Dominique GALLOIS 〜3,5haの畑の中で〜

(Gevrey Chambertin 2002.6.26)

 

 1月からジュヴレイ・シャンベルタンに住んでいる知人に「こちらに来てから見つけた、お勧めのジュヴレイ・シャンベルタンはない?」と尋ねると、すぐに返ってきた答えがドミニク・ガロワだった。1989年からドメーヌとして、瓶詰めしているらしい。

 

  

テイスティング 2000&2001

2匹の巨大な犬のお出迎えの後、にこやかなドミニク・ガロワ氏とご対面。現在スタージュをしているマイコさんと一緒に地下のセラーへ。1901年に造られた美しいセラーは、ブルゴーニュにしてはかなり深い(3メートル)。温度管理は完璧だ。

彼は現在6つのアペラシオンを生産している(ブルゴーニュ・ルージュ、ジュヴレイ・シャンベルタン、ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・グーロ、ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ プティ・カズティエ、ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・コンブ・オー・モワンヌ、シャルム・シャンベルタン)。テイスティング銘柄は以下。

 

2001年 バレル・テイスティング

 醸造はステンレスで4,5日間の低温マセラシオンの後、一時発酵。二時発酵は樽で行う。エルヴァージュは年によるが、15−18ヶ月。澱引きは2回。清澄処理はせず、フィルターはテール・ブランシュという粗い目のものでごく軽く行うのみ。

*ブルゴーニュ・ルージュ(フィサンの近くの区画)

*ジュヴレイ・シャンベルタン(樹齢 10−60年)

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・グーロ(les Goulots)(樹齢25−30年、レ・シャンポーと、レ・コンブ・オー・モワンヌに挟まれ、森の前に位置する標高の高い区画)

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ プティ・カズティエ(樹齢35−48年)

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・コンブ・オー・モワンヌ(樹齢60年)

*シャルム・シャンベルタン(樹齢90年)

ボトル・テイスティング

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・グーロ 2000

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュプティ・カズティエ 2000

*ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・コンブ・オー・モワンヌ 1999,2000

 

まずは、2001年のキュヴェをバレル・テイスティング。

真っ先に感じるのは「素直さ」。どのワインにも上質なピノ・ノワールスミレの香りがはっきりと感じられそれは大変心地よいのだが、レジョナル、ヴィラージュ、プルミエ・クリュ、グラン・クリュとレベルが上がって行くに連れて、そのスミレのトーンが素直に上昇し濃密さを増していく。赤いベリーの香りも然り。まだマロラクティック中だったため、踊るような酸に落ち着きが無いものの、レ・グーロはエレガンス、プティ・カズティエは力強さとゴージャスという性格の違いが既にはっきりと出ている(この二つのキュヴェに関しては、どちらが好きかでその人の好みが判るらしい)。ガロワ氏のお気に入りであるレ・コンブ・オー・モワンヌになると、他のプルミエ・クリュに比べて明らかに糖度が上がり、黒系のカシスや黒いサクランボ、クローヴ、土のニュアンスも加わり、「噛めるような」グラな感じが出てくる。シャルムはシルキーで濃密なタンニンが、前述のグラな感じに上品に絡んでくる(シャルムとジゴ・ダニョーというのは、彼のお気に入りのマリアージュ)。

 

ボトル・テイスティングに入る前に、最近の彼のお気に入りのヴィンテージを尋ねると、93年と、99年とのこと。

 99年に関しては、酸に欠けるものをよく見つけるのですが、と言うと「ホント?」と本当に意外な様子で、彼のジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ レ・コンブ・オー・モワンヌの99年を開けてくれた。

 鉄分の多い赤身の肉のような野性的な香りの後に、濃厚な熟した生のカシス、ブラックペパーの香りが追いかけてくる。味わいは今回のテイスティングの中では最も、グラ。そして肝心の酸だが、ドライ・トマトのようなアミノ酸の旨みを持った酸が、前述の鉄のニュアンスと一緒にこのワインに骨格を与えている。

 個人的には99年は全体的に過大評価されている年だと感じているが、このドメーヌにおいては本当に良い年だったようだ。

 

リュット・レゾネについて

今回のブルゴーニュ訪問の目的は「ビオ実践者」。その中でガロワは唯一ビオではなく、リュット・レゾネと言われるビオロジーの一歩手前の段階(*注)を取っている。リュット・レゾネでは化学薬品などを「必要最小限」でしか使用しない。

1989年からドメーヌとして瓶詰めしているガロワなので、毎年新しい試みが当然生まれてくる。例えば最近では、今回試飲したプルミエ・クリュ レ・グーロとプティ・カズティエは、それまでアッサンブラージュして単なる「プルミエ・クリュ」として瓶詰めしていたが、「個性がそれぞれはっきり表現されてきたのだから、別々で瓶詰めしたら?」というアドヴァイスのもと、2000年より各クリュでの瓶詰めに切り替えた、という風に。

そこで畑仕事も全て手作業、というガロワにビオについて尋ねてみた。

「私のところは全部で3,5haという、非常に小さなドメーヌです。それを一度にビオに変えてしまうのは、非常にリスクを伴います」

確かに。実験的精神だけでは、生活していくことは出来ない。しかし同時に、彼のところでは11年間肥料を使っていない。科学肥料を、と言う意味ではなく、肥料自体を全く使っていないのだ。「土が安定してきましたから」。

 小規模だからこそ、踏み切れないことは多いだろう。でも小規模だからこそ目が届くことも多いのだ。

因みに畑仕事はガロワ氏と二人の女性ヴェロニーク、マイコさんのたった3人で行われている。特にここ2週間ほどの晴天続きで生じる仕事、例えば出来過ぎる実の剪定や、伸びすぎる葉や枝を落とす仕事は、女性の細やかさが大きな力を発する。(「力仕事は、全部僕さ」と、ガロワ氏)いくら小規模とはいえ、その大変さは想像に難くない。

(*注)

ビオは以下の4段階に分けられる。

リュット・レゾネ:本当に必要な時のみ化学薬品を使う。

ビオロジー:英語で言う「Organic」にあたり、「有機農法」。基本的には化学薬品を使わない。

ビオデナミ:化学薬品を使わないだけでなく、月の周期をもとに畑の作業をする。

コスモ・クルチュール:ビオデナミが月の動きを重要視するのに対し、コスモ・クルチュールは宇宙全体の動きと連動しようというもの。(しかし、この段階を実践している生産者は、私の知る限りではローヌのドメーヌ・ヴィレのみ)。

 リュット・レゾネは慣習的な言い方だが、ビオロジー、ビオディナミは、ECOCERT(エコセール)」という農業省認可の団体によって認定されると、公式に名乗ることができる。又、世界共通の認証である「デメテール」や、ビオロジーに関しては「ナチューレ・エ・プログレ」という、民間農業団体も保証している。ビオロジーとビオディナミの大きな違いは、前者が化学肥料を使わず自然に任せるのに対し、後者はビオ(生命)ディナミ(力学)、つまり月の満ち欠けなど地球の生命の営みに連動しているものに従ってブドウ栽培や醸造を行い、最終的に土やブドウの本来持っている力を引き上げることを目的とすること(結果、テロワールを反映した味となって現れる)。

 

そのまんま

後日、醸造について聞き漏らしがありマイコさんに電話する機会があった。「けっこう、何でもそのまんまなんですよ、うち」。リュット・レゾネを全面に打ち出すでもなく、しかし聞いてみると畑仕事はあくまでもマニュアルで、樹齢は平均してかなり古く、醸造は放任。あれ、どこかで聞いたことのあるフレーズではないか。そうだ、クロード・デュガだ。味のスタイルが違うのはもちろんだが、素直にジュヴレイ・シャンベルタンのトーンの高い「土とスミレ」が表現されている点で、テイスティングの時にも実際デュガを思い出していた。

「小規模でまじめに取り組んでいる生産者は、自然にリュット・レゾネですよ。丁寧に造ったブドウには力があるから、小手先の醸造は必要なくなるしね」

以前、ある試飲会場で生産者と交わした会話だった。大切な見極めは、カテゴリーよりも実際の仕事内容とそれによって表現されている味だ。当たり前なことに。

 

添付写真の説明:

@     セラー

B ガロワ氏。