Domaine Henri BOURGEOIS
〜サンセールの帝王が語る、ニュージーランドの可能性〜
(Sancerre 2002.12.13)

 

この通りはまさに「アンリ・ブルジョワ通り」。

 プイィ・フュメの貴族がラドゥセットなら、サンセールの帝王はやはりアンリ・ブルジョワだろう。小規模で秀でた生産者を訪問した時に感じることが「細部に真理が宿る」なら、帝王に期待するのは「模範と挑戦」である。今回の訪問の目的は2002年の作柄と、2003年が初ヴィンテージとなる彼らの新しいワイン、ニュージーランド生まれのクロ・アンリ(Clos Henri)のことを帝王に直接伺うことだ。

 現在アンリ・ブルジョワの長であるジャン・マリー氏とお会いするのは2回目である。前回は毎年2月にアンジェで行われる「Salon des Vins de Loire」だった。親しみやすさはサロンでお会いした時と変わらないのだが、シャヴィニョールの村で見る彼はとにかく忙しい。前週はロシアに出張に行っていたようだ。5分おきくらいに携帯が鳴る。すれ違う皆が彼に挨拶する。村の老犬達までが彼に敬意を払っているかのように見えるほどだ。帝王はこの小さな村で信望の厚い名士なのだ。醸造所内でも同様で彼に気付いた従業員が敬意と親しみがこめて挨拶し、彼もそれに答えている。一人一人の従業員の顔が見えている企業なのだと感じさせられる。

 重力に逆らわずに作業が出来るように、斜面の高低差を利用した3階建ての醸造所で行われている作業は、手作業とハイテクのバランスが見事に取れている。動線のひき方も見事で、これだけ大規模でありながらパーセル毎の醸造がスムーズに行われ、かつ各醸造段階での移動などが最小限に抑えられているので、これならマストも疲労しないだろう。瓶詰めや梱包などの作業にもコンピューターを導入し、効率化を図っている。

 一方パーセル毎に樽、或いはステンレス・タンクからを行われた試飲は、最後に瓶詰めされた6種類のワインのブラインド・テイスティングで締めくくられた(その数25種類)。彼がパーセル毎、すなわちテロワールの表現に誇りを持っていなければ、このような試飲はありえないだろう。そしてその誇りを自分の舌で確認できた貴重な試飲となった。

 

 

息を飲む美しさ。ドメーヌの前に鎮座するモン・ダネの丘。モンダネ「Les Monts Damnes」を直訳すると「忌まわしい山」となる。なぜならこの丘で働くことは重労働を意味するからだ。「Jadis」「Les Monts Damnes de Bourgeois」等このドメーヌのフラッグ・シップであるワインを生み出す。

シャヴィニョールの村をドメーヌより見下ろす。


 
ジャディなどのスペシャル・キュヴェは木樽発酵・熟成である。これはバトナージュ風景。手作業はあくまでも手作業。

シャヴィニョールの村に点在するセラーの一つ。

 

 

サンセール、プイィ・フュメの2002年は?

 「とても偉大な年です」。

2002年の作柄を尋ねると迷いの無い答えが返ってきた。「世紀のミレジムとまでは言えないかもしれませんが、偉大です。1990年と比較しうるでしょう」。そしてその理由として花の季節に続いた高温と多雨、それによって引き起こされたミランダージュ(Millerandage:結実不良)を挙げた。今年の結実不良は結果的に小さなブドウ果、すなわち非常に凝縮された強いブドウという形になったようだ。従って収量は例年よりも低い。

 ジャン・マリー氏がドメーヌの仕事に参画したのは1956年だが、そこで彼が携わった過去の偉大なミレジムを尋ねてみた。返ってきた答えは1959年、1961年、1969年、1978年、1982年、1988年、1989年、1990年、1996年、1997年。これらのミレジムはサンセール、プイィ・フュメ選びの一つの指標となるのではないだろうか。

 

クロ・アンリ(Clos Henri) 〜ニュージーランドの可能性〜

サンセールの帝王ながら、全く驕りの無い人である。

 「ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを表現できる新天地を探して」。その言葉をジャン・マリー氏から聞いた時に思い出したのはローヌのシャプティエ社だ。ミシェル・シャプティエ氏もローヌ・セパージュの新天地を探して、オーストラリアに辿り着いた。ジャン・マリー氏とミシェル・シャプティエ氏という二人の氏、そして彼らの会社に対する世間の捉え方は全く異なるものだが、人とパーセルの顔が見えるワインや、二人があくなき開拓者であることなどに、個人的には多くの共通点を見出してしまう。

 ところでその新天地探しは1989年に遡る。彼らがニュージーランドの南島、マールボロに96haの土地を購入したのが2000年なので、実に11年間探し続けたということだ。そして彼がマールボロに的を絞った理由を要約すると以下である。

@     ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールを表現するためのテロワール。マールボロはニュージーランドで既に最も有名なワイン産地であり、マールボロで生産されたソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを試飲した時にテロワールのポテンシャルを確信した。購入した区画には3つのテロワールがある(砂利、灰褐色粘土、完璧な日照量が望める急斜面の灰黄色粘土)。

A     ニュージーランドのワインの年間平均生産量は6万klとまだ少なく、開発の余裕がある。

B    「とても自然で、ピュア」であるニュージーランドのエスプリ。

C     購入した区画には羊のための牧草地が点在しており、過去これらの牧草地に殺虫剤や除草剤、その他の化学薬品は使用されていない。すなわち健康な土地であり、生態系という観点でも素晴らしい。

D     マールボロにはブドウの病気はベト病しか存在しておらず、特別な病害対策が不要。

 

 購入した96haのうち植樹可能な面積は約65haである。現在4,5haが植樹済みで、生育はすこぶる順調とのことだ。毎年5haずつ植樹していく予定である。ちなみにクロ・アンリ(Clos Henri)という名前は「クロ」に「特別な土地であること」を、「アンリ」にはヴィニョロンとしての情熱と目的を自分たちに刻んだアンリ・ブルジョワに再度敬意を表して名付けられたものであるらしい。

アンリ・ブルジョワは「La Lettre d‘Henri Bourgeois」というドメーヌニュースを発行しているが、2001年の11月号には誇らしげに「クロ・アンリが生まれました」と書かれている。植樹に10年以上かかるわけだからまさに生まれたてのブドウ園だが、まずは2003年の初ヴィンテージを期待したい。

 

参照:Domaine Henri BOURGEOIS(ドメーヌ・アンリ・ブルジョワ)

山羊のフロマージュ、クロトン・ド・シャヴィニョールで有名なシャヴィニョールに位置し、10代以上続くサンセールを代表する生産者。サンセールを中心にプイィ・フュメにも畑を所有し、総面積は60haを越える(ピノ・ノワール:10,41ha、ソーヴィニヨン・ブラン:49,65ha。年間平均生産量は約52万本)

 

追記:ジャン・マリー氏より伝言

現在彼はサンセールのゴルフ場に所有権を持つが、ワイン以外に費やす時間が無く、この所有権を手放したいとのこと。ご興味がある方は当HPまでご一報ください。

la_mer_du_vin@yahoo.co.jp