Domaine Aubert et Pamela de VILLAINE

〜美しく、ブーズロン〜

(Bouzeron 2003.6.20)

 

 

 

 言わずと知れたDRCのヴィレーヌ氏が手がける、自らのドメーヌである。

 初めてオーベール・エ・パメラ・ド・ヴィレーヌのアリゴテを飲んだ時のことは忘れられない。何年前だったかも定かではないが当時私は百貨店でワイン担当者として勤務しており、インポーターの「庶民のドメーヌ・ド・ラ・コンティ待望の入荷!ヴィレーヌ氏が手がける究極のアリゴテ!!!」といういかにも百貨店な売り文句に惹かれてそそくさとワイン・フェア用に仕入れたのである(正直に言うとこの時初めてDRCのオーナーがヴィレーヌ氏という名前であることを知った)。

しかし、なんというブルゴーニュ・アリゴテだったことか!「ブルゴーニュ・アリゴテはすっきりして夏にはぴったり!地元ではキールに混ぜたりするんですよ〜(見たんかい?でも嘘ではない)」などと言いながら十把一絡げにアリゴテを販売していた私にとっては、まさに衝撃のアリゴテ。それまでの私にとっては「美しい酸やミネラル」というのもあくまでも机上のワイン用語でしか無かったのだ、と味覚をもって思い知らされた瞬間であった。

 

瀟洒なドメーヌの玄関。

フードル(大樽、左手前)とバリックが整然と並ぶ、地下の倉庫。

 

畑と醸造

 ドメーヌ・オーベール・エ・パメラ・ド・ヴィレーヌの歴史は1971年に遡る。老後の小さな家を探していたヴィレーヌ夫妻がシャロネーズの最北端に位置する小さな村にこの区画を見付けた当時、この土地は手入れの行き届かないアリゴテがけなげに植わったまだ見出されていない区画であり、当然土地代も安かった。しかし夫妻は自分たちが手に入れた丘がブーズロンの中でも最良の丘であることを見抜き(土壌は非常に石灰の多い粘土石灰であり、表土の65cm下は岩である)、アリゴテの中でも「アリゴテ・ドレ(Aligotes dorees)」と呼ばれる最良のアリゴテを植えた(一般に多く出回っているアリゴテはアリゴテ・ヴェール「Aligotes verts」である)。ちなみにシャルドネやピノ・ノワールは南向きの丘の裾野に植えられている。初のミレジムは1973年だ。

そして「恵まれた土地」での「最良の品種」だけで終わらないところが、ヴィレーヌ夫妻である。彼らは畑仕事にDRCで行っている手法と同じ手法を適用し、1986年からはビオロジーを採用した(注)。また現在は約20haの畑に11人の人間が従事している、というから驚きだ。なぜなら機械的な仕事なら一人の人間は少なくとも3haの仕事を請け負うことが出来るからだ。

醸造においてもブルゴーニュの伝統的かつ自然な醸造方法を採用している。赤は選果後除梗せずに、開放型木製発酵槽でブドウ由来の 酵母と蔵付き酵母による自然な発酵を待ち、発酵が始まるとピジャージュと少なめのルモンタージュを行う。熟成はフードル(南仏でよく見る大樽である)とフランソワ・フレール社の1〜2年使用のバリックで行う。白は空気圧の圧搾機であくまでも「ゆっくり」絞り、24−48時間果汁を落ち着かせてからステンレス、フードル、バリック(シャルドネ)で発酵・熟成を行う。

畑を分け隔て しない彼らのこの仕事ぶりこそが、1979年に「ブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン」という新しいアペラシオンをINAOに認めさせる牽引力になったことは言うまでも無いだろう。

 

(注)

     DRCは1985年よりビオロジーを採用。

     土壌の仕事は土の権威クロード・ブルギニョン氏(Laboratoire d’Analyse Microbiologique des Sol所長。彼の顧客にはDRC、ルロワ、ニコラ・ジョリィ、ジャック・セロス等が尚連ねる)を顧問に迎えている。また彼らはGEST(Le Groupement d’Etudes et Suivi des Terroirs)のメンバーでもある。

   クロード・ブルギニョン氏、GESTについては近日連載開始予定の「ブルゴーニュにおけるビオの動向で触れる予定である」

 

テイスティング

今回のテイスティングは以下(テイスティング順に記載)。

バレル・テイスティング(2002)

(白)

     ブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン

     ブルゴーニュ・コート・シャロネーズ レ・クルー(Les Clous)

     リュリィ レ・サン・ジャック

(赤)

     ブルゴーニュ・コート・シャロネーズ ラ・ディゴワンヌ(La Digoine:グルメのワインの意)

     メルキュレイ レ・モント(Les Montos)

ボトル・テイスティング

     メルキュレイ レ・モント 2000

 

 「繊細さとエレガンスが私達の求めるスタイル」と案内して頂いたピエールさん(ヴィレーヌ氏の甥)が言うように、バレル・テイスティング時に顕著なのはまだそれらが未完成のワインであるのにもかかわらず、シャロネーズのワインが体現する一つの究極の「綺麗」である。そして私個人が最初にヴィレーヌのワインと出会ったのがアリゴテであったせいか試飲の前半は彼らの白ワインが持つその美しい柑橘系の酸や滑らかなミネラルに目を奪われがちであったが、最も驚かされたのは瓶内熟成が始まりかけたメルキュレイ レ・モント2000であった。

 このメルキュレイは「綺麗」を脱皮したまさにアミノ酸系旨味の固まりに変わりつつある。キノコや少しのアニマル、熟れた赤い果実や白イチジクが乾燥したような少し粉っぽい甘味。軽さのある細かいタンニンとピノ・ノワールならではの酸のバランスも非常に心地よい。メルキュレイと言えば少し果梗の青さを感じるようなイメージが多い中、ここにそういう青さは微塵も無く、2本足のジビエにぴったり合いそうな品のある存在感がある。しかし現時点ではあくまでも「瓶内熟成の始まり」。ヴィレーヌのワインはその軽やかさに反して、このアペラシオンの中では時間を要するワインなのである。そして「重くなく旨味と品があり、時間を要する」という点では、やはりDRCを思い出してしまうのである。

 

2003年は?

 2003年のブルゴーニュはこの原稿を書いている7月上旬時点まで、かなりの困難続きである。なぜなら4月7−11日の春の霜害は芽吹きの早いシャルドネやアリゴテにかなりの被害を与え、その後は例年より早い局所的な雹に見舞われているからである。雹に関してはあくまでも「局所的」であるので一概に報告はできないが、ヴィレーヌの畑に於いては主に霜害のために現時点で例年よりも60%少ない収穫を見込んでいる。しかし品質的には良好であるとのことだ。

 ところで余談ではあるが、来年にはこの小さなブーズロンの村で一つお祭りが行われる予定である。その名も「ブルゴーニュ・アリゴテとジャンボン・ペルシエ(ブルゴーニュ名物のパセリと豚肉をゼリー寄せしたハム。アリゴテと相性が良いと言われている)祭り」。ブルゴーニュ・アリゴテとジャンボン・ペルシエだけでは少し寂しい気もするが(?)、実現すれば「ブーズロンにアリゴテありき!」というこの地の生産者の気概を感じさせる祭りである。

 「アリゴテ」という品種の知名度を上げたのはやはり1960年代のディジョン市長、キャノン・フェリックス・キール氏であろう。彼は「酸がキツイ」と言われるアリゴテをディジョン名産のクレーム・ド・カシスとカクテル「キール」にして、世界的にアリゴテとクレーム・ド・カシス、そしてディジョンの名を(ついでに自らの名前も)アピールした。

 しかし「酸っぱい」というレッテルを貼られたアリゴテという品種のポテンシャルを、ブーズロンという小さな村から「ワイン造り」という真っ当な方法で世の中に真っ先に知らしめたのは、間違いなくヴィレーヌ夫妻であろう。例えそこに「DRCのオーナーが造る」という肩書きが付かなくとも(彼らだから出来たというのも真ではあるが)、答えはいつもボトルの中にあるものだ。そして一ワイン・ファンとしてはキール市長の功績よりもヴィレーヌ夫妻の功績により感謝するのである。