Francois VILLARD 〜破竹の勢い〜

(Condrieu 2002.7.10)

 

現在フランソワ・ヴィラールでは今年の収穫までに完成の予定で新しいセラーを工事中だ。土地の高低差を利用したセラーは、収穫からあらゆる醸造段階に於いて、ブドウやキュヴェになるべく負担をかけずにスムーズに作業が進むように、実に上手く動線が引かれている。そしてコンドリューを見下ろすことが出来る最上階には、テイスティング・ルーム。素晴らしい。

そして工事中のセラーから出てきたヴィラール氏は、とにかく勢いがある。話すのは早く、声は大きく、フット・ワークは軽く、話し出すと止まらないし、電話を取ってしまっても止まらない。熱い。

1989年に畑を購入し、1991年にセラーを建て、ワイン造りはコンドリュー デポンサンから始まった。やがて星付きのレストランが彼のワインを使うようになり、今年はベタンの2つ星を獲得。さらに今秋には新しいセラー。現在6haの小規模な生産者だが、ここ10年ほどの彼の活躍を聞き、そして実際彼に会うと、その印象は「もう、止まれない」

 

テイスティング

 今回のテイスティング銘柄は、以下。

*サン・ジョゼフ 2000(マルサンヌ55%、ルーサンヌ45%、新樽30%)

*コンドリュー 2000(新樽25%)

*コンドリュー レ・テラス・デュ・パラ(Les Terrase du Palat) 2000 (新樽30%。花崗岩、砂岩)

*コンドリュー ル・グラン・ヴァロン(Le Grand Vallon) 2000 (新樽30%。花崗岩、砂岩、石灰。通常5−20%の貴腐だが、この年はより多い)

*コンドリュー デポンサン(Deponcins) 2000 (新樽40%。最も花崗岩が多い)

*マルサンヌ 2001(サン・ジョセフのアッサンブラージュ用。マロラクティック終了直後で、まだSO2を入れていないもの。30%は貴腐ブドウ)

*ルーサンヌ 2001(サン・ジョセフのアッサンブラージュ用。マロラクティック終了直後で、まだSO2を入れていないもの。30%は貴腐ブドウ)

*コンドリュー カンテッサンス(Quintessence) 2000 (コンドリューの貴腐ワイン。残糖度 160g/L

*シラー 2001(サン・ジョセフのアッサンブラージュ用。若い樹齢のシラー)

*サン・ジョゼフ ルフレ(Reflet) 1999、2000(新樽100%)

*コート・ロティ ラ・ブロカルド(La Brocarde) 1999、2000 (新樽100%。2000年の方がヴィオニエの比率が13%で、やや多い)

 

 上記以外にサン・ジョゼフ コート・デュ・メルラン(Cotes de Mairlant)(赤・白)、ムー・ド・レザン・パーシャルモン・フェルメンテ・アプレ・トゥ(Mout de Raisins Partiellement FermentesApres Tout)(白)の銘柄がある。

 

 まずサン・ジョゼフ ブランだが、コンドリューを思い出す甘く白い花の香りと、グラなのにクリーンなミネラルがあるために後味はミントなどの清涼感を伴った非常に爽やかなものだ。ヴィラール氏曰く、「このワインは直に閉じてしまうだろう。でもその後10年は持つよ

 そしてコンドリュー。畑名付きの性格の違いがはっきりしていて、面白い。アプリコットや黄桃、熟した洋梨が惜しげもなく素直に出てくるレ・テラス・デュ・パラ、非常にグラでぬめるようなミネラルがあり、グラマラスなル・グラン・ヴァロン。そして最もミネラルの質が高く、現在のところは硬質な感じがするデポンサン。デポンサンのミネラルの質は傑出している。シャプティエのコンドリューを飲んだ時にヴィオニエがここまでミネラルを表現できることに驚いたが、シャプティエがスタイリッシュなら、ヴィラールのデポンサンはエレガンスである。熟成にも最も耐えうるだろう。

 また、サン・ジョゼフ ルージュ ルフレ(Reflet)は、各年ともまだグラスの向こうが透けないほど濃いのだが、新樽の軽いカフェ香の後に、生のカシス、ブラック・チェリーなどと一緒に紛れもなくローヌの土の香りが立ち昇ってくる。旨みとタンニンの細かさが口に含んだ時にヴォリュームとなって、心地よい。酸の存在もきちんと感じられるが、2000年の方がより赤い果実の酸が多い。

 コート・ロティ ラ・ブロカルドになると、格段にタンニンのレベルが上がる。細かさや量だけでなく、幾種ものタンニンが立体的に層になって、口の中に広がる。嫌味のない重厚さ。カフェ様の心地よい甘苦味が長い余韻となって残る。2000年の方が柔らかく、軽やかだ。「サン・ジョゼフ、コート・ロティとも2000年の方がより、ソフト。フィネスとエレガンスの年」とはヴィラール氏の言葉だ。

 最後に飲んだコンドリュー カンテッサンスは、アプリコットのエキスだ。酸味と甘味が美しく凝縮しており、蜂蜜や紅茶のほろ苦さを伴った長い余韻。

 どのワインにも、純度の高い果実味が入っている。そして発酵が木製の樽であり、新樽の比率が高めであるのに、余計なヴァニラやカフェは一切感じない。自然なメリハリがあり、加減が上手い。つまりセンスが良いのだ。 

 

栽培、醸造について

 栽培はリュット・レゾネである。彼自身「もし自分がロワールにいたらビオを実践するだろう」とのことだが、コンドリューというテロワールは地質的、地理学的に現時点ではまだ難しいそうだ。

醸造は全ての段階を木製の樽で行い、エルヴァージュはキュヴェによるが25−100%の新樽で行う。シュル・リー、バトナージュを長く行うのが特徴で、全ての瓶詰めは翌々年となる。清澄と濾過は年により処理が異なるが、最小限である。またSO2の使用量は平均して白で25mg/L、赤は40mg/L。破砕時に少し添加した後はマロラクティック発酵が終了するまでは、全く添加しない。SO2添加後の味の変化に関しては、「少し軽くなる」と捉えているようだ。この数字は全国レベルで考えるとかなり低い。

そしてマルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ。これは彼がセパージュを醸造的に見て「弱い順」に並べたものだ。

「他の生産者と全く逆でしょ。畑で弱いのはルーサンヌ(ウドンコ病等)なんだけれど、醸造ではマルサンヌが最も繊細。マルサンヌの持つ白い花やミネラルを上手く引き出してあげないと。ただし熟した実は強い。そして第一の香りに来るアプリコットはルーサンヌ。ヴィオニエは酸化によって風味が出るから僕にとっては最も強いセパージュかな」

 この言葉は、時に貴腐ブドウが30%を越えるまでの低収量、遅い収穫を実施していることの裏返しでもある。

 

破竹の勢い

 彼の快進撃は勿論彼自身のセンスのある情熱の当然の結果だが、元料理人である彼がコンドリューの地を選び、成功していった背景には偶然(元々ローヌの東のグルノーブル出身であり、彼が畑を購入した1989年当時、まだコンドリューにはポテンシャルのある土地が残っていた。また個人的には結婚により生活環境が変わった等)と、強運(最初の運営資金である借り入れと、その後の融資が順調である)がある。そして、縁。料理人である繊細な彼の舌に最初に強烈な印象を残したコンドリューは、イヴ・キュイロンの1983年のものらしい。

 現在、彼はイヴ・キュイロン、ピエール・ガイヤールと共に「Vin de Vienne(ヴァン・ド・ヴィエンヌ)」という名前でワインを造り始めた。ヴィエンヌとはコート・ロティから8km離れた街のこと。彼らはヴィエンヌの街を取り囲む丘に新しい可能性を見出しており、その中でもヴァン・ド・ペイ・デ・コリヌ・ロダニエンヌ(Collines Rodaniennes)として出している、シラーから造られた「SOTANUM」は既に国内外で高い評価を得始めている。ヴィニョロンとして周囲の生産者との仕事も発展中だ。

 彼には、成功の途中にある人間の「勢いのオーラ」がある。まさに破竹の勢い。パリで、日本で、彼の活躍を聞きながら彼のワインを飲むのは、純粋に楽しい。後は価格が高騰しないことを祈るのみだ。

 

添付写真の説明:

@     建設中の新しいセラーの最上階である、テイスティング・ルームより。この日は曇りだったが、雲が目線にあるような高台からコンドリューを見下ろして試飲できるようになるはずだ。

A     右がヴィラール氏。左はお昼ごはんを誘いに来たイヴ・キュイロン氏。