Domaine de MARCOUX 〜柔らかく、強く〜

(Chateauneuf―du―Pape 2002.7.11)

 

 ワイン愛好家、ワインショップの店主。ワインに詳しいと言われる人ほど、自分の嗜好の方向を極めつつ、幅広く新しいものをまず受け入れる。しかし彼らの中で結局は厳しく淘汰されるので、ワインに詳しい各人に建前抜きで支持されるワインは非常に少ない。ボルドーの有名シャトーでも、ビオフェチにとっては「人為的なワイン」と一言で片づけられることもあるのだ。

そこで、ドメーヌ・ド・マルクーのワインは面白い。誰かにアドバイスを乞う時その人の嗜好が入るのは当たり前だが、彼女のワインを勧めてくれた人達のタイプは実に様々。シャトーヌフ・デュ・パープなら、今これが面白い、と皆掛け値無しに一押しするのだ。

 

テイスティング

 シャトーヌフ・デュ・パープでもオランジュの町に近い、北部にドメーヌ・マルクーはある。最初に迎えてくれたのは姉のカトリーヌさん。そして案内してくれたのは妹のソフィさん。1996年に兄がドメーヌを去った後ソフィさんが醸造の全てを、そしてカトリーヌさんが畑での作業の責任者として働いている。1980年から部分的にビオディナミを採用し、1991年には全ての畑に実践されている。シャトーヌフ・デュ・パープの中では大手のボーカルテルと並んで、ビオディナミのパイオニア的存在だ。

シャトーヌフ・デュ・パープの醸造は、除梗は年によって行いVertical Hydrauliqueという垂直に水力が加わる破砕機によって優しく破砕される。一時発酵、3週間のマセラシオンを経て、パーセル毎にバリック、あるいは大型のキューヴで(約半々)で約14ヶ月熟成後、瓶詰めされる。

醸造はごく伝統的だが、特筆すべきは彼女たちが所有している各パーセルの仕込みが非常に細かく分けられていることだ。例えばシャトーヌフ・デュ・パープのパーセルは、Les Petit Cailloux(小石)、Pradel(石灰がより多い小石)、La Crau(赤土の小石)、Esquirons(砂利)、そしてヴィエーニュ・ヴィーニュのCharbonnieres等だが、ノーマル・キュヴェはLes Petit CaillouxとPradelをバリックで熟成、La Crau、Esquirons、その他の小さなパーセルは900Lの10年物の大樽で仕込んだ後に、アッサンブラージュする。今回はアッサンブラージュ前の各キュヴェを試飲することが出来たが、補い、競い合うかのように性格の違いがはっきりしているのが印象的だった。

また、1999年より彼女はルーサンヌ100%をバリックで仕込む試みを始めた。彼女曰くまだ納得のいくキュヴェには仕上がっていないと言うが、年間600本しか生産されないこのワインを市場で見つけることが出来ればラッキーだ。

SO2については極力使用しないが、「0」というのは特に輸送において、現時点では不安が残るようだ。ただし来年よりセラーに完全に空調設備を導入するので、使用量はより減っていくだろう、とのことだった。

今回のテイスティング銘柄は、以下。

*シャトーヌフ・デュ・パープ ブラン 2001(6月瓶詰め。ルーサンヌ)

*シャトーヌフ・デュ・パープ ルージュ 2000(4月に瓶詰め)

以下は全てアッサンブラージュの前の2001年を試飲

*シャトーヌフ・デュ・パープ ブラン アルカンヌ(Arcane)

*シャトーヌフ・デュ・パープのパーセル違い(全てグルナッシュ100%)

@(バリック)レ・プティ・カイユー、プラドル

A(900Lの木製大樽)小さなパーセルの集まり

*シラー

*シャトーヌフ・デュ・パープ ヴィエーニュ・ヴィーニュ(12ha:100年、1ha:80年、1ha:60年)

 

→シャトーヌフ・デュ・パープのノーマル・キュヴェにおいては、グルナッシュ85%、残りをムールヴェードル、シラー、サンソーを使用。ヴィエーニュ・ヴィーニュは97%グルナッシュ使用。

 

 まずアルカンヌだが、とにかく優しく美味しい!木のニュアンスは全面に出ず柔らかさを与え、奥からぎゅうっ、とアプリコットや黄桃の甘酸っぱさが出てくるのが何とも心地よい。上品な白コショウもある。

 シャトーヌフ・デュ・パープのパーセル違いでは、レ・プティ・カイユーには素直な赤・黒系果実を、プラドルにはショコラやミルクのより滑らかな甘さを、また900Lの木製大樽で仕込まれている小さなパーセルの集まりのキュヴェには酸やタンニンといった骨格を、はっきりと感じることが出来た。

 シラーには、極上のフォンのような動物系の旨みが顕著にある。

 そしてヴィエーニュ・ヴィーニュ!こういうヴィエーニュ・ヴィーニュに出会うと、樹齢の高さが持つ圧倒的な違いにただただ感心するばかりだ。数種類もの滑らかなショコラ、年代物のグランマニエ、噛めるような質感のある上質なタンニン。グルナッシュの持つ多様な甘さが、何層にも重なって厚味があるのに、決して重苦しくない。素晴らしい!

 最後に瓶詰めされたシャトーヌフ・デュ・パープ ルージュ 2000を試飲した。すぐに飲める柔らかさと熟成に耐える複雑さに、ああ、シャトーヌフ・デュ・パープはこういうワインだった、ということを改めて思い出させられる。

 

柔らかく、強く

 レストランで食事を頂いた時、「シェフは女性ではないだろうか」と思ったら本当に女性だった、ということが何度かある。

 訪問するまでは、女性の方々が全ての責任を負っているドメーヌとは知らなかったのだが、今回試飲していて底辺に常に感じたのは、優しさや柔らかさだ。ヴィエーニュ・ヴィーニュがどんなに重厚であっても、その重厚さは決してこれ見よがしではなく、攻撃的でもない。しかし二、三十年くらい平気で成長していくような奥の深さや強さがある。だから色々な嗜好を持つ各人を受け容れる(各人に受け容れられる)ことが出来るのかもしれない。そういったイメージはやはり女性的だ。

 「兄がドメーヌを去った1996年、そして翌年は何もかもが本当に大変だった。とにかく兄のやっていた風にやっていくことに精一杯で。最近になって、少しずつ自分の考えがワインに反映出来るようになった。パリのワインショップの人達が、あなた方に私達のドメーヌを勧めてくれたことは、とても嬉しい」。ソフィさんの言葉だ。

私はマルクーのワインは彼女の手によるものしか知らず、私が出会った時は既に非常にレベルの高いワインだった。そして今回セラーで試飲する機会に恵まれ、単にレベルが高いだけでなく、芯に女性らしい柔らかさと強さを備えたワインであることを知った。しかし以前のマルクーを知っているパリのワインショップの人達にとっても、今や彼らの高い評価は、ビオのパイオニア的存在であったという過去の業績よりも、現在の彼女の仕事に対してのものなのだ。

最後にベタンのマルクーに対する評価を少し拝借。

「基本的には兄と同じエスプリを守りながらも、(中略)彼女たち姉妹は毎年劇的な進化を遂げている」。

 

添付写真の説明:

@     ソフィさん。

A 熟成用の、様々な大きさの樽。