Domaine COMBIER 〜クローズ・エルミタージュ、きらり〜 

(Pont d‘Isere 2002.11.20)

 

 

 

現れた彼は畑仕事が少ない時期なのにも拘わらず、「まさに畑から駆けつけました」という風情。やはりHomme de Terrain(土の人)なのである。

 ビオの動きに関心はあるが、当然ながら「ビオ=素晴らしいワイン」という構図は成り立たない。個人的に追いかけるワインは「生産者の顔が見える素晴らしいワイン」である。しかし「生産者の顔が見える素晴らしいワイン」を追いかけていると、それらが偶然ビオであった、ということはよくあることで、その最たる例の一つがドメーヌ・コンビエである。

ドメーヌ・コンビエは「筋金入りのビオ」だ。というのもドメーヌ・コンビエの現当主、ローラン氏のお父様がビオロジーを採用したのは実に33年前、1970年に遡る。しかも当初から畑の周りの環境、つまり畑をとりまく果樹園までを視野に入れたビオの実践だったのだ。現在でこそこれは常識であるが、当時はかなり周囲の理解を得ない孤独な作業であったことは想像に難くない。そしてその流れはローラン氏が当然のように継承し、現在に至っている。彼がHomme de Terrain(土の人)」と呼ばれる理由が、ここにある。

 

醸造とテイスティング

 ローラン氏の代になって再建された醸造所と、醸造所での仕事にはローラン氏の哲学が見事に集約されている。その一つが整然と並んだ温度調節装置付きステンレスタンクで、収穫時にブドウが到着した時からこのステンレスタンクに移動するまで、さらに醸造期間中の作業においても重力に逆らう仕事は回避する。その為に醸造所は高低差を利用した設計になっており、タンクや機械も重力を利用しながら作業できる仕様になっている。また赤ワインにおいてブドウは100%除梗を行い、除梗する代わりに従来よりマセラシオンの期間を長くする。キュヴェによるが、新樽もしくは新しい樽を使用し決して5年以上は使用しない。つまり地道な畑仕事の結晶であるブドウ、すなわちテロワールの表現は、現代の近代的な知識と技術によって成立しているのである。

 そこで彼にSO2の使用について尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきた。「醸造において、その時々に必要以上にに問題とされることがある。例えばつい最近では濾過や清澄の有無がそれだろう。そして今はSO2の添加についてだ。個人的には長熟するワインにはやはりSO2は必要だと考えているし、自分自身必要な時には最低限入れる。要は他の作業との組み合わせであり、濾過や清澄もそうだけれどそれだけを切り離して語るものではないだろう」

ビオが一部で流行のように語られる最近の風潮とは無縁の彼らしい、正直で確信に満ちた意見である。

 

 ところで今回のテイスティング銘柄は以下である。

クローズ・エルミタージュ ドメーヌ・コンビエ 2001

クローズ・エルミタージュ キュヴェ L 2001

クローズ・エルミタージュ ドメーヌ・コンビエ 2001

クローズ・エルミタージュ クロ・デ・グリーヴ(Clos des Grives) 2001

重力に逆らわずに作業できるように高低差を利用した醸造所に並ぶ、一次発酵用ステンレス・タンク。

 特筆すべきはやはりこのドメーヌのフラッグシップである、クローズ・エルミタージュ クロ・デ・グリーヴだろう。花崗岩土壌のキュヴェ Lには少しグラな黒系果実を真っ先に感じるのだが、沖積土醸のヴィエーユ・ヴィーニュから生まれるクロ・デ・グリーヴにあるのは、湿った黒い土や、麝香と僅かな動物臭。熟して少し蒸れた感じの黒系果実が続き、挽きたての黒コショウの香りが控えめだが良いアクセントとなっている。口に含むと将来性のある質の良い細かなタンニンや、適度な酸、凝縮した自然な甘さが素直に感じられ、個性の強い香りと綺麗に混じり合う。余韻を形成するオレンジ様の苦さも好ましい。

 北部ローヌにおいて軽視されがちなクローズ・エルミタージュだが、ドメーヌ・コンビエのクローズ・エルミタージュは生産者の努力によってアペラシオンが真の意味で機能する好例であろう。奥行きをロティに、艶をコルナスに、アンビヴァレンスをエルミタージュにイメージするなら、コンビエのクローズ・エルミタージュが持つイメージは野生の色気。洗練ではないが、一度飲むとなんとなく気になるのである。

 

参照:ドメーヌ・コンビエが生産しているワインとテクニカル・データ

クローズ・エルミタージュ キュヴェ L

(北部クローズ・エルミタージュの花崗岩土壌。収量40ha/hl。マルサンヌ100%。20%は新樽発酵、80%は温度調節装置付きステンレスタンクで発酵。その後マロラクティック発酵)

クローズ・エルミタージュ ドメーヌ・コンビエ

(南部クローズ・エルミタージュの沖積土と丸小石の土壌。収量42ha/hl。マルサンヌ80%、ルーサンヌ20%。30%は新樽発酵、70%は温度調節装置付きステンレスタンクで発酵。その後マロラクティック発酵)

クローズ・エルミタージュ クロ・デ・グリーヴ(Clos des Grives)

(南部クローズ・エルミタージュの沖積土と丸小石の土壌。収量38ha/hl。マルサンヌ20%、ルーサンヌ80%。80%は新樽発酵、20%は温度調節装置付きステンレスタンクで発酵。その後マロラクティック発酵)

 

クローズ・エルミタージュ キュヴェ L

(北部クローズ・エルミタージュの花崗岩土壌。収量42ha/hl。シラー100%。100%除梗。温度調節装置付きステンレスタンクで約25日の発酵期間の後、35%は樽熟成)

クローズ・エルミタージュ ドメーヌ・コンビエ

(南部クローズ・エルミタージュの沖積土と丸小石の土壌。収量40ha/hl。シラー100%。100%除梗。温度調節装置付きステンレスタンクで約25日の発酵期間の後、80%は樽熟成)

クローズ・エルミタージュ クロ・デ・グリーヴ(Clos des Grives)

(南部クローズ・エルミタージュの沖積土と丸小石の土壌。収量30ha/hl。シラーVV100%。100%除梗。温度調節装置付きステンレスタンクで約30日の発酵期間の後、約1年間樽熟成、うち、30−40%は新樽)

 

ルーサンヌの魅力とは?

 「畑仕事においてマルサンヌ、ルーサンヌで気を付けなければならないことは、日照量。特にマルサンヌは日照量が多すぎるとグラになりすぎる。ルーサンヌも同様だが、諸条件をクリアしたルーサンヌは、マルサンヌに無い複雑性、繊細さ、フィネスをワインにもたらしてくれる。ルーサンヌ100%のワイン?もしそれがヴィエーユ・ヴィーニュだったら可能かもしれない」。

「畑での仕事が難しい」と言われるルーサンヌだが(ウドンコ病に弱い)、「土の人」ローラン氏にルーサンヌの魅力を尋ねてみたら返ってきた答えがこれだった。彼が自然を尊敬する人であればあるほど、樹齢の若いブドウから商業的にむりやりルーサンヌ100%のワインを生産することはあり得ないだろう。しかし彼が将来単一品種でクローズ・エルミタージュ・ブランを表現することがあれば、市場のクローズ・エルミタージュ・ブランのイメージもまた一つ変わるのではないだろうか。

 

訪問が終わったのは6時過ぎだというのにローラン氏はまだ仕事が残っているらしく、申し訳なさそうに、しかし足早に出て行った。クローズ・エルミタージュを担う重要な一人である彼の多忙は終わることが無い、暗闇に消えていく後ろ姿は、まるでそんな風に語っているように見えた。でもその忙しさは、これからもきっとワインの中に昇華していくに違いないのだろう。