Domaine Yves CUILLERON  〜匠のコンドリュー〜

(Condrieu 2002.11.21)

 

 

 

丁寧に説明と試飲は続けられた。

 イヴ・キュイロン、フランソワ・ヴィラール、ピエール・ガイヤール。「ヴァン・ド・ヴィエンヌ(Vin de VIENNE)」の立役者として常に「3人一緒」のイメージがあるのだが、実際プライヴェートもパリで、ローヌで会う彼らは大変仲が良い。

その人にもそのワインにも、フランソワ・ヴィラールに「破竹の勢い」を感じるなら、ピエール・ガイヤールは良い意味で「最も中庸」。そして堅実で思慮深い腕の良い木こりのような雰囲気のイヴ・キュイロンはと言うと、まさに「匠」の感がある。そしてコンドリュー最大の貢献者と言えばドメーヌ・ジョルジュ・ヴェルネイを真っ先に思い出すが、「コンドリューが色っぽいワインである」ということを我々に最初に伝えてくれたのは、やはりイヴ・キュイロンではないだろうか?

 

 

イヴ・キュイロンのワインと醸造

 意欲のあるこだわりの生産者によく見られる傾向だが、ベタンにも「名前の迷路」と評されたように、イヴ・キュイロンのワインもキュヴェ名が多く消費者にとっては少々解り辛い。そこでまずは彼のワインのキュヴェについて簡単に整理しておきたい(参考資料:ドメーヌ・イヴ・キュイロンにあるパンフレットより)

サン・ジョセフ・ブラン

     リスラ(Lyseras):マルサンヌ/ルーサンヌが半々。畑はシャヴァネイ(Chavanay)の丘にある。果実味が前面に出るように醸造。アロマを楽しむワイン。

     ル・コンバール(Le Combard):マルサンヌのヴィエーユ・ヴィーニュの区画より。アロマの豊かさ、凝縮感は若い時から飲め、また熟成にも耐えうるスタイル。

     サン・ピエール(Saint−Pierre):サン・ピエール・ド・ブフ(Saint−Pierre−de−Boeuf)にあるルーサンヌのヴィエーユ・ヴィーニュの区画より。熟成させるスタイル。

サン・ジョセフ・ルージュ

     レ・ピエール・セシェ(Les Pierre Seches):シラー100%。

     ラマリーベル(L‘Amarybelle):ヴィエーユ・ヴィーニュのシラー100%。熟成させるスタイル。

     レ・セリンヌ(Les Serines):シラーのヴィエーユ・ヴィーニュの中でも最も樹齢の高いもの(60年以上のものもある)。かつ良昨年のみの生産。

コンドリュー

     ラ・プティ・コート(La Petite Cote):畑はシャヴァネイ(Chavanay)の丘にある。果実味が前面に出るように醸造、ヴィオニエのアロマを楽しむワイン。

     レ・シャイユ(Les Chaillets):ヴィオニエのヴィエーユ・ヴィーニュの区画より。凝縮感・丸み・強さを前面に出した醸造で、若い時から飲め、また熟成にも耐えうるスタイル。

     エゲ(Ayguets):デザート・ワイン。貴腐、または畑で熱と風により自然乾燥した葡萄からのみ作られる。若い時から飲め、また熟成にも耐えうる凝縮感を備えたスタイル。

コート・ロティ

     バスノン(Bassenon):コート・ロティ南部、片岩と花崗岩由来のシラー90%、ヴィオニエ10%。熟成タイプ。

     テール・ソンブル(Terre Sombres):コート・ロティ北部、片岩由来のシラー。バスノンより、より長塾タイプ。

   (畑の面積は計28ha。10haサン・ジョゼフ・ルージュ、3haサン・ジョゼフ・ブラン、9haコンドリュー、3haコート・ロティ、3haVdP)

 以上にミレジムによるがパスリヤージュ(VdT)等が加わる。

 

醸造

 赤、白、そしてその中でも全くタイプの異なるワインを生産しているので、ここでは個々のキュヴェに関する醸造に言及することは省略するが、一貫していることは何点かあり、その一つが「重力に逆わった作業を避ける→ポンプを用いた作業を避ける」ということだ。そしてその延長線上としてサンテミ

リオンなどでよく見られるクリカージュや、ミクロ・プラージュの採用がある。前者は樽熟成中に、後者は発酵槽中でともに微酸化を促す方法として知られているが、これらを採用することによって、澱引きなど酸素供給の役目と同時に、ワインに疲労をもたらしてしまう作業を減らすことも可能となる。

 他にも温度調節器付きの発酵槽で行われる徹底したパーセル毎の醸造、熟成用の樽は使用年数を5年以下に抑える(殆どが焼きの控えめなアリエール産)こと等、ジャン・リュック・コロンボがコンサルティングをするワイン・グループ「ローヌ・ヴィニョーブル(Rhone Vignobles)(注)」が採用している手段と同様な点も多く、それはベースに「テロワールの表現は、現代の近代的な知識と技術・設備によって成立する」という哲学があることを意味する。

(注)ローヌ・ヴィニョーブル(Rhone Vignobles):
ジャン・リュック・コロンボがコンサルティングをするワイン・グループで参加者は以下(北部生産者より記載)。

mesch Vins(Sierre)

Jean−Michel GERIN(Ampuis)

Domaine Georges Vernay(Condrieu)

Domaine Yves CUILLERON(Chavanay)

Domaine CHEZE(Limony)

Domaine Combier(Pont d‘Isere)
  → 生産者巡り参照「クローズ・エルミタージュ、きらり」

Domaine Courbis(Chateaubourg)

Jean Luc COLOMBO(Cornas)

Domaine ROCHEPERTUIS(Cornas)

Domaine de Deurre(Vinsobre)

Domaine de la JANASSE(Courthezon)

Chateau FORTIA(Chateauneuf−du−pape)

Chteau REVELETTE(Jouques)

Chateau Calissannne(Lancon de Provence)

Chateau la CASENOVE(Trouillas)

ではキュイロンのあの「匠」味は一体彼のどんなスタンスから生まれるのだろう?それは非常に陳腐な結論であるが、やはりブドウの質と、醸造に於いては近代的な知識に加味する彼の絶妙な塩梅であろう。

前者に関しては彼が畑仕事で採用しているのは「リュット・レゾネ」という非常に厳しい減農薬であるが、なぜか「有機栽培」と紹介されることが多いほどの土への真摯な姿勢。また遅摘み貴腐のコンドリュー、エゲは最低でも4回から8回のトリ(選果)を経て収穫されるのだが、これも観察を含む基本の畑仕事が為されていなければ不可能なことは言うまでもない。

後者に関して塩梅とは「タイミング」と「加減」であるが、彼が「重要である」と位置づけた樽内でマロラクティック発酵が起こるタイミング、バトナージュのタイミング、クリカージュのタイミング、澱引きのタイミング等々、特にこの「タイミング」に関しては醸造の素人が1回の訪問で説明されても、到底理屈で理解できるものではない。ただワインとはテロワールとそれに関わる人との個性であるということを改めて実感させる力が、彼のワインにはある。そしてキュイロンのワインに感じるのはやはり熟練した「匠」の味なのだ。

  

 

テイスティング

「ブドウが非常に熟し、かつ酸にも恵まれた年です」。これはキュイロン氏に一言でまとめて頂いた2002年評である。また北部ローヌの葡萄について、その特徴を完璧に捉えているであろうキュイロン氏に、一般的なマルサンヌとルーサンヌの特徴を尋ねると、以下のような答えが返ってきた。

マルサンヌはアロマの表現が際立っている。あと、控えめなアカシアの蜂蜜。一方ルーサンヌはアロマも豊かだが、より酸を伴ったピュアな果実味と凝縮感がある。果物で言えば梨と桃かな」。ところで今回のテイスティング銘柄は以下である。

 

バレルテイスティング

     サン・ジョセフ・ブラン リスラ(Lyseras)のマルサンヌ

     コンドリュー ラ・プティ・コート(La Petite Cote)

 サン・ジョセフ・ルージュ レ・ピエール・セシェ

     サン・ジョセフ・ルージュ 

     コート・ロティ バスノン

ボトルテイスティング(ミレジムは2000)

 サン・ジョセフ ル・コンバール

     サン・ジョセフ サン・ピエール

     コンドリュー ラ・プティ・コート

     コンドリュー エゲ

     コンドリュー レ・セグー

     サン・ジョセフ レ・ピエール・セシェ

     サン・ジョセフ ラマリーベル

     サン・ジョセフレ・セリンヌ

     コート・ロティ バスノン

 

 近年キュイロンの一連の赤は国内外で評価を上げているが、圧倒的な存在感を持つのはやはり一連の白だろう。樽から試飲したサン・ジョゼフ・ブラン、コンドリューはまだマロラクティック前であり跳ねるような酸があるが、それらが表現する洋梨、グレープ・フルーツ、桃、マンゴスティンといった果実の純度・質の非常な高さは驚異的で、まだこの段階であるにも拘わらず、既にうっとりとさせられるエキゾティックさもある。

 そしてボトルからテイスティングした中ではやはり「コンドリュー エゲ」。濃厚な白桃のネクターと、マンゴスティンのような品、少しの心地よい粉っぽさの中に、アプリコットやパイナップルのきらめく酸味が綺麗にちりばめられている。優れたソーヴィニヨン・ブランに似た、乾いた藁のようなニュアンスもある。口に含んだ時のヴォリューム感も申し分ない。余韻の苦味には良質のオレンジがあり、これが前述の「藁のようなニュアンス」と共に、このワインから良い意味で重さを取り除いている。

 やはりキュイロンのコンドリューは色っぽいのである。特にエゲは。しかしその色っぽさは決して人工的ではなく、しっかり小股の切れ上がった(?)バランスの良いもので飽きを生まず、だからこそ、「また飲んでみたい」と人に思わせるのであろう。

 

次なる展望は?

 キュイロン氏の祖父は50年以上前から自身のワインを瓶詰めして売っており、キュイロン家は所謂「元詰め」のパイオニアであったが、他の職業に就いていたイヴ・キュイロン氏が自身の畑を持ってヴィニョロンとして独立したのは案外遅く、1987年の事である。彼が所有した最初の3,5haの畑は遺産相続者がいない親戚が売りに出したもので、これが売りに出た時彼は「自信の人生を賭ける価値があるもの」と腹をくくったのだと言う。

 歴史の向こうに忘れられた「コンドリューの貴腐」を現代に完璧に復活させたことで、イヴ・キュイロンの名は広く知られるようになったのだが、本人はそれも「幸運な時代だったからこそ、出来たこと」とあくまでも謙虚に捉えている。

「コンドリューの貴腐が作られなかった背景には、フィロキセラ、フィロキセラから立ち直った20世紀前半には2回の戦争、その為に落ちた高級ワインの需要。コンドリューの貴腐が復活するには80年代以降、時代がそれを受け入れてくれるまで待たなければいけなかった」。

 そんな機が熟した時の試みが成功した彼が、次に視野に入れているのはやはり赤、特に片岩の多い、北部コート・ロティだ。彼のコート・ロティ、「テール・ソンブル」がそれにあたるのだが、もっと畑を広げたいらしい。コンドリューのあの衝撃をコート・ロティで彼が与えてくれる日を、まずは楽しみに待ってみたい。