10/30〜11/3

〜アルザスの入り口に、立つ〜

 

 

 

 

今回のORGANISATEUR

 

全ての交通手段と宿泊はGCCの須藤氏、生産者とのアポイントは私、の合作バージョン。

 

今回のチーム・デギュスタシオン

 

エア・フランスのソムリエールさん、GCCの須藤さん、私の3人(同行して頂いたお二人はGCCの最強?メンバー。語学力あり、ワイン力あり、車あり。ああ、涙ものにありがたい、、、)

 

今回のスケジュール

 

大聖堂=白、のイメージが覆される、ストラスブールの大聖堂(尖塔の形が有名。全体像はカメラに収まらず)。この壁の色を見て判るように、ヴォージュ以東は赤色土が豊富に採土されたのである。

10/30(木)

パリ発(今回は飛行機!パリーストラスブール間はジャスト1時間。週末割引で安いのだ!)

15:00 Domaine OSTERTAG訪問

オブルネ泊

10/31(金)

10:00 Domaine Marcel DEISS訪問

14:00 Albert BOXLER訪問

16:00 Domaine Zind HUMBRECHT訪問

オブルネ泊

夜:「夢のようなワインリスト」のあるレストランへ

11/1(土)

全国的祝日(諸聖人の日)のため、リックヴィルなどを観光

レ・ケル泊

11/2(日)

日曜日のため、ストラスブールなどを観光

夜:「夢のようなワインリスト」のあるレストランへ、再度

ストラスブール近郊泊

11/3(月)

9:00 Domaine Marc KREYDENWEISS訪問

14:00 Rene MURÉ訪問

16:00 Domaine Gérard SCHUELLER et Fils訪問

帰パリ
 

 「何、その格好?雪山でも行くの」。

 タクシーに乗り合わせた須藤さんに、開口一番こう言われた。出発の前週、フランス全土の気温は下がり、ボルドー在住先輩からは「朝なんてマイナス3℃よ〜。信じられない」なんて電話があった。アルザスの冬=パリよりもかなり寒い、というイメージが私に「雪山ファッション」を敢行させたのであるが、はっきり言ってアルザス滞在中の5日間、気候はぽかぽか。特にフランスの祝日、諸聖人の日(11/1)の日中の気温は13℃。絶好の墓参り日和(この日は墓参りに行くフランス人が多い)である。

 毎回天候に振り回されながらも、1年以上ぶりのアルザス。しかも今回はスケジュールにある通り、私にとっての最強メンバーとご一緒である。「アルザスの土壌と味わいの相関性を把握する」という大それた目的を持ってこの地に降り立った私達に、果たして回答は出るのであろうか?

 

アルザスの入り口に、立つ

 

このモザイク状の畑!AmmersbergからKayzersbergに抜ける道より。

初めに

 「アキヨの試飲はなってない!」。昨年パリで行われた、「アルザスの50のグラン・クリュを利く(参加生産者数34)」というテーマの試飲会で、知り合いのワイン屋に怒られた。殆どが飲み比べたことのない生産者ばかりでどう始めれば良いかが判らなかった私は、ブースの端から一つずつ廻っていたのである。じゃあどうすれば良いんだ、という私の問いに、彼はサラリと「土壌別に飲んでいくのさ」。そう言われても各クリュの土壌まで、私の頭の中にはインプットされていない。そこで彼のパンフレットを見ると、各クリュの横には、「石灰」「花崗岩」などという走り書きがびっしり。恐れ入りました。大急ぎで書き写し、いざ試飲を再開。

 何となく土壌毎にイメージが共通するものも見いだせたのではあるが、その時はその試飲の進め方自体に大きな衝撃を受けたのである。まさに目鱗。フランス人のプロにとっては、アルザスこそが「土壌で利く」最右翼(?)のワインなのである。

 

掛け算によって、確立される個性

 言うまでもなくワインとは、「土壌」「地形」「気候」「品種」「生産者の仕事(栽培と醸造)」「ミレジム」などが掛け合わされて、一つの個性が確立される。そこでアルザスだ。アルザスははっきり言ってこの掛け算の個々の要素が、非常に多い(特に土壌)。そこに地名の覚えにくさや、歴史に翻弄されてしまった不運(ドイツ的なイメージ)などが加わり、アルザス・ワインはより難解な感が拭えず、よってワインの購入時には「後回し」になりがちである。

 しかしストラスブール ー コルマール ー ミュールーズを南下する時車窓から見える、斜面にびっしりと繰り広げられたモザイク状の畑には、時にコート・ドール、時にエルミタージュ、時にサンセール等の偉大な斜面を思い起こさせられ、畑に少しでも興味のある者にとっては、それらがやはり「バッカスに選ばれた斜面」であることを感じざるを得ない(もちろん単に風景としても美しい)。もし正しい知識さえ持ち合わせていれば、アルザス・ワインはワインファンにとって最高の選択肢が広がることを(しかもより競争率は少なく安価に)納得させるオーラが、これらの畑からは立ち上っているのである。

 ならば、アルザスの各要素、特に土壌をごく大雑把に把握することを試みるしか無いではないか(ここからは、読んでいて眠くなってしまったら、ゴメンナサイ、だ。でも美味いワインにありつきたいアナタ、おつき合いください)。

 

     土壌と地形

アルザスの土壌はゾーン毎に主に以下が挙げられる(赤字で表記した畑は、今回訪問した生産者が「真のグラン・クリュ」として挙げたもの)。

ヴォージュ山脈上部(高度が最も高いもので400m、平均250m〜360m、最高傾斜度60度)〜

@     花崗岩と片麻岩(Sommenberg、Brand

A     片岩(Kastelberg

B     溶岩石など火山性のもの堆積岩(Rangen

C     砂岩(Muenchberg

〜ヴォージュ山脈の丘陵地帯(平均高度200〜360m、平均傾斜度25度)

D     石灰(かの有名なクロ・サンーテューヌがあるRosacker)

E     泥灰と石灰(Moenchberg、Mambourg

F     泥灰、石灰、砂岩(Geisberg、Furstentum

G     石灰と砂岩

H     泥灰と砂岩(Vorbourg

I     粘土と泥灰(Kanzlerberg、Schonenbourg

〜ライン河の沖積平野(早飲みワイン)〜

J     堆積土

K     沖積土

L     黄土

 

以上の土壌と高度に、異なる斜面の向きが加わる。

 

     気候

 アルザスのブドウの生育期間中における日照量は意外と多い(積算温度はブルゴーニュと同じ)。また降雨量の少なさもブドウ栽培には非常に適している。

 

     50ものグラン・クリュ

 1983年には25のリュー・ディがグラン・クリュに認定、更に1992年には50に拡大。しかしこの間にはかなり「生産者間の利害関係による駆け引き」があったようで、今回訪問したマルク・クレイデンヴァイス氏が「真のグラン・クリュ、そしてそのグラン・クリュの中でも本当に価値のある区画は、全体の1/4以下に過ぎない」と言うように、現状では「どのグラン・クリュがその呼称に値するものなのか」を消費者側で把握している方が良さそうである。

 

(参照)パーカーの「ワイン・バイヤース・ガイド」には、アルザス・ワイン委員会提供資料である「各グラン・クリュの土壌・地理的条件と、そこに適合する代表的な品種」が邦訳されている。

 

     生産者と品種

 「生産者の力量」。これは産地を問わず、非常に重要であることは言うまでもない。

 更にリースリング、ゲヴュルツトラミナー、ピノ・グリ、ミュスカといった高級4品種、ピノ・ブラン、シルヴァネール、シャスラという品種。優れた生産者達がどの品種を前述の土壌に植えるのかは、最終的に「その土壌に適合性があり、かつ土壌の個性を最も表現するのに適した品種」という観点がベースにあり、その判断基準はこの土壌の保温性までにも及ぶのである(彼らは「冷たい土壌」「暖かい土壌」という言葉を日常的に使っている)。そして探求心が旺盛な生産者ほど、この判断は非常に理にかなっているのであるが(詳しくは、後日生産者巡りにてレポート。ここで一例を挙げると、12haを所有するオステルターグは13の異なる土壌を持ち、そこに品種やブドウの熟度が加わって最終的に17種類のワインが生まれるのである)、それは商業的な生産者が「グラン・クリュに高級品種を植えておけば、そこそこの値付けが出来るってものさ」というスタンスとは全く異なるのである。どの産地でも「商業主義派」と「品質派」の間には確執があるが、特にアルザスのようなトップの生産者の実力が一般に正しく認知されていない地では、この確執はかなり深刻であると見た。

そしてこれは言い換えれば、優れた生産者達はグラン・クリュでないリュー・ディからも個性を引き出す力がある、ということだ。

 

結論

 「歴史に翻弄される」。これはすなわち、そこに生活する人達が食べていくためには、彼らの意に反するワインを造らざるを得なかった時代があった、ということだ。

 しかし迷路のような宝物を手にしていることに目覚めた生産者達の探求心と哲学は、こちらが説明に付いていくのがやっと、というほどに深く(ブルゴーニュの生産者が大らかに感じられたほどである)、そして彼らが呈するワインも比例して深い。リースリング=石油香、という単純な図式は全く成立しない。現に今回試飲したリースリングで石油香の無かったものが、いかに多かったことか。凡庸なワインを産する過去が長かった為に、余りにも誤解が残されたままなのである。

 ジャン・ミシェル・ダイス氏(マルセル・ダイス)が嘆く。

「リースリング=石油香。品種の判りやすい特徴だけを商業的にアプローチするのにはそれは有効かもしれない。でもそんな安っぽい石油香は、熟していないカベルネ・フランが青臭い、というのと一緒で、根の浅い樹からガバガバ取ったリースリング特有のもので、母岩の個性を反映しているとは言えない」。

 そしてマルク・クレイデンヴァイス氏もこう語る。

「石油香は確かにあるが、収量を本当に熟したブドウから造られたリースリングなら、若い時には他のアロマと複雑に絡み合っているので、それだけが突出することは無い。石油香とは素晴らしいリースリングが熟成した時に出てくる鉱物的な香りの一つ」。

 ワイナートのアルザス特集で、「『同じワインをブルゴーニュ型とアルザス型の瓶に入れて出したら、皆が一様にブルゴーニュ型に入っていたワインを褒めた』とクレイデンヴァイス氏が肩を落とした」という記述があったが、先入観で切り捨てるべきでは、断固、無い。優れた生産者のアルザスであれば、それは彼らの気の遠くなるような土壌研究の成果の賜なのであり、しかも消費者である私達はその研究成果を、ただ栓を抜き、グラスに注ぐだけで安易に得られるのである。

 「アルザスの土壌と品種の深遠なハーモニーを体験したいのならば、優れた生産者のワインを選べ!」。ごく当たり前の結論に着地するのであるが、消費者側のこの動きこそが、彼らの躍進を最終的に助けることになると思うのである。

 ワイン屋さんで、レストランで、いつも通りにブルゴーニュなど見知ったワインを選ぼうとする時、ちょっと目線を変えて同価格帯のアルザスを選んでみようではないか!!!

 

夢のようなワインリスト 久々登場 〜チェリー・ボンブ 超5つ星!

  

 

中世に紛れ込んだようなRiquewhirの街にて。可愛い看板に目移りする。アルザスは観光にも楽しい。

 冒頭のスケジュールに記した「夢のようなワインリスト」。このレストランの存在はパリのワインショップに勤務するアユミさん(現在は育児休暇中)から、「交通費を考慮しても、行く価値がある」と強くプッシュされ知ったのである(彼女はブルーノ・シュラー氏から薦められたらしい)。

 レストランの名前を知ってからミシュランを調べると、アユミさんの言葉と全く同じように「旅してでも行くべき素晴らしいワインリスト」とある。しかも星こそ付いていないが、フォーク・マーク2本付き。食事も期待できる。

 結論から言うと、このレストランのワインリストは私が生きてきた中で(?)、最もアドレナリンを大放出させるものであった。アルザスだけではなく、南仏までも幅広く揃えたそのリストは、低価格帯のものまで、セレクションの確かさに一部の隙も無い。そして特筆すべきはその価格である!もしこれらのワインが市場に出ることがあれば、であるがこれらの価格はオークションのスタート価格であると言って良いほどに安い(時にそれよりも安い)。価格の羅列はキリが無く、下品になってしまうのでここでは私達が選んだワインを例に挙げる。「トリンバック クロ・サン=テューヌ 1973」「アンリ・ジャイエ ニュイ・サン・ジョルジュ ミュルジェ 1986」が共に100ユーロ(レストラン価格で!)と言えば、いかにこのワインリストが破格であるかが想像頂けるであろう。

 「シェフの趣味。ソムリエも置いていないからこの価格」とホール・スタッフは謙虚に言うが、そういう問題ではないだろう(シェフはワイン・スペクテーターにも紹介されている)。食後セラーを拝見する機会に恵まれたが、ワイン好きならここで軽く一夜を過ごせるくらいに、まさに「宝石箱」状態である。もちろんワインのコンディションもバッチリである。

 シェフがそういう人(?)なので、食事も完璧にワイン寄り。ソースに人為的な力みは微塵も無く、素材の滋味がワインをぐ〜っと引き立てる構図である。またクロ・サン=テューヌを頼んだ私達が前菜を取らなかったことを知ると、アミューズ・ブーシュが品数の多い豪華版に変更されるという細かい心遣いもニク過ぎる(これに関しては後ろの客が「なぜ彼らのアミューズ・ブーシュは豪華なのだ!」とイチャモンを付けていたが、それもホール・スタッフが美しくカバー)。

 よってストラスブール寄りに宿泊していた私達はコルマールより更に南にあるこのレストランへ2往復、計500キロ((初回は道に迷ったせいもあり)を飛ばしたのであるが、500キロもこのワインリストとシェフの料理がある限り、それは大満足に昇華するのである。ああ、ワイン好きにとって、レストランの至福、ここにあり。

 現在GCCでは、人数が揃えば「レストラン・ツアー」を思案中。年明け以降渡仏されるワイン好きの方、GCCまでご一報ください(レストランの名前はこのレストランを愛する人達の意向もあり、ナイショです)。