Louis SIPP
アヴェレージ・ハイ・ヒッター

(Ribeauville 2002.6.10)

 

 アヴェレージ・ハイ・ヒッター

 アルザスのグラン・クリュばかりを比較試飲するLes Grands Crus d‘Alsaceという試飲会でシッピのワインを飲んだ時の印象だ。

 コルマールを少し北上したリボーヴィレを拠点に、現在は4代目のエティエンヌ・シッピが指揮をとる家族経営のドメーヌ。第一次世界大戦の終わりに初代ルイによって設立され、アルザスが翻弄された二つの戦争の間にも着実に事業を拡大していった。

 日本では余りまだ知られていないが、熟成能力のあるクリーンな味わいは、ベタンやギド・アシュットといったフランスの権威だけでなく、ワイン・スペクテーターなど欧米全体でやはり常に好位置に付けている。

 

  

リボーヴィレエ Ribeauvilleとは?

3つのグラン・クリュ(キルヒベルク Kirchberg、ガイスベルク Geisberg、オステルベルク 

Osterberg)を持つリボーヴィレエとはどんなところなのか?

オー・ランでは北に位置するリボーヴィレエの土壌を一言で言えば「モザイク」。南北を主体に東西にも断層が走っており、それが上手い具合に崩れ落ちて、結果、地質学的に異なった層が非常に細分化された状態で形成されているのだ。それは非常にしっかりした石灰層に始まり、粘土、泥灰、粘土砂岩、石灰の礫岩。谷側や平地は堆積した泥土と、砂利の沖積土。土壌の博物館状態である。

また、降雨量が少ないのも特徴だ(年間平均雨量550−650mm)。春には乾燥した石灰土壌を好む蘭が咲き乱れてそれは美しいらしい。夏は昼夜の寒暖の差が激しく、特にゲヴュルツトラミナーに繊細なアロマを与えることに役立っている。秋は霧に包まれ、ヴァンダンジュ・タルディヴやセレクシオン・ディ・グラン・ノーブルのブドウがじっくりと貴変化するのに適している。

 

テイスティング

 今回のテイスティングをアレンジしてくださったのは、2年前までシュッド・ウエストにいたという、ヴァンサン・ラリエール氏。現在シッピでは18人の人達が働いているが、彼曰く「家族経営の会社の中で、自分のような人間がいることは良いんじゃないかな」とのこと。

 テイスティング銘柄は以下。

 

@2001年セパージュ違い(まだ瓶詰めされていないものも含む)

ピノ・ノワール グロスベルク

ピノ・オーセロワ

ミュスカ

リースリング

ゲヴュルツトラミナー

 

A2000年リースリング パーセル違い

リースリング シュタインナッカー(砂利)

リースリング ハーゲル(花崗岩)

リースリング ミュエルフォルスト(粘土)

 

Bリースリング キルヒベルク グラン・クリュ(2002年現在樹齢29年。石の多い粘土質土壌。南南東向きの畑) ヴァーティカル

2001

1998

1997

1996

 

Cトカイ・ピノ・グリ パーセル違い&ヴァーティカル

2000 トカイ・ピノ・グリ

1998 トカイ・ピノ・グリ キルヒベルク グラン・クリュ(2002年現在樹齢10年)

1996 トカイ・ピノ・グリ シジエ・パー・ラ・コンフェリー・サン・エティエンヌ(Sigille par la

Conferie Saint Etienne)

1994 トカイ・ピノ・グリ レゼルヴ・パーソネル

 

Dゲヴュルツトラミナー パーセル違い

1999 ゲヴュルツトラミナー レゼルヴ・パーソネル

1998 ゲヴュルツトラミナー オステルベルク グラン・クリュ(2002年現在樹齢37年。石の多い粘土質土壌。東南東向きの畑)

2000 ゲヴュルツトラミナー ローテンベルク

 

Eヴァンダンジュ・タルティヴ、セレクシオン・ディ・グラン・ノーブル

2001 リースリング キルヒベルク グラン・クリュ ヴァンダンジュ・タルティヴ

2001 ゲヴュルツトラミナー オステルベルク グラン・クリュ ヴァンダンジュ・タルティヴ

1995 トカイ・ピノ・グリ シジエ・パー・ラ・コンフェリー・サン・エティエンヌ

2000 ゲヴュルツトラミナー オステルベルク グラン・クリュ セレクシオン・ディ・グラン・ノーブル

 

 テーマ別の試飲で特に面白かったのはまずA。リースリングの特徴としてよく「石油の香り」が挙げられるが、この石油の香りが顕著に感じられたのが花崗岩土壌だった。石油の他に石けん等といった少しケミカルなニュアンスがある。一方砂利質や、粘土質には殆ど石油の香りは感じられず、前者にはマンゴーやターメリックといったオリエンタルなニュアンスを、後者にはぴちぴちとした最も心地よく、親しみやすい酸とミネラルを感じた。

 Bのリースリング キルヒベルク グラン・クリュのヴァーティカルだが、2001年は心地よいミネラルとパイナップル様の弾けるような甘酸っぱさのバランスが良く、既に十分チャーミングであることに驚かされた。1998年にはヴュー・コンテのような深みがあり、今回個人的に最も評価したヴィンテージ。1997年には今回の試飲では粘土質土壌に余り感じられなかった石油のニュアンスを、味わいの奥に感じた。最も熟成に時間がかかりそうなのは1996年で、まだ堅牢な酸に守られていて他の要素が見えにくい。

 Cのトカイ・ピノ・グリ パーセル違い&ヴァーティカルでは、ヴィンテージが古くなりキュヴェが上質になるのに綺麗に比例して、「岩清水」とでも呼びたくなるような透明感のあるミネラルと、フォアグラを食べたくなるような甘さを伴った質感が増してくる。

 Dのゲヴュルツトラミナー パーセル違いでは、1998 ゲヴュルツトラミナー オステルベルク グラン・クリュに最も複雑性を感じた。ライチや白コショウといったゲヴュルツトラミナーの特徴に加え、乾いた藁や、生姜、ミルク、ホワイトチョコなどが加わる。ビターなチョコと合わせてみたい。

 しかし今回の試飲では、全ての1998年に動物的なニュアンス(リースリング キルヒベルク グラン・クリュ:ヴュー・コンテ、トカイ・ピノ・グリ キルヒベルク グラン・クリュ:リエットやパテ、ゲヴュルツトラミナー オステルベルク グラン・クリュ:ミルク)を共通して感じるのが面白い。

 そして最後にEのヴァンダンジュ・タルティヴとセレクシオン・ディ・グラン・ノーブル。興味を惹かれたのが1995 トカイ・ピノ・グリ シジエ・パー・ラ・コンフェリー・サン・エティエンヌだ。オレンジビターや、ビターチョコ、カフェ・オレなどが柔らかなミネラルと絶妙なバランスを取っている。シッピが生産するセパージュ・ノーブルの中で最も樹齢が若いのがトカイ・ピノ・グリなのだが(10−15年)、全体的に綺麗にまとまっている印象が強いシッピのワインの中で、若いながら(若いから?)記憶に残る印象を放つのは、全体を通してもやはりピノ・グリだった。これからが楽しみだ。

 

リュット・レゾネ。その理由とは?

 シッピはビオロジーの前段階を実践している生産者だ。Lutte Raisonne。直訳すると「理論的根拠に基づいた運動」。平たく言えば「理由があるから、こうしている」。

 テロワールを表現するためにシッピが重要視していることは、やはり出来るだけ自然にということだ。科学肥料を用いず、酵母は自然酵母、1982年に導入した空気圧式圧搾機のお陰で除梗せずに圧搾できる比率も増えた(現在約50%が房ごと)。もちろん、補糖・補酸は行わない。濾過は行うが、清澄に関しては作柄によって行わない年もある。

 では、ビオに踏み切れない理由は何なのか?気になるではないか。その質問にも快く応えていただいた。

 彼らが畑での作業と醸造において、それぞれに一つずつ唯一「手を加える」ものがある。

 まず畑での作業で使うのは殺虫剤である。春先に蝶が卵を産み付け、それらはやがて毛虫となって葉を荒らす。その産み付けられた部分のみ使用するそうだ。それ以外は除草剤等も使用しない。

 次に醸造過程で唯一加えるものがSO2(これはビオであっても用いている生産者の方が多い)。SO2を使う理由がずばり、「テロワールを表現するため」なのだ。つまりアルザスのような石灰の多い土壌を表現するためには、瓶内での長い熟成が必要となる。「SO2の使用はワインの保存と、長熟を必要とするテロワールの表現を可能にする、唯一、かつ周知の手段です。問題があるとすれば量」。

 SO2の使用については、ビオ実践者同士でも意見の分かれるところだ。しかしこんな風潮の中「きっぱりと」言い切ることができる自信は素晴らしい。

そしてこう言い切ったシッピの名誉のために、今回の25種類にも及ぶ(討論しながらなので実に3時間半。終わりが見えてきた時からは結構飲んだ)試飲の後、特に疲れも残らず、次の日頭痛にもならなかったことを報告しておきたい。

 

添付写真の説明:

@説明してくださったヴァンサン・ラリエール氏と、一緒にテイスティングしたカナダ人ソムリエ2人。