Cave de CHANTE−PERDRIX 〜麗しきマドンヌ〜

(Chavanay 2003.4.29)

 

 

 

 このHP上でも何度か話題にしているが、今年の3月に5日間に渡って開催されたローヌ最大規模の移動試飲会に参加した時のことである。初日は「コート・ロティ&コンドリュー」、2日目は「サン・ジョゼフ」他4アペラシオン。

 フランスにはこういった移動試飲会が他にもあるが(ボルドーのプリムールや、ブルゴーニュの「Les Grands Jours de BOURGOGNE(BIVB主催。隔年)」、これらはまるで「テイスティング・マラソン」で飲み手には文字通り忍耐力と駆け引き(どういう順番で試飲するか、誰が急に気まぐれでスペシャル・キュヴェを開けているか、どうアポイントを取るか等々)が必要だが、出品者にとっても試練なのでは、と想像する。なぜなら同じ会場に超有名ドメーヌのブースも分け隔て無く並び、はっきり言って試飲する側の舌もかなり感度が鈍っているのである。言い換えればかなり突出したものでなければ印象に残らない。

 そんな中、先述の二会場で独自の「旨味ワールド(?)」を提供していたのが、Cave de CHANTE−PERDRIX(カーヴ・ド・シャント・ペルドリ)である。ワインに垢抜けた洗練は無いが、健康で素直な果実味とワインとしての旨味と暖かみ、バランスの良さ。それは「もう一度飲んでみたい」と思わせる素性の良さでもあった。

 

カーヴ・ド・シャント・ペルドリ

 カーヴ・ド・シャント・ペルドリはAOCコンドリューにある村、シャヴァネイ(Chavanay)の丘を登り切った標高300メートル以上の地に、「ぽつん」とある。訪問時、強い風が吹き付けるヴィオニエの畑を見ながら、ここがAOCコンドリューの臨海地であると、当主フィリップ・ヴェルジエ氏から説明された。

ところでその品質の割に、フランスのワイン・ガイドや、パーカー、ネット上にも拍子抜けするほど情報が少ないカーヴ・ド・シャント・ペルドリのワイン達。聞くとカーヴ直売を始め、地元消費が殆どのようだ。しかしシャヴァネイを含むコート・ロティ〜コンドリュー一帯で唯一星を狙っていそうなレストラン、アラン・シャルル(ミシュランのフォークは3本)でも一連のラインナップの中に彼のワインも置いてあるので、やはり地元ではきちんと評価されているのであろう。そこでまずはカーヴ・ド・シャント・ペルドリの概要を説明したい。

1998年にヴィニョロンとして独立したカーヴ・ド・シャント・ペルドリは、以前は果樹園も経営する典型的北ローヌの生産者であった。現当主フィリップ・ヴェルジエ氏は5代目。所謂「新勢力」の一人である。ちなみにシャント・ペルドリとは昔のLieu−Dit(区画名)に由来する。

計8haの畑で造られているのは以下のワインである(文中の数字は2001年のもの)。

@     コンドリュー

     土壌:母岩は花崗岩。表土は砂質と小石。標高250−300mの南東向きの段々畑上斜面。

     収量:20−35hl/ha

     平均樹齢12年

A     コンドリュー キュヴェ ラ・シュヴァリエール(La Chevaliere)

     約25g/Lの糖分を残し、収穫年の12月には瓶詰め(所謂クリスマス・コンドリュー)

B     コンドリュー キュヴェ レ・グラン・ドレ(Les Grains Dores)

     11月に遅摘みで収穫されたもの。

C     サン・ジョゼフ ブラン

     土壌:母岩は花崗岩。表土は砂質。サン・ジョゼフの上部、標高300mに位置する南東向きの畑。

     収量:40hl/ha

     品種:マルサンヌ100%(平均樹齢18年)

D サン・ジョゼフ ルージュ

     土壌:母岩は花崗岩。表土は砂質。サン・ジョゼフの上部、標高280―320mに位置する南東向きの畑。

     収量:40hl/ha

     品種:シラー100%(平均樹齢15年)

E サン・ジョゼフ ルージュ キュヴェ ラ・マドンヌ(La Madone)

     収量:35hl/ha

     品種:シラー100%(平均樹齢35年)

 

 畑仕事は特にビオロジーを掲げていないものの、化学肥料は用いず(使用している肥料は牛糞を乾燥させた自然堆肥)、除草剤も使用しない。その為砕土などの作業は欠かせず、それらは斜面の勾配に応じて馬、トラクター、そして人力で行っている。もちろんそれらは「テロワールを表現するための、土への回帰」に他ならない。また植え替えの苗木の選択は、セレクシオン・クローン(優れた遺伝子を持つ特定の苗木)に移行中である。

 そして醸造はごく一般的である。ブドウのポテンシャルに応じた除梗や、発酵期間と温度、ステンレスタンクと樽の使い分けと熟成期間。一方発酵や熟成期間における微酸化の調整には慎重で、2003年ミレジムには樽熟成期間にクリカージュ(樽熟成期間中に微酸化を促す機械。供給できる酸素量を性格に調整できる)を採用する予定である。つまり伝統的な手法を取りながらも、自身のワインに必要と思われる近代的な手法も、積極的に取り入れる、という姿勢だ。

 

標高310メートル。Chavanayの高台にある、AOCコンドリューの臨界地。

同じくコンドリューのブドウのミニチュア。

 

テイスティング

 今回は主に2002年と2001年の比較試飲となった。テイスティング銘柄は以下。

 

@     サン・ジョゼフ ブラン 2001(瓶)、2002(樽:85%マルサンヌ、15%ルーサンヌ)

A     コンドリュー 2001(樽)、2002(樽)

B     サン・ジョゼフ ルージュ 2001(瓶)、2002(樽)

C     サン・ジョゼフ ルージュ キュヴェ ラ・マドンヌ 2001(瓶)、2002(樽)

D     コンドリュー キュヴェ ラ・シュヴァリエール(La Chevaliere) 2002(瓶)

E     コンドリュー キュヴェ レ・グラン・ドレ 2000(瓶)

 

 ミルクや清潔な干し草のような良い意味で田舎っぽい旨味溢れるサン・ジョゼフ ブラン、味わいに輝きがありバランスの良いコンドリュー、熟したシュナン・ブランのようなカリン香がありヴィオニエ独特の苦味と、クレーム・ブリュレのような余韻を残すコンドリュー キュヴェ レ・グラン・ドレ。どれも確実に同アペラシオンの一定のレベルを超えているが、特筆すべきは何と言ってもサン・ジョゼフ ルージュのスペシャル・キュヴェ、「ラ・マドンヌ」であろう。

 2001年のラ・マドンヌはなぜかライチのような白いトロピカル・フルーツの甘い香りと少し漢方を思わせる複雑性、クローヴ。カシス・キャンディのような凝縮した黒い果実の甘味と旨味の乗った細かいタンニン。一般的に「難しいミレジム」と言われる2002年もタンニンが細かく豊富で、凝縮感、余韻とも満足できるものである。ラ・マドンヌというキュヴェ名は彼のコンドリューの畑に立つ聖母像に因んだものだが、聖母と言うよりどちらかというと日本人が考える「マドンナ」のイメージが強い、健康的な色気たっぷりのワインである。勿論、品質に余りにもムラが多いサン・ジョゼフ ルージュというカテゴリーの中では突出したレベルだ。

 ところでフィリップ・ヴェルジエ氏が「収量をぐっと落とし、かつ厳密に選果を行ったせいか、2002年は思いもかけず結構お気に入りのミレジムになりつつある」と言うように、確かに彼の2002年は他の生産者の2002年ほど、他のミレジムと比べて開きが無い。というか特にミレジムによる欠点も見つからない。2002年という個性をポジティヴに謳歌しているような、そんなイメージの一連のワイン達である。

 

ワイン・バー カーヴ・ド・シャント・ペルドリ?

フィリップ・ヴェルジエ氏。なんとなく垢抜けた人である。

 ところでカーヴ・ド・シャント・ペルドリのカーヴは勿論清潔であったが、試飲用のカーヴもどこかのワイン・バーかと思うほど雰囲気が良く、いけている。この地の他の生産者とは少し雰囲気が違う、フィリップ・ヴェルジエ氏がカウンターの中に入りサービス(?)してくれるのだが、小さなストールに座りカウンター越しに試飲し会話していると、やはりどこかのワイン・バーにいるのでは、と錯覚してしまいそうだ。カウンター内のスマートな彼からは普段土と格闘している姿や、そのワインの印象は思い浮かべにくい。ちょっとしたイメージの矛盾。

 しかし答えはいつでもボトルの中にある。洗練という更なる進化の余地を十分に残しているカーヴ・ド・シャント・ペルドリ。今後も注目していきたい生産者の一人である。