M.CHAPOUTIER
〜貫かれたポリシー〜 (Croze Hermitage 2002.7.9) |
言わずと知れたシャプティエ社。シャプティエのイメージといえば、「グラン・メゾン」、「ビオディナミ」と、そして「モノ・セパージュ主義」。
しかし規模の大きな会社であるほどその真実が見えにくい。管理されたコマーシャル・システムの中、広報担当者は決して口を滑らさない。ビオディナミと言っても、大量の銘柄と生産量の中でどのラインまでに実践されているのか等々、消費者としては知りたいではないか。
テイスティング |
タン・エルミタージュの駅から歩いてすぐの場所に、シャプティエ社の美しいブティックがある。対応してくれたのはブティックのマネジャーである、ヤン・ピノ氏。バレル・テイスティングは断られたが、以下の銘柄をテイスティングすることが出来た。
白
*ヴァン・ド・コトー・ド・アルデッシュ ヴィオニエ 2001
*クローズ・エルミタージュ ラ・プティ・リューシュ(La Petite Ruche) 2001
*サン・ジョゼフ デシャン(Deschants) 2000、1998
*コンドリュー 2001
*エルミタージュ シャントルート(Chante―Alouette) 2000、1995
*エルミタージュ ド・ロレ 1999
*エルミタージュ ヴァン・ド・パイユ 1997
赤
*クローズ・エルミタージュ レ・メソニエール(Les Meysonniers) 1999
*サン・ジョゼフ デシャン 1999
*コート・ロティ レ・ベカッス(Les Becasses) 1999
*エルミタージュ ラ・シゼランヌ(La Sizeranne) 1999
*コート・ロティ ラ・モルドレ(La Mordoree) 1999
*エルミタージュ ル・パヴィヨン(Le Pavillon) 1999
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エルミタージュの丘の最も高台より、パヴィヨンの畑を見下ろす。シャペルは15世紀に建てられたもの。眼下に広がる街は、手前よりタン・エルミタージュとローヌ側を挟んで、トゥールノン・シュル・ローヌ |
そして赤になると、各銘柄の風味の違いが素晴らしい。シャプティエの「モノ・セパージュ主義」は「テロワールの違いを忠実に表現するため」というシンプルな考えの基らしいが、実際テイスティングすると同じセパージュでここまで風味が違うものか、と目から鱗が落ちる思いだ。しかも根底には共通して非常に熟した赤・黒系果実や、甘草、ガリーグといったローヌの特徴であるラインがきちんと引かれている。また、単一畑、モノ・セパージュから造られる高級キュヴェには当然100%新樽が使われているのだが、殆ど木のニュアンスが感じられず見事にカフェなどの香りに昇華しており、凝縮された果実味とのバランスが素晴らしい。そして赤、白、ヴァン・ド・パイユ、全てのワインを通して人工的な味わいは全く無い。
ローヌであり、シャプティエであること、そしてテロワールの違い。規模の大きな会社でありながら、その哲学が見事にワインの風味に反映されている。
シャプティエQ&A |
本には書かれていない質問にも快く答えていただいたので、ここではその一部を紹介したい。
Q:ビオディナミはどのラインまで実践されているのか?
A:自社畑のものは100%ビオディナミだが、契約農家のものはビオディナミではない。ただし、契約農家も厳しくコントロールしている。
Q:どの銘柄が自社畑なのか?
A:自社畑は以下:
全てのエルミタージュ
全てのコート・ロティ
シャトーヌフ・デュ・パープ バルブ・ラック
シャトーヌフ・デュ・パープ クロワ・ド・ボア
全てのサン・ジョゼフ
クローズ・エルミタージュ・ルージュ レ・ヴァロニエール
コトー・ディクス テッラ・ドール
コンドリュー
ヴァン・ド・コトー・ド・アルデッシュ ヴィオニエ
バニュルス テッラ・ヴィーニャ
自社畑と契約畑がパーセルによって違うもの:
サン・ジョゼフ デシャン
クローズ・エルミタージュ レ・メソニエール、ラ・プティ・リューシュ
上記に無いものは、全てネゴシアン。
Q:ルーサンヌではなく、マルサンヌをエルミタージュのセパージュとして選んだ理由は?
A:もともと所有していたパーセルにマルサンヌが多かったということと、ルーサンヌはウドンコ病などの病気に弱いため。
Q:シャプティエのエルミタージュとコート・ロティのスタイルの違いを、一言で言うと?
エルミタージュは力強さ、コート・ロティは繊細さとエレガント。
Q:現在醸造に関わっている人は何人いるのか?
A:100人以上。
Q:高級キュヴェにおいてSO2の使用量はビオディナミ実践以降、減少の傾向があるのか?
A:健康なブドウで厳しい選果を行えば、必然的に減る。ただし味わいとして感じるかは、(ヤン氏自身)まだ分からない。テロワールの表現していくことは時間がかかるからだ。
Q:また、清澄や濾過は?
A:行わない。
Q:点字ラベルは誰が考えたのか?
A:ミシェル・シャプティエ。1996年に友人とディナーを取っている時に、その中に一人盲目の人がいたのがきっかけ。
Q:新世界でワインを造る時に、なぜオーストラリアを選んだのか?
A:ローヌ・セパージュを表現できる新天地を求めた結果。
Q:以前ミシェル・シャプティエ氏と夕食をご一緒する機会がありました。その時にジャブレ氏がマルサンヌと、カレー粉などエスニックなスパイスとの相性の良さについて語っていたことが印象的だったのだが、ローヌ・ワインとアジアの料理の相性をどう思われるか?
A:特に白は良いと思う。昨年もソムリエの国際コンクールで、マルサンヌと日本食を合わせたソムリエがいたはずだ。
訪問を終えて |
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ビオ畑らしい、繁りっぷり |
テイスティングを終えた後、ブティックから歩いて5分ほどにある畑を見に行った。強い日差しの中、シャプティエの畑はブドウと雑草で青々としているのが印象的だ。
規模の大きな生産者のワインを飲んでいると、時々セレクションの違いに意義を感じないもの、またはその生産者のワインに一貫したスタイルを感じないものに出会うことがある。その中でそれらを簡単に見つけることが出来る廉価なワインに至るまで表現してみせるシャプティエは、ごく普通にワインを消費する人達から愛好家まで幅広く対応できる、非常に消費者よりの生産者なのではないだろうか。