Domaine Philippe et Vincent LECHENEAUT 〜ニュイの違いを知りたければ、ルシュノーを飲め!〜 (Nuits−St−Georges 2002.9.4) |
ごく稀に誰からも悪く言われない人がいる。そして同じように、誰からも悪く言われないワインというものもある。フィリップとヴァンサンのルシュノー兄弟と、彼らの造るワイン達。まさに前述の「悪く言われない」という条件を満たしてはいないだろうか?パーカー、ベタン、パリのワインショップの店主、彼らを訪れたことのある人達、ブルゴーニュの生産者。ルシュノーに行くんだ、と言うと彼らから決まって返ってくる言葉は「ルシュノーか。美味いよな、どれも。あっ、それと2人ともとてもいい奴だぞ」なのだ。
訪問当日、案内していただいたのは弟のヴァンサン氏。私事だが彼の風貌はパリで寿司屋を営む知り合いによく似ていたのであるが、この寿司屋の店主がまたよい人で、洋の東西を越えて「いい人」の顔相があるものだと妙に感心した。
この日案内していただいたヴァンサン氏。フィリップ氏は他のグループを案内していた |
畑と醸造 |
現在16種類のワインを生産しているルシュノーだが、ここで残念なニュースと嬉しいニュースがある。
まず残念なニュースだが、彼らのニュイ・サン・ジョルジュ カイユは2000年のミレジムをもって終わりである。というのもこの畑は借りていた畑であり、2000年でその契約が切れたのだ。「18年も働いていた畑なので残念だ」とヴァンサン氏が言うとおり、ルシュノーの造るワインの素晴らしさを知っている人達にとっては「残念」としか言いようがない。そして嬉しいニュースとは2002年のミレジムに新たな畑が加わった。それはモレ・サン・ドニ クロ・デ・ゾルムだ。初ミレジムが日本の市場に出るのは約2年後になるが、見つけたらまずは試したい1本だ。
ちなみに今他の畑が手に入るとしたら、最も欲しい畑がやはりニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ、次にヴォーヌ・ロマネ プルミエ・クリュと現在8a弱しかないクロ・ド・ラ・ロッシュを広げたい、とのことだった。
そして「とにかくブドウの質ありき」と力説するだけあり、剪定からヴェンダンジュ・ヴェルトに至るまで「収量を抑え良いブドウを残すこと」に専念し、収穫時の選果、収穫後の選果も非常に厳しい。ちなみに2年前より畑の仕事はビオロジーを採用しているが、ラベルなどに特にビオであることは謳っていない。
16種類のワインは以下。
ブルゴーニュ・アリゴテ
ブルゴーニュ・ブラン
ブルゴーニュ・ルージュ
ブルゴーニュ・ルージュ クロ・プリウール(Clos Prieur:ニュイ・サン・ジョルジュ産とヴージョ産のアッサンブラージュ)
ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ブラン
ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ ルージュ
ニュイ・サン・ジョルジュ
ニュイ・サン・ジョルジュ ダモード
ニュイ・サン・ジョルジュ プルリエール(1999年より)
ニュイ・サン・ジョルジュ カイユ(2000年まで)
ジュヴレイ・シャンベルタン
ヴォーヌ・ロマネ
シャンボール・ミュジニィ
モレ・サン・ドニ
マルサネ
クロ・デ・ゾルム(2002年より)
クロ・ド・ラ・ロッシュ
醸造に関しては、パーカーの本にある「アメリカ向けの100%新樽村名ワイン」というものは今は存在せず、同じ銘柄のワインは全く同じように醸造される(「彼らはとにかく100%新樽で、と要求してきたが、『樽ワイン』を造るのはやはり好みではなかったんだ」とのこと。現在はクロ・ド・ラ・ロッシュと1級畑には100%、村名ワインには50−60%、ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイには20−50%の新樽を用いる)。
収穫されたブドウは選果後、100%除梗される。一次発酵は10度以下のマセラシオン・プレ・フェルマンテ・ア・フロワ(発酵前の低温マセラシオン)を経て、ブドウ由来の自然酵母による発酵が始まるのを待ち、その後キュヴェによりセメント、ステンレス、オークの樽で行われ、必要に応じたピジャージュとなる。一次発酵後は空気圧圧搾機で圧搾、不要な澱を自然に落とすため4−5日のデブルヴァージュの後、トノーあるいはピエスに移される。樽での二次発酵、熟成期間は最も長いクロ・ド・ラ・ロッシュで約18ヶ月だ。
また澱引きはここ数年来、瓶詰め前の1回しか行わない。そして清澄・濾過も行わない。これらが可能なのはヴァンサン氏が何度も力説するように「良いブドウ」であるから成立することであり、また醸造面ではこれらを可能にするために、瓶詰め前にワインをステンレスタンクに移し、3週間から1ヶ月かけて自然に澱が落ちるのを待つ。
「Qualite de raisin(ブドウの品質)が良ければ、醸造は勝手に上手く進んでいく。必然的にSO2の使用量も含め、私達が手を加えることも減っていく」とは何度もヴァンサン氏が言った言葉だ。その言葉通り、醸造過程は「信用している」ブドウの風味をストレートかつ最大限に表現するために、非常に適したものに思われる。
セラーの入り口にある選果台 |
テイスティング 〜2001年とは?〜 |
ブルゴーニュの2001年。一般的に「難しい」と言われているミレジムである。そこでヴァンサン氏に2001年について尋ねてみた。
「2001年が難しいか、難しくないか?これは収量を抑えた生産者とそうでない生産者で、はっきりと分かれるはず。なぜなら、残念なことに2001年は収穫前の太陽が正直足りなかった年だったからだ。にもかかわらず収量を抑えなかった場合、ワインの風味にどう反映されるかと言うと、糖度の不足、酸の突出は勿論、質の良くないタンニンからは不快な苦味が生まれる。しかし、最後まで収量を抑え、熟したブドウを選んだ生産者にとっては興味深いミレジムになるのでは?フレッシュなフルーツのアロマに溢れているし、個人的にはこの酸のレベルは1996年と共通したものを感じている」。
そこで今回試飲したワインは以下だ(全て2001年。バレルテイスティング)
ブルゴーニュ・ルージュ クロ・プリウール
ニュイ・サン・ジョルジュ
ニュイ・サン・ジョルジュ ダモード
ニュイ・サン・ジョルジュ プルリエール(1999年より)
ニュイ・サン・ジョルジュ カイユ(2000年まで)
ジュヴレイ・シャンベルタン
ヴォーヌ・ロマネ
シャンボール・ミュジニィ
マルサネ
クロ・デ・ゾルム(2002年より)
クロ・ド・ラ・ロッシュ
ルシュノーのテイスティングは一言「楽しい」。なぜなら見事に「イメージ通りに、そしてより華やかに」各アペラシオンが表現されているからだ。例えば、村名ニュイ・サン・ジョルジュ。これはニュイ・サン・ジョルジュの中でもヴォーヌ・ロマネ寄りと南側のパーセルをアッサンブラージュしたものだが、ブラインドで飲んでもアッサンブラージュ前のどちらのキュヴェがヴォーヌ・ロマネ寄りかはすぐに分かる。全てがこの調子でヴォーヌ・ロマネ レ・ショームの隣であるダモードからは、ニュイ・サン・ジョルジュでありながらヴォーヌ・ロマネに共通する複雑性が感じられるし、パーセルの違いが語れるほど自分のテイスティング能力が向上したのか(?)と思われるほど、美しいアペラシオンのイメージがワインの中に表現されている。「ワインを飲む楽しさ」の一つは間違いなく「違いが分かり、好みを選ぶことが出来る」ことだと思うが、ルシュノーのワインはその「楽しさ」を素直に提供してくれる。
その中で今回特筆したいのは、やはり年間450本しか生産されないと言う「クロ・ド・ラロッシュ」。ヴァンサン氏曰く「クロ・ド・ラロッシュという一つのクリュの中で、既に違いがあるんだ。丘の上部は文字通り『ロッシュ(岩)』の上。だからミネラリーで、強さを持ちながら同時にエレガンスとフィネスに溢れるワインになる。そして熟成を要するワインで熟成してこそ豊かさを感じることが出来る。一方道沿いの下部は、はっきりとエレガンスやフィネスに欠ける。早く飲むには良いかもしれないけれどね」とのこと。そしてルシュノーの区画はクロ・ド・ラロッシュの中「リューディ・モンリュイザン」にあり、クロ・ド・ラロッシュとしては最も上部に位置するのだ。
クロ・ド・ラロッシュを試飲して、真っ先に感じられるのは「ミネラリーな土の艶」と純度の高いスミレ。そしてタンニンは細やかかつ軽やかで、「熟成した時の絹の喉越しを感じたい」と思わせるポテンシャル。しかし後半の伸びは、絡みつくような果実の甘さとフルーツケーキのようなヴォリュームによるもので圧倒される。これらの要素がどのように一つの方向に向かっていくかが楽しみだ。
訪問を終えて |
この日は兄のフィリップ氏は、他の数人のグループを案内していた。時々耳に入るフィリップ氏の説明から判断すると、特にワインに詳しい人達を案内しているようには思えなかった。そして今回案内していただいたヴァンサン氏は勿論広報の人ではないのに、一外国人にゆっくりとしたフランス語を一語一語選んで、貴重な時間とキュヴェを与えていく。
不思議だ。ルシュノーも既にある意味コマーシャルなど必要が無い高名なドメーヌであるにも拘わらず、人々を受け容れ、丁寧に説明していく姿勢。この姿勢がワインの味や周囲の評価に自然と繋がっている、と言えば余りにも陳腐な結果論だが、彼らに束の間接し、彼らのワインを飲んだ時に素直に感じた感想である。
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