Chateau de VILLENEUVE 〜最高の、基本〜 

(Saumur 2003.7.30)

 

 

 

 

ジャン=ピエール・シュヴァリエ氏。シュナン・ブランの区画にて。

 ―昨年このドメーヌの2001年に対して、私達が特に熱く語らなかったのは、彼らの「ソーミュール・シャンピニィ グラン・クロ」をまだ試飲していなかったからである。ヴォリュームを伴ったこのワインは閉じていて、まるでシュヴァル・ブランを思わせる骨格があるー

 フランスの評価本、ベタン最新版(2004年)のシャトー・ド・ヴィルヌーヴに対するコメントだ。時に辛辣なこの本としては、これは最大級の賛辞と言えるであろう(2つ星評価)。

 

 ソーミュールの町に着き、タクシーの運転手さんに「シャトー・ド・ヴィルヌーヴまで」と告げると、「お、いいねぇ、美味しいワインが飲めるよ。僕たちの誇りだね」と陽気に答えてくれた。そのシャトー・ド・ヴィルヌーヴはソーミュールの町でも高台にあり、派手さは無いが端正な美しさを称えたシャトーである。このシャトーの歴史は1577年に遡るが戦禍をくぐり抜けながら歴史と共に所有者は変わり、現在ではシュヴァリエ家の所有である。そしてジャン・ピエール・シュヴァリエ氏はこのシャトーを「ワインのシャトー」として現代に蘇らせた、その人なのだ。

  

シャトー・ド・ヴィルヌーヴ

 ジャン・ピエール・シュヴァリエ氏は1982年にボルドー大学で醸造学のディプロマを取得(かのエミール・ペイノー教授が彼の直々の師であった)、その後シュヴァリエ家が所有する計28haと醸造所、カーヴでそのノウハウをいかんなく発揮することとなる。

 彼の丁寧な説明には、「素晴らしいワインを生み出す」ための基本的かつ重要なエッセンスがぎっしりと詰まっている。それらを簡単に書き出すと、

 

  ビオロジー、もしくはリュット・レゾネの実践(ビオディナミと記載されることもあり、実際彼が最も重要視しているのは土との仕事なのであるが、あくまでも自然に対する臨機応変な仕事であるのでビオディナミは謳っていない)。

  冬季剪定に始まる、厳密な低収量(ギュヨ・サンプルでは平均6−8芽を残すが最大6芽)

  ヴァンダンジュ・ヴェルト、手収穫、選果台による3回の選果(特にシュナン・ブランは放っておくとビーグル犬の耳のようにわき房がどんどん大きくなるので、ヴァンダンジュ・ヴェルトに加えてこのわき房をこまめに取ることも重要)。

  最高の糖度が得られるためのぎりぎりに遅い収穫。

  パーセルに最も適する仕込みと醸造

 

等である。この地道な仕事によって得られたブドウは、彼の多くの区画が日照条件の良い高台に位置する好条件を味方に付け、冒頭のグラン・クロや樹齢が40―50年であるVVでは、なんと天然アルコール換算度が14度にまでなることもあると言う。そして

「でもソーミュール・シャンピニィで14度なんて書いたら消費者がビックリしちゃうから、一応13度ってラベルには記載するんだ(笑)」と言うだけあり、当然シャプタリザシオンは行わない。INAOの規格がシャプタリザシオンありの12,5度であることを考えると、これは驚異的な糖度である。ちなみにシャプタリザシオンを行わない理由を尋ねると、

「バランスを崩したくない。特に余韻に人工的なアルコール感が残るのは嫌なんだ」。

 シャプタリザシオンをしない=素晴らしいワインである、という図式は勿論成り立たない。また他の要素(適度な酸、ブドウの色づき、味わいの形成)が成熟しているブドウにはあるレベル以上の糖度もあるというもの事実であり、そのようなブドウにシャプタリザシオンを行っても一般的に風味には特に影響が無いとされている。つまりここで彼が重要視していることは、冷涼な地であるソーミュールであるからこそ待ちに待ち、彼が思う十分な糖分が得られた時は他要素の最良の成熟度とも一致する、ということでありそれが彼の求める「バランス」なのだ。そしてその状態を自然に得るためには土に立ち帰ることが必須なのである。

 

 ところでシャトー・ド・ヴィルヌーヴの貯蔵庫に入ると、樽の種類の多彩さに驚かされる。サイズ、形(少し横長など)、加えて使用年数、樽会社の相違(5つ)。これらはモノ・セパージュ(赤:カベルネ・フラン、白=シュナン・ブラン)でありながらテロワールや樹齢の差ゆえ風味に相違が出るキュヴェの個性を尊重し、それぞれに合う樽を選んだ結果であるという。また1年以上使用した樽もあくまでも「自分のシャトーで使った」樽である。他の生産者による使用済みの樽は決して購入しない。

 彼の実践に過剰なテクニックがあるわけではない。ここでは割愛するが他の醸造・熟成過程も非常にロジックである。しかし基本をストイックに折り重ねていった時に応用が生まれ、そこに人を深く動かす静かな力が湧き出す時がある。シャトー・ド・ヴィルヌーヴはそんなワインだ。

 そこでテイスティングである。

 

(参照)シャトー・ド・ヴィルヌーヴで生産されるワインは以下。

〜赤〜

     ソーミュール・シャンピニィ(土壌:凝灰岩)

     ソーミュール・シャンピニィ VV(土壌:凝灰岩状の石灰質)

     ソーミュール・シャンピニィ ル・グラン・クロ(Le Grand−Clos、土壌:凝灰岩状の石灰質。良昨年のみ生産)

〜白〜

     ソーミュール(土壌:凝灰岩状の石灰質)

     ソーミュール レ・コルミエ(Les Cormiers、土壌:凝灰岩状の石灰質)

 

テイスティング

 

今回のテイスティング銘柄は以下。

ボトル・テイスティング

〜白〜

     ソーミュール 2002

     ソーミュール レ・コルミエ 2001

〜赤〜

     ソーミュール・シャンピニィ 2002

     ソーミュール・シャンピニィ VV 2001

     ソーミュール・シャンピニィ ル・グラン・クロ 2001

 

バレル・テイスティング

〜白〜

     ソーミュール レ・コルミエ 2002(1年樽と新樽)

〜赤〜

     * ソーミュール・シャンピニィ VV 2002

     ソーミュール・シャンピニィ ル・グラン・クロ 2002(1年樽と新樽)

 

 十分に糖度が乗りながらも酸やミネラルが余韻にしっかりと残る白の素晴らしさもさることながら、赤にあるしっとりした静かな品は特に長く記憶に残るものであり、1種類のみコメントを記しておきたい。

ル・グラン・クロ 2002(新樽):

ジュヴレイ・シャンベルタンやコート・ロティの優れた生産者のワインにある濃いスミレのニュアンスや、熟した黒い果実の細かな甘い香り。少しのカフェ。ローリエ。口に含むとタンニンの豊かさと細かさと、アルコール感、自然な甘味、芯にある酸味のバランスが絶妙。このタンニンの質の高さは特筆すべきで、本当に熟したブドウでないとこういうタンニンは生まれない。余韻までこのタンニンの美しさは消えることが無いのだが、全体的な印象は決して暑苦しくない。どこかこの地ならではの冷たさが凛と残っており、それがこのワインに気品を与えている。青さや泥臭さは微塵もなく、最高の、基本。

 

 「この地でワインを造ることの面白さは、モノ・セパージュでテロワールの違いを表現できること。そして丹念に作れば軽いだけのワインではなく、凝縮や骨格もきちんとあるものが生み出せるんだ」。

 テイスティングを進めながらジャン・ピエールさんは静かに、でも誇らしげに語る。

 

 シャトー・ド・ヴィルヌーヴに対する評価が高いのは別に今始まったことではなく、にも関わらずワインが低価格を維持していることは、消費者にとって嬉しいことである。アロマが強調された心地よいスタンダード・キュヴェ 2001で7ユーロ、ル・グラン・クロ 2001でも15ユーロである(価格は全てシャトーで一般に販売する価格)!シャトーが妥当と考えて算出した価格なのであろうが、こんなに丹念に造ったものをたった15ユーロで頂いてよいのだろうかと、こちらが恐縮してしまうような価格設定だ。

 もっともベタンが「シュヴァル・ブランのような」という言葉を使って賞賛したゆえ、いよいよ価格上昇の嫌な予感もしたりする。私がインポーターなら「貧乏人のシュヴァル・ブラン」などというコピーを付けて宣伝したりするのかもしれないが(でもこれはある意味、両者にとって喜ばしいことではないような気がするのである)、そういう言葉に影響されずに、まずはこのワインを素直に飲んで頂きたい。ワインを通して静かだけれど力強い風景が(そしてそれはやはりボルドー右岸とは違う)浮かんでくると思うのである。

 

以前の所有者から数えて5世代に渡って使われているカーヴ。 カーヴの入り口。天然の石灰岩をそのままくり抜いてつくられた趣は、ワインに関心が無い人でも圧倒されるに違いない。