番外編 PAULEE de MEURSAULT
〜「栄光の3日間」のパーティ〜

(Meursault 2002.11.18)

 

*写真あり

 

 

栄光の3日間(Les TROIS GLORIEUSES)

 栄光の3日間。その名の通り、毎年11月の第3土・日・月の3日間にわたって開催されるブルゴーニュ最大のワイン祭りである。1日目の夜はクロ・ド・ヴージョでワイン騎士団入団式が行われ(CHAPITRE de la CONFRERIE des CHEVALIERS du TASTEVIN)、2日目の午後からはブルゴーニュで最も広いブドウ畑を所有するボーヌ市内の施療院で世界中のワイン商の集まるワイン・オークションが開催される(VENT aux ENCHERES des VINS HOSPICES de BEAUNE)。そして3日目にはムルソーで収穫を祝う農家のために大昼食会が開催される(PAULEE de MEURSAULT)

 今回は3日目のポーレ・ド・ムルソー(*注)(PAULEE de MEURSAULT)に参加した。大昼食会には予約をすれば一般でも参加できるが予約は1、2年前から必要とも言われ、出会うフランス人の多くに「どうやって席を取ったの?」と何度も尋ねられた(実際私が見る限り800人近い招待客の中で東洋人は私達を含めて10名もいなかったようだ)。そしてその昼食会とはいかに?

 

(*注)ポーレ・ド・ムルソー(PAULEE de MEURSAULT)

今年で70回目を迎えるこの会の起源は収穫後、生産者と彼らの従業員や友人達が一緒にテーブルを囲む伝統があったことに遡る。

 1923年美食家であったジュール・ラフォン伯爵(ドメーヌ・デ・コント・ラフォンの初代。晩年にはムルソー村の村長も務めた)は、いくつかのドメーヌでまだ続いているこの伝統を蘇らせかつより広範囲なものにしたい、すなわちポーレの機会に世界中の美食家とワイン愛好家をムルソーに連れ戻したいと思うようになった。そこで美食仲間に呼びかけて実現したのがポーレ・ド・ムルソーなのだ。

ポーレでは毎年、文学審査委員会によって一人の著名な作家にポーレ・ド・ムルソーの賞を与える。賞は100本のムルソーであり、受賞者がポーレの主賓となる。また招待客はめいめいお気に入りのボトルを最低1本ポーレに持参しなければならない。もちろん、隣り合った人達にふるまい、素晴らしい食事を楽しむためにである。

 

  いざ、参加

 12時。会場であるシャトー・ド・ムルソーに到着した。昼食会らしい適度な正装に身を包んだマダムやムッシュウに混じってテレビのクルーも入っており、パーティならではの華やかな雰囲気だ。昼食会が始まるのは12時半。シャトー・ド・ムルソーはこの日、招待客のためにブルゴーニュらしからぬその大規模な地下セラーを全て公開している。地下セラーには要所要所に「PAULEEはこちら」と記した紙が貼ってあり、この紙を辿りながらセラーを見学していくと昼食会の会場に到着する、という粋なはからいだ。

当日の朝のシャトー・ド・ムルソーの玄関。 セラーの中を「Paulee」の文字を頼りに会場に到着。

  12時半前に会場に入る。800人前後はいると思われる招待客を振り分ける各テーブルの名前はもちろん、ムルソーのプルミエ・クリュ名。あなたはシャルムですか、私は後ろのテーブル、ジュヌヴリエールですよ、といった感じである。ちなみに私達のテーブル名は「ペリエール」。素晴らしい畑だ(何となく嬉しい)!そしてこのテーブルの振り分け表をよく見ると、そこに名を連ねているのは、コント・ラフォン(ドミニク・ラフォン氏はポーレの提案者、ジュール・ラフォン氏の曾孫に当たるのだから当然である)、コシュ・デリ、ミクルスキ、ピエール・モレ、ヴァンサン・ジラルダン、ミシェル・ゴヌーといった面々だ。そして彼らがそれぞれ家族や友人達を連れてきており、彼らの席の後ろには昼食会でふるまうための宝石のようなワインが、ダンボールの中にゴロゴロと無造作に置いてある。

一般でも参加できるということだが、会場にいるのはやはり生産者やその家族、ブルゴーニュでワインの仕事をしている人達が殆どだ。その為「この会場にいる=身内である」という暗黙の了解があるのか、見知らぬ隣の席の人達も「出会いにある垣根」を全く感じないまま、自らが持参したワインを開けて早速食前酒を酌み交わすこととなる。

招待客のおしゃべりが会場中にBGMのように層をなしてきた頃に、料理のプレゼンテーションが始まった。前菜に使われる手長エビや魚介類を大皿に豪華に盛り(まるでウエディング・ケーキである)、ライトアップされた2人のシェフがその大皿を厳かに掲げながら各テーブル間をねり歩く。そのシェフの後ろには料理スタッフやサーヴィスの人達が続いている。テーブルからテーブルへ、彼らの移動に伴いシェフと料理を称える拍手とフラッシュが波のように移動する。

この日のメニュウは、以下であった。

 

Gateau de Langouste et Langoustines sur un Lit de Legumes Confits

et sa Petite Sauce au Vin de Meursault

 

Turbot Poche sur Asperges Vertes

 

Rable de Lapin Roti au Genievre,dans une Emulsion de Cereales

sur Lit dEpinards Frais

 

Filet de Boeuf du Charolais,Route des Vins

Fricassee de Cepes et Pomme Ecrasee au Parfum de Celeri

 

Plateau de Fromages Affines

Pains aux Noix et Noisettes

 

Dessert de la Paulee

Pyramide<Vivant Denon>et Charlotte aux Fruits

 

Cafe Noir & Chaud

 

この日のメニュウ。

 つまりアントレ1品、プラ3品(魚1品、肉2品)、フロマージュ、デセールという構成だ。これらが途中で催しなどを挟みながら全てサーヴィスされ終わるのは6時頃。量は日本人女性にとって少々ヘヴィながらも、「あっと言う間に6時」という感覚で料理もサーヴィスも楽しめるのはポーレの雰囲気のお陰だろう。

 そしてその行事だが、前述の通りポーレには毎年一人主賓がいる。文学審査委員会によって選ばれた作家だ。今年はジャンークロード・カリエール氏が選ばれ、表彰式と彼のスピーチがポーレの中でも最も重要なイヴェントとなる。後はとにかく飲み、食べ、歌う。しかし由緒正しい昼食会なので決してどんちゃん騒ぎでは無く、早口のフランス語やブルゴーニュの人なら誰でも歌えるであろう歌は理解できなくても、彼らが純粋にこの日を1年の節目として楽しんでいるのがよく分かる。そしてその楽しみ方は全く排他的でなく、ポーレの招待状に「肘を接しての集まり」とあるように本当にフレンドリーだ(一緒に参加したエア・フランスのステュワーデスは二人とも「普段接している冷たいパリジャンと全く違う!」と驚くこと、しきり)。結果、アントレを食べ終わった頃には皆が持ち寄った美味しいワインの力もあって、フランス語の不自由な日本人でも違和感なく一緒に歌い、おしゃべりの輪に入っている。

ふと会場を見渡すと一つ向こうのテーブルでは、コシュ・デリ氏が自らのワインを手に隣席した人に惜しげもなく振る舞っている。同じテーブルの一番端ではドミニク・ラフォン氏も同様だ。その姿に彼らのワインから想像させられる一種の近寄りがたさは無く、一ブルゴーニュワイン・ファンとしては生産者の「ある1日」を垣間見ることができる楽しみも、ポーレには溢れている(出来れば彼らの側に座りたいものだ)。しかしこの日、各生産者は何と惜しげもなく自らのワインを振る舞うことか!モンラッシェ、バタール・モンラッシェ、コルトン・シャルルマーニュなどの年代物やマグナムの瓶が「飲みますか?」の言葉と共に、本当に次々と差し出される。この日飲んだワインや知り合った人達を書き留める小さなメモが用意されているのだが、よほど勤勉な人でなければ、書くスピードもスペースも追いつかない。一人4つのグラスもすぐに足りなくなってしまう。試飲会ではないので吐き出すわけにもいかず、結果飲みきれないものはテーブルに置いてあるワインクーラーに捨てることに。「銘醸」と言われるワインをこんなにも惜しげもなく捨てた日は無い!

カフェまでサーヴィスされた6時頃にはぼちぼち帰路に着く人も出てきて、そうなるとお別れの握手とビズ(挨拶の頬キス)となるのだが、時にお別れが紹介に繋がることもあり、なかなか出るに出られなかったりする。しかし普段は面倒くさいこういったフランス流もポーレの余韻で楽しく感じるから不思議である。

会場を出て心地よい夜気に触れ素直に思ったことは「来年も来てみたい!」。私も「ブルゴーニュが好きで、この日が1年の楽しみである」という気持ちだけはポーレの常連に一歩近づけたかもしれない。

 

最後に

1000人近くの招待客を振り分けるテーブル名は、もちろんムルソーのプルミエ・クリュの名前にちなんで。 この日受賞した本ジャンークロード・カリエール氏の本。会場で購入できる。

 この会は今回アカデミー・デュ・ヴァン東京校の矢野 恒(ひさし)先生のはからいで参加させていただきました。先生はポーレの前々日にCONFRELEE de SOUVERAIN BAILLIAGE de POMMARDを受賞されました。ここにもう一度お祝いと感謝の気持ちを込めて、このレポートを終わらせていただきます。