや、卓球で遊ぶ手を止め、一人一人に「ボンジュール」と頬キスのご挨拶(カワイイ!)。こんなご挨拶は滅多に無いのものである。

 最近生産者達と会って感じることは、ヴァンサン氏の「答えはいつも畑にある」ならぬ「人柄は常にワインの中にある」なのだが、外国人に分かりやすく言葉を砕いて説明するヴァンサン氏にして、この子供達!レシュノーのワインにある温もりのようなものは、やはりレシュノー家そのもののような気がして仕方がない。