番外編&速報 オスピス・ド・ボーヌ 2004

144eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE

〜大幅下落!2004年の一樽あたりの平均落札価格は、前年比29,18%ダウン〜

  (Beaune 2004.11.21)

 

 

  2003年同様、
雨の中行われた144回オスピス・ド・ボーヌの競売会。昨年は「世紀の酷暑暑」が「異例のミレジム」としてむしろ稀少感が出た上、収穫量の少なさは品薄感を生み、加えて海外からの買いもやや活気を取り戻したことが、前年比約21%の大幅アップに繋がった(一樽あたりの平均落札価格)

 オスピス・ド・ボーヌの精神はあくまでも「チャリティ・バザー」であり、また11月の試飲は品質を判断するには「早すぎる」という意見も多い。しかし当年の最初の競売は、やはり価格動向を占う最初の指標として関係者からは注目される。では「昨年の大幅アップ」「市場の現状」「試飲の評価」といった要素は、今年のオスピス・ド・ボーヌにどのような結果をもたらしたのか? 

競売会場全景と、主催者席。入場者や見学人の多さには活気があったのだが、、、。

 

一樽あたりの平均落札価格は前年比29,18%ダウン

 まずは全体的な競売の結果である。

 (資料はプレスとして、委員会から許可を得て正式に頂いたもの。円換算は1ユーロ=135円で計算)。

 

    蒸留酒含む落札総合計: 3,036,990ユーロ(約4億1000万円)

    ワインのみの落札総合計: 3,026,000ユーロ(約4億850万円。前年比 11,60%減)

    ワインのみ落札総樽数: 699樽(前年比 24,82%増)

    ワインの一樽あたりの平均落札価格: 4,329ユーロ(約58万4000円。前年比 29,18%減

 赤: 3,833ユーロ(約51万7000円。前年比 33,35%減

 白: 6,257ユーロ(約84万5000円。前年比 20,87%減

 

 過去5年で、一樽当たりの平均落札価格が前年比を下回ったのは2001年(24%減)と2002年(9%減)。だが約30%減とも言える今回は更にそれを下回る。

 もっとも下落傾向はネゴシアン組合やブルゴーニュ委員会側で、既に予測かつ期待(?)すらされていたことだった。と言うのもやはり昨年は「高値過ぎた」というのが誰にとっても正直な見解であり、「市場を考えると2002年並の価格に戻ることが望ましく、同時に2年続きの偉大なミレジム(2003、2004)の後に更なる価格の上昇はあり得ない」とされていたからだ。しかしその2002年と比べても約14%減であることは、関係者を少なからず動揺させた。特にオスピスの責任者であるアラン・スグノ氏は、全てのキュヴェにおいて大幅な下落傾向が明らかになってきた競売開始約1時間後、「オスピスは元来チャリティであり、単なるバロメーターではないのに」と落胆を隠せない発言をした(確かに中には前年比約53%減のキュヴェなどもあり、赤は開始直後から散々な数字を推移していた)。

 この流れは白の競売開始後に少し上向き方向になるものの、結果としては白も一樽当たりの平均落札価格は、前年比約20%減。オスピスはボルドー・プリムール等とは異なり、価格方向を「決定づける」役目は担っていない。しかし2004年のブルゴーニュがニュイ、ボーヌに関わらず「市場で価格上昇を続ける」という構図は、まずは否定されたと言えるだろう。

 

なぜ、赤はここまで下落したか?

 確かに今回のオスピスは、下落条件が揃っていた。またブルゴーニュワインの出荷状況は、フランス国内外を総体的に見て、白の方が伸びを見せている背景もある。しかしそれにしても赤のこの下落ぶりは(もっとも33%減はまだ「予想内」だった、という各委員会の発表もあった)?これは私の全く個人的な意見ではあるが、下落を後押ししたのは、最終的に「ワインの質」ではないだろうか。

 幣HPの「ブルゴーニュの収穫レポート」でも触れてきたが、2004年は病害の多さや8月の冷夏や雹害があり、誰もが成功を手に入れることが出来るミレジムではない。それは各キュヴェの味わいにも如実に出ていて、ワインが生まれたてであることを差し引いても酸が突出し過ぎているものが多く、他にもキュヴェによっては、単調な香り、熟していない青いタンニン、余韻の短さ等が目立ち、「バランスが良い」「複雑性がある」といったコメントを残せるものは本当に限られていた(競売前に行われるプレス用の試飲では、全てのキュヴェが提出された)。

一方、白である。一次発酵中のものも多かったので品質に言及するには早過ぎるものの、それでもミネラルは豊かで、バランスの良さが生まれそうな期待を持たせるものが少なくなかった。これは私一人が感じたことではなく、競売中に様々なプロの方々と意見を交わしても、「白は予想外に良かった」という意見が圧倒的である。この評価はオスピス側でも予測していたようで、今年のプレス用の試飲は赤から開始(通常は白からであるらしい)。確かに残糖が残る白の後に、「痩せた」ものも多かった赤の試飲は、より評価が辛くなりそうだ。

競売前日に行われた、プレスの試飲

要するに、もし私がバイヤーだったら?やはり総体的な赤の印象は、「通常より高値で買う必要はない」と判断させるものがあったように思うのだ。

 

ただし「自分の舌を信じたら」ではあるが、味わいがそのまま価格に直結しているとは思えないキュヴェもあった。なぜならAOCボーヌや、サヴィニィ、モンテリなど目立たないアペラシオンは全体的に著しく前年を割り、一部の有名・人気キュヴェがかろうじて予想内の下落に留まる傾向が見られたからだ。これは言い換えれば、幾つかのキュヴェは単純に下落の傾向に巻き込まれただけで(?)、買い手・消費者にとっては非常にお値打ちでもある(私的には数種類のAOCボーヌのキュヴェには、ブルゴーニュらしい好ましいバンスを感じた)。ちなみにロットの平均値で最安値だったキュヴェは、モンテリー(キュヴェ・ルブラン)の1500ユーロである。

 

ところでCAVB会長ジル・ルモリケ氏(ニュイ・サン・ジョルジュに拠点を置くドメーヌ・アンリ・エ・ジル・ルモリケの現当主)は、2004年のオスピスを品質の面でこう語っている。

「収穫までに病害が多かったこと、また病害によって葉がやられると光合成の点で問題が起こることも事実だ。しかし病害自体がブドウの質を下げるわけではない。なぜなら不健全な房は取り除けば良いからだ。よって選果が例年より重要であったことは言うまでもない。

 結果的に2004年は『ラネ・ド・ヴィニュロン(生産者が鍵を握るミレジム)』。最高の栽培者、最高の醸造者が成功する。よって品質は非常に多様だ。ただし白に関しては、もっとオプティミストであっても良い」。

  

有名キュヴェの価格は?

とにかく主催者側にとっては、「収益性」も含めて課題が多々残される結果に終わった今年のオスピスであるが、最後に気になる「有名キュヴェ」の落札価格を、一部挙げておきたい。

また昨年の状況は当HP「番外編&速報 オスピス・ド・ボーヌ 143eme Vente aux Enchères des Vins des Hospices de BEAUNE」に掲載。

 

    マジ・シャンベルタン(マドレーヌ・コリニャン)

最高落札価格: 19000ユーロ(ロットC、D)

最低落札価格: 17000ユーロ(ロットA、E。Eにはデュガの「ラ・ジブリヨット」も含まれる)

    クロ・ド・ラ・ロッシュ(シロ・ショードロン):

最高落札価格: 19200ユーロ(ロットA。ルイ・ラトゥールでの熟成後、アサヒビールからの販売となる。赤では昨年の落札価格を上回った唯一のキュヴェ

最低落札価格: 15800ユーロ(ロットA,E。Eにはデュガの「ラ・ジブリヨット」も含まれる)

    ボーヌ(ニコラ・ロラン)

最高落札価格: 3000ユーロ(ロットB)

最低落札価格: 2500ユーロ(ロットC、E)

    コルトン・シャルルマーニュ(フランソワ・ド・サラン)

最高落札価格: 8600ユーロ(ロットC)

最低落札価格: 7500ユーロ(ロットB)

    バタール・モンラッシェ(ダム・ド・フランドル)

最高落札価格: 34000ユーロ(ロットA)

最低落札価格: 33000ユーロ(ロットB)

 

上記の落札には日本も少なからず関わっているので、追記として、「ブルゴーニュから見た日本」について。

日本はアメリカ、カナダと並ぶ「3大重要輸出国」。ボリューム・ベースでは総輸出量の30%、価格ベースでは40%を占め、これはちょうど、ベルギーとドイツへの輸出を合わせた数字である。この数字をブルゴーニュ委員会など各組合は、以下のように分析している。

― 日本におけるワインブーム後、輸出は著しい数字の凹みを見たものの、経済状態がやや上向きになり、日本のワイン市場は素早く経済状態に反応した。また背景として、食事の西洋化、フレンチ・レストランの普及、はっきりとした味を好む嗜好、アルコール販売の規制緩和、7500人ものソムリエがいることは、ブルゴーニュワインに有利に作用している。

 

 さて、これらのキュヴェが市場に出る約2年後、ブルゴーニュと日本の現状はどこに向かっていくのか?またオスピス・ド・ボーヌは、自身の「歴史的なチャリティ」としての権威をどのように維持していくのか?

当HPでも、随時報告を続けていきたい。