Domaine Philippe ROSSIGNOL 〜Q/Pマーク、流石!〜

(Gevrey−Chambertin 2003.7.10)

 

 

 

 

 

カーヴにて、フィリップ・ロシニョール氏。

 このHPでも度々登場するフランスのワイン評価本、「ベタン(正確には Bettane&Desseauve Classemrnent Meilleurs Vins France)」。一部では行き過ぎた商業主義などが批判されることも多いこの本であるが、他の本もそうであるように短所も知った上で利用すると、やはりこの本は有用であると思われ、影響力も非常にあり、私も愛用している次第である。

 その中で消費者にとってもワイン業界に身を置く人にとっても興味深いのが、彼らが付ける「Q/P」マークである。これは「Qualité−Prix(カリテ・プリ)」、すなわち「品質の割にお安い、お買い得」ということなのであるが、「良いもの高くて当たり前」感の強いブルゴーニュにおいて(またブルゴーニュの名に甘えて低品質なワインに普通の価格を付ける生産者を避けるためにも)、このマークは良い指標となる(ちなみに最新版である2004年でこのQ/Pマークが付いているニュイの生産者は、アンリ・グージュ、シルヴィ・エスモナン、ジャンテ・パンシオ、ベルトラン・マルシャン・ド・グラモン、アンリ・ノーダン・フェラン)。

 そして今回訪れたドメーヌ・フィリップ・ロシニョールもこのQ/Pマーク(2003年度版)の生産者である。2004年度版でこのドメーヌは何故かベタンから名前自体消えてしまっているが、これもこの本ではよくあることなので(?)、余程の事情が無い限り、名前が消えている=ワインの質に悪い変化があった、ということではないのである。

 

ドメーヌ・フィリップ・ロシニョール

 

 父が普通の農家であったロシニョール家で、フィリップさんがジュヴレイ・シャンベルタンを拠点にワイン造りを始めたのは1976年のことである。現在所有するのはピノ・ノワールに5ha、シャルドネに1haの計6haで、そこで以下の計9つのキュヴェを生産している。

〜白〜

     ブルゴーニュ

     コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ

     コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ クロ・ド・ラ・マジエール(Clos de la Maziere:フィサンに位置するモノポール)

〜ロゼ〜

     ブルゴーニュ

〜赤〜

     ブルゴーニュ

     コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ

     フィサン

     ジュヴレイ・シャンベルタン

     ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・コルヴォー(Les Corbeaux:マジ・シャンベルタンと同じ高度に位置する北隣)

 また来春より新たにプルミエ・クリュ エトゥルネル(Etournelles:ラヴォーの上の斜面)が加わることになる。

 

 「通常このアペラシオンで行われるよりも更なる手入れを行う真面目な生産者」というのが2003年度のベタンの彼に対する評であるが、彼が畑仕事に現在実践しているのはリュット・レゾネ(1998年〜)である。ビオについての意見を求めると、

「うどん粉病やベト病対策として結局は硫黄剤やボルドー液の使用を認可していること等、個人的には同意できないことが現時点ではビオには残されているのに、そこで敢えてビオに移行しようとは思わない。大切なのは環境、すなわち植物相や動物相を尊敬することであって、そのアプローチには様々な手段があると思うんだ」。

 その彼もボルドー液を減らすことには苦労しているようだが、硫黄剤に関してはMolecle(分子:)を代用するなどで、なんとこの20年間は硫黄散布を行っていないと言う。

 次に醸造である。ここで特筆すべきは一次発酵(赤は100%除梗後、5−6日間の低温マセラシオンを経て、開放型木製木樽での一次発酵は約17−20日間)が終了するまで、SO2を用いないということと、熟成期間の長さであろう。普通のブルゴーニュ・ブランでも最低12ヶ月から18ヶ月 の熟成を経てからの瓶詰めとなる。

 新しい醸造設備(空気圧圧搾機。一般的に水平型・螺旋式よりも優しくゆっくり圧搾できるので良いとされている)の導入(1998年)など、彼のその時々の状況に合わせてフランス語で言う「Petit à petit(少しずつ)」ではあるが、こだわりを持って最善を尽くそうとする彼の真面目な姿勢が、そこにある。 

 

(注)

彼自身から何から由来する分子であるかなどは取材時に聞き漏らしたが、後日調べるとリュット・レゾネに推奨されているものはPhenoxyquinoleines由来の分子などがあり、うどん粉病に高レベルで効果があるという文献がある。しかしこのPhenoxyquinoleinesに関しては理解しやすい文献が見つからず、今回のレポートでは詳細は保留させて頂くことをご了承ください。

 

テイスティング

 

今回はロゼを除く全てのキュヴェをテイスティング(全て2000年のボトル・テイスティング)させて頂いた。

 ぴちぴちしたイチゴにスフレのような心地よい焦げ味。これは全ての赤に共通してある風味なのだが、ピノ・ノワールを飲む素直な喜びを感じさせてくれ、非常にチャーミングである。ブルゴーニュ・ルージュは明らかに、このクラス以上だ。ジュヴレイ・シャンベルタンになるとはっきりとしたこの地から生まれるスミレの香りや、赤い花と果実で構成したパルファンのような優しく甘い香りがあるのだが、香り・味わいの可愛らしさの後ろには意外と堅牢なタンニンが潜んでいて、良い意味で細く長い熟成を遂げるのではないかと思わせる。

 しかし最も「Q/P」度の高さに驚かされたのは、一連の白である。ただのブルゴーニュ・ブランにいきなりピュリニィ・モンラッシェを思わせるような少しフュメしたマロンや辛味のある旨味があり、もちろんこのアペラシオンならではの新鮮なグレープフルーツや白桃もある。どちらにしろ熟したブドウを丁寧に熟成させなければ、こういう風味は出ないものだ。

コート・ド・ニュイ・ヴィラージュにはここに少しペトロールのニュアンスがある液化したミネラルが加わり、よりグラな感じになる。またモノポールであるコート・ド・ニュイ・ヴィラージュ クロ・ド・ラ・マジエールになると、微かにノワゼットもあり、よりピュリニィ・モンラッシェにイメージが近づいていくのである。余韻もこれがアペラシオン・コート・ド・ニュイ・ヴィラージュとは思えない長さだ。クロ・ド・ラ・マジエールは非常に岩の多い土壌で収穫は赤より約1週間遅いらしい。よほどシャルドネに適したテロワールであるのであろう。

余談ではあるが後日このコート・ド・ニュイ・ヴィラージュをブラインドで数人に出したのだが、誰もこのワインのアペラシオンをコート・ド・ニュイ・ヴィラージュより下に推測した者はいないどころか、「コルトン・シャルルマーニュ」にまで持って行った者(プロ)までいたほどである。とにかくこのワインには一定以上のレベルのワインが持つ、格がある。ちなみにカーヴでは一般の訪問者がこのワインをたったの9,6ユーロで購入できるのである。

 

Q/Pマーク、流石!

 Q/Pマークを求めて、先日もイタリアのインポーターが彼の一連のワインをテイスティングした後、輸出が決定した。ちなみにこのドメーヌの実力は定期的に色々な章を受章していることにも表れているだろう(受賞は赤の方が多い)。

一方で過去にパーカーが彼の1998年を酷評したことがあるらしく(その記載を探したのだが、手元の資料では見つからず)、ただ彼にとってはそのコメントを読む限り何かそのボトル自体に問題があったのでは、と思われたらしい。しかしそのコメントを読んだだけでいきなり輸入を中止したアメリカの某インポーターにはかなり立腹しているようで(「二度とあいつにはこちらから輸出しないよ!」)、そこにはインポーター側の事情もあるだろうが、やはり丹誠込めて造ったワインがきちんと理解される余地も与えられず切り捨てられる無念は、計り知れないものがある。

私が責任を持って書けるのはこのドメーヌにQ/Pマークが与えられることは、ごく当然である、ということだ。いつもの予算でテーブルが華やぐのは、ワイン・ファンにとって、いやワイン・ファンじゃなくても嬉しいではないか。