10/10〜11

〜摘み残しブドウ〜

 

 

 

 

今回のORGANISATEUR

 私の密かなアルバイト(?)をジュヴレイ・シャンベルタン在住のドミニク・ギュヨンさん(とあるドメーヌの栽培責任者)とスナコさんにお手伝い頂きました。メルシ。

 

今回のチーム・デギュスタシオン

 デギュスタシオン、していません(一体、何の為にブルゴーニュまで行っているのか???)

 

今回のスケジュール

10/10

パリ発

アルバイトの為に、フィサン、マルサネ、ジュヴレイ・シャンベルタンを散策。

ジュヴレイ・シャンベルタン泊

10/11

午前中、「黄金の丘」になったジュヴレイ・シャンベルタンの畑を散策。

帰パリ

 

 9月の後半に入り、やっと気候は本来のこの季節らしいらしいものに。一体あの熱波は何だったのだろう?私は酷暑のピーク時には幸いにもフランスにいなかったが、涼しくなると早くも暑さが思い出せない。人間、ゲンキンなものである。

 今回のブルゴーニュ行きは単に「黄金の丘」の写真を撮る。そして上手く行けばアルバイト(現時点ではナイショです)も、して帰る。それだけ。生産者とのアポイントも無いお気楽なスタンスだ。パリを抜け出して(と言うよりパリでは自宅に引き籠もる?日々なので、「部屋を抜け出して」という表現の方が正しい)、週末にちょっと大好きな田舎の空気を吸いに来た、そんな感じである。

 写真を撮る為に来ているのでもちろん晴れていなければシャレにならない。しかし現地の友人とマメに連絡を取り合った甲斐あって、到着翌日はピカピカの晴れ!しかも秋の涼しさは最高に心地よい。とにかく畑を歩き回ることに。

 

ピエール・ダモアのクロ・ド・ベーズで「ブドウ畑専門耕作馬」会社(何という名前の会社なのか?)の人と馬(イルダ、牝)が、秋の畑耕作の初仕事。遠目に見ると金色の海の中を人馬が進んでくるようで感動的に美しい(もちろん当人達はそれどころではない)。ちなみに以前「裏話 2/22〜24」で紹介した最高齢馬「ビスコット(15歳)」は引退したとのこと(馬のこと以前に、会社名と人の名前聞けって?その通りです、スミマセン)。

 

 

摘み残しブドウ

 Grappillon(グラピヨン)、Grappillage(グラピヤージュ)。前者は「2番なり(摘み残し)ブドウ」、後者は「2番なり(摘み残し)ブドウを収穫すること」である。

かつてはブルゴーニュではグラピヤージュをして自家用ワインなどを生産することはごく一般的であったらしいが、現在は禁止行為である。今回畑を歩いていても畑の所々で「グラピヤージュ禁止」の看板を見かけることがあった。

しかしある本には「DRCは収穫を2回に分けて行い、2回目のブドウをネゴシアンに樽売りする」と書かれている。ん???この本ではDRCの「2回目」がどのレベルのブドウを指しているのか迄は言及されていないが、これは「グラピヤージュ」ではないのだろうか?そこで後日生産者達に詳しく話しを伺ったところによると、畑の正式な所有者が「2番なり(摘み残し)のブドウを収穫に値する品質」と判断し、かつ実際にそれらのブドウがアペラシオンの基準をクリアしていれば、正式な申請を経てワインとして出荷することは可能であり、要するに所有者以外が「摘み残し」を収穫することが「禁止行為」であるとのこと(ということは、昔は一般人が慣習的に「摘み残し」を収穫していたということか?大らかである)。よって「グラピヤージュ」という言葉には少なくともブルゴーニュでは「密造酒」のイメージが強いようで(気にせずにこの言葉を用いる生産者もいる)、違法でない収穫を指す場合には「2世代目の収穫(Récolte de 2eme Vendange)」「2度目の収穫(2eme Vendanse)」という言葉を用いた方がスマートであるようだ。他の産地において「グラピヤージュ」がどのようなポジションであるかはまた詳細が判り次第レポートしたいが、今回言いたいことはそんなことではない。「2003年のコート・ド・ニュイは2度目の収穫をしようよ〜!」なのである。

なぜなら今年のグラピヨンは、素晴らしく良い。もちろん長年に渡って畑を見続けてきたわけではないので、よって比較対照は昨年しか無く、また他の産地で同じ状況が起きているかは判らない。しかし昨年の同時期、ニュイで樹の高い位置になっていたグラピヨンはいかにも2世代目らしく貧弱なもので、食べてみても酸味の勝ったイマイチなものであったが、今年は黒々と立派で、見たからに美味そう。そこで畑を歩き回りながら恐らく30房くらいはつまみ食いしたが、これが本当に甘くて美味い!ブドウをもぎ取った手はベタベタ。きっと糖度はノリノリのはずである。

思うに1世代目のブドウにとって今年の酷暑は「100年に1度の試練」であったであろうが、もしかするとグラピヨン君達にとっては「100年に1回の我が世の春」ではなかったのではないだろうか?なぜなら彼らの最も大切な成熟期は酷暑のピークからずれており、9月の前半のニュイは晴れながらも冷たい風が吹き始めた。9月の3週目に入るとまたもやこの季節らしからぬ太陽と暑さに恵まれている。その後4週目は雨が数日降り続いたが、その後またもや快晴続き。しかもこの期間中、通常は養分を蓄えつつある最大のライバル(?)、1世代目君達はとっくの昔に刈り取られてしまっている。葉の緑が残っている限り、養分を独り占めできるのだ。

実際今年2度目の収穫を行ったシャンパーニュの生産者達は口を揃えて「こんなに素晴らしいグラピヨンは見たことが無い!」と言うし、先日訪れたあるヴェズレイの生産者も「今年はグラピヨンの方がバランスの良いブドウかもしれない」と苦笑気味。そしてニュイの生産者からも「異例のミレジムは、グラピヨンにも異例をもたらした」という声を多々聞くのである。もしバリバリの大阪のオバサンを妻に持つヴィニョロンがニュイにいたら(?)、きっと彼らは「ちょっとアンタ、なんでもう1回収穫せえへんの?鳥に食べられるだけやで。勿体ないやん」と、どやしつけられているに違いない。

近年は「2度目の収穫」を行う生産者もめっきり減っているようであるが、私が毎月訪れるジュヴレイ・シャンベルタンで「異例の2度目の収穫」を行ったドメーヌは、クロード・デュガ(グラン・クリュ、プルミエ・クリュ、ヴィラージュからのブドウも含めて全てブルゴーニュ・ルージュとして15樽の仕込み)、チェリー・モルテなどである。

ブドウをそのままにしているところを見ると、やはりそこには再度収穫・仕込みを行うコストなどの問題もあると察する。しかし今年のような異常事態においては収量も非常に低いのであるし(もっとも在庫過多に悩む生産者にとっては、収量の少なさを歓迎する向きもある)、異例も敢行して欲しいものである。ああ、勿体ない。

 

ところでつい最近、グラピヤージュで造られたワインを飲む機会があった(これは正真正銘?の密造版である。「誰の手によるものか」という憶測が飛ぶと良くないので、このHPでは触れたことのない生産者とだけここでは記しておく)。

これが驚き。不思議なほどに「いけてるビオ味」なのだ!「これ、パカレが仕込んでいるブルゴーニュ・グラン・オルディネールですよ」と言われたら多分そのまま信じたと思う(後日パリでもブラインドで出したが、「またなんか面白いビオ持ってきたねぇ」と大受け)。そしてどうやって造ったかを聞くと、これがまた腰が抜けるほどのいい加減な造り方。

まずはフィサン、マルサネ、ブルゴーニュ・グラン・オルディネールなどニュイの4つのパーセルでグラピヤージュ。暇を見ては摘んでくるので収穫日は当然ながら揃わず、発酵が始まっている果汁に摘んできた新しいブドウをどんどん投入(除梗無し)、この間足踏みピジャージュを実施。最終的に発酵が完全に終了するのに約20日。その後ピエスで熟成。瓶詰め前にワインを落ち着ける前に合成樹脂製のタンクに移したのだが、瓶詰め当日カーヴに入ると、なぜかカーヴの床はワイン浸し。そう、タンクに細かい「ひび」が入っておりワインが漏れていたのである!ひび割れタンクのせいで、最終的に4樽仕込んだワインは2樽半に激減。ああ、いい加減。

しかしこの「いい加減さ」は偶然にも「科学のピント」が合ってしまったのであろう。なぜならこのワインは現に「美味い」のだ。ワインの科学は摩訶不思議である。全く再現性の無いワインだが、今年仕込めば恐らくもっと素晴らしいものが出来るのでは、と想像する。造った人曰く「今年は諸事情があり仕込めない」とのことで、非常に残念だ。

そういうわけで「2003年のグラピヤージュ・ワイン」に出会えることを期待する次第なのだ。

朝露に濡れた、摘み残しブドウ。これで未熟な方。 黄金の丘の立役者、葉っぱ達。今夏は特にお疲れ様でした!