Domaine du Chateau de CHOREY(Domaine GERMAIN)

 〜ボーヌに「目鱗」〜

(Chorey―les−Beaune 2002.10.30)

 

 

 気が付くと自腹で買わなくなっていたブルゴーニュのプルミエ・クリュは?個人的にはそれはずばり、ボーヌ・プルミエ・クリュである。ワインを飲み始めた頃は手に入り易さや分かり易さがあり(大手ネゴシアンによるパンフレットは綺麗で重宝だった)、よく飲んだ。その後ブルゴーニュに目覚め、アルベール・モロやトロ・ボーを追いかけた時期もある。だがそれ以降はなぜか遠のいてしまっている。

 しかし渡仏後初めてジェルマンのワインを飲んだ時に、彼のワインが放つ趣味の良い宝石のような輝きに「!!!」。その輝きはもう一度ボーヌ・プルミエ・クリュに目を向けさせるのには十分過ぎるものだったのだ。

 

ドメーヌ・ジェルマン

エネルギッシュ!かつ非常に表情が豊かな人である。

 ドメーヌ・ジェルマンはディジョンから5Kmほど離れたショレイ・レ・ボーヌの村に位置し、醸造所や貯蔵庫は、ボーヌのタクシーの運転手に「シャトー・ド・ショレイまで」と言うと誰でも分かるほどブルゴーニュらしからぬ(?)美しいシャトーの中にある。ドメーヌの起源は現在栽培・醸造を担当するブノワ氏から遡ること5代、ひいひいおじいさまが100年以上前にネゴシアンを始めたことに始まり、戦後はネゴシアンの権利を売りながら畑を買い足し、1970年、彼の父フランソワの代からドメーヌ・ジェルマンを名乗るようになった。現在は6つのボーヌ・プルミエ・クリュ(6ha)を含む計17haを所有している。近年の嬉しいニュースとしてはムルソーとボーヌ・プルミエ・クリュ シュル・レ・グレーヴ(白)を手に入れた事が挙げられるだろう(同時に特に後者はとても小さなパーセルなので、ブルゴーニュ愛好家としては入手困難なキュヴェがまた一つ増えてしまった嬉しい悲鳴でもあるのだが)。

 優れた多くの生産者がそうであるように、ブノワ氏が最も重要視するのも「ブドウの質」だ。その為に剪定法を吟味し低収量を実施しているが、彼曰く「ピノノワールを表現するには50hl/haが限界。しかしこの数字はプルミエ・クリュには当てはまらず、プルミエ・クリュなら30hl/haがマックス」。また1997年より以前より試みていたビオロジーに移行、現在は100%ビオロジーである。醸造においては果皮からのタンニンを重要視するため長めのキュヴェゾンを採用し、熟成期間はキュヴェによるが12ヶ月から16ヶ月である(新樽比率はボーヌ・プルミエ・クリュ100%、ムルソー40%、ペルナン・ヴェルジュレス30%、ブルゴーニュ15%)。白において濾過は「ごく軽く」行うが、赤は清澄・濾過とも行わない。

 しかし特筆するべき事は平均した樹齢の高さもさることながら、やはり畑の位置だ。ギャニャールやタイユヴァン等の星付きレストランからもそのテロワールの表現を高く支持される彼のワインだが、それらのワインが生み出される畑の位置を地図で確認すると「なるほど」と唸らざるを得ない。いくつか例を挙げると、

 

     ムルソー・レ・ペランス(Les Pellans):シャルム・ドゥスーの下の斜面であり、ピュリニイ・モンラッシェに隣接。

     ペルナン・ヴェルジュレス:コルトン・シャルルマーニュに隣接し、「コトー・ブラン」と呼ばれる土壌はコルトン・シャルルマーニュと地続きの泥灰石灰質であり、南東向き。

     ボーヌ・プルミエ・クリュ シュル・レ・グレーヴ(Sur les Greves):グレーヴより更に上部の斜面にあり、完璧なテール・ブランシュ(白い土)。ブシャール等大手ネゴシアンもピノ・ノワールからシャルドネに植え替えてしまったほど白に適した土壌。ブノワ氏曰く「クロ・デ・ムーシュ ブランよりポテンシャルがあると思う」

 

「ボーヌ・プルミエ・クリュといっても、大きく分けて高度により3つのテロワールに分けられるが、真ん中(240M―300M)がベスト」。これはブノワ氏の言葉だが、彼が所有する他のボーヌ・プルミエ・クリュ ルージュもまた、見事にこの「真ん中の帯」に収まっている。

 そこで今回テイスティングしたのは以下の銘柄だ。

 

テイスティング

ボトル・テイスティング

* ブルゴーニュ・ブラン 2001

* ペルナン・ヴェルジュレス・ブラン 2000

* ペルナン・ヴェルジュレス・ブラン VV 2000

* ムルソー レ・ペラン(Les Pellans) 2001

* ボーヌ・プルミエ・クリュ シュル・レ・グレーヴ(Sur les Greves) ブラン 2001

* ボーヌ・プルミエ・クリュ レ・トゥーロン(Les Teurons) ルージュ 2000

バレル・テイスティング

* ショレイ・レ・ボーヌ ルージュ 2001

ボーヌ・プルミエ・クリュ ドメーヌ・ド・ソー(Domaine de Saux:レ・ブシュロット、レ・トゥーロン、レ・クラ、サン・ヴィーニュ、レ・ヴィーニュ・ブランシュの5つのプルミエ・クリュの中より樹齢の若いものをアッサンブラージュ) ルージュ 2001

* ボーヌ・プルミエ・クリュ レ・クラ(Les Cras) ルージュ VV 2001

* ボーヌ・プルミエ・クリュ レ・トゥーロン ルージュ 2001

* ボーヌ・プルミエ・クリュ サン・ヴィーニュ(Cent Vignes) ルージュ 2001

 

 白ワインに共通してあるのは輝くようなミネラルだが、特に驚かされるのは先ほど土壌の説明を記したペルナン・ヴェルジュレス・ブラン、ムルソー レ・ペラン、ボーヌ・プルミエ・クリュ シュル・レ・グレーヴの緻密なミネラルだ。ペルナン・ヴェルジュレス(ノーマル・キュヴェとVVは全く骨格が違う)には比較的丸みのあるミネラルがあり、それがパイナップルやライチといったトロピカル・フルーツと見事に良く合う。一方ムルソーはムルソーの低地らしいグラマラスさとピュリニィ・モンラッシェ様のフュメなミネラルのバランスが素晴らしい。そしてボーヌ・プルミエ・クリュ シュル・レ・グレーヴ(年間800本しか生産されない)!まるで熟成したロワールのような液化した滑らかなミネラルと、やはりピュリニィ・モンラッシェ様のフュメなミネラル(ブノワ氏自身もこのワインのミネラルの質に関してはピュリニィ・モンラッシェ レ・ピュセルと共通点を見出すらしい)が複雑に溶け込んでいる。そこに華を添えるのは洋梨や白桃様の白いフルーツや、白い花、ライチやマンゴスティンのエキゾティックさ。「テール・ブランシュ(白い土)」から文字通り多彩な白いイメージが若さゆえの堅さを伴って立ち昇ってくる。ブラヴォ(パーカーならずともこう言いたい)!

 一方赤にも良質なミネラル、そして良質な酸、細かなタンニンがあり、それらが巷によく見られるぼんやりとしたボーヌ・プルミエ・クリュとは比較にならない背筋の伸びた骨格を形成している。土、甘草、いぶしたベーコンのような太さとニュイを思わせるような繊細さが混じり合う様も好ましい。ブノワ氏にボーヌ・プルミエ・クリュのイメージは男性か女性かと尋ねると「難しいけれど幾つかの畑は女性かな?全体的にもどちらかと言えば女性的、、、うーん、でも男性とも言えるなぁ。ブローニュの森に立っている人達みたいだね(注:ブローニュの森に立っている人達は女性に見えても、騙されてはいけません)」と冗談交じりに答えてくれた。いやいや、楽しいワイン達とブノワ氏である。ちなみに彼の一連のボーヌ・プルミエ・クリュに関する私のイメージは「ボーヌのモレ・サン・ドニ」だ。

 

ボーヌに「目鱗」

「私はエノロジストではないよ。ただ、テロワールが持つ力が本当に好き。それに尽きる。ビオロジーを採用した理由もテロワールが表現したかったから」。そしてブノワ氏はこう続けた。「でも畑の約90%を大手ネゴシアンが占めるボーヌの現状では、有名なだけで残念なことに本来の地位を失いつつある」。確かに。大手ネゴシアンの功績を否定するのではない。だがワインの楽しみの一つは紛れもなく「違いを知る楽しみ」である。独占は画一に陥りやすく、私がボーヌから遠のいてしまった理由もそこにあるのだ。ただボーヌが愛好家にとって関心の少し外にあるがゆえ、彼のワインが感動を与えるものであるにもかかわらず未だに良心的な価格であることも事実である。

もしボーヌ・プルミエ・クリュを買う機会があるのなら。迷わず一度はジェルマンのワインを手にしてみたい。「目鱗」である。そしてその「一度」は「二度」「三度」になっていくはずだ。