10/19
〜シャンパーニュ、2004年の謎〜

 

 

 

 

今回のORGANISATEUR

私一人。

 

今回のチーム・デギュスタシオン

私の1人。
 

今回のスケジュール

10/19

パリ発

10:00 GOSSET訪問

14:00 TARLANT訪問

帰パリ

(基本的にゴッセは一般の訪問を受け付けていないが、今回はサッポロの五十嵐氏の計らいで訪問が叶った。氏とは2年前、パリの語学学校で同じクラスだった縁があり、何が自分を助けてくれるか分からないものだ等と思いつつ、まずはこの場を借りてお礼を申し上げたい)

 

 各地での収穫とその後の喧噪も、遅摘みなど特殊な場合を除いて一段落。生産者巡り「解禁」である。

 10月も半ばを過ぎると、フランス(南部以外)は時に大阪の冬を思わすくらいに、ぐっと冷え込む時がある。ぱらつき始める小雨と、そんな時のグリ(灰色)な空は、全く楽しげなものではない。そしてこれから冬至に向けて日は目に見えて短くなり、冬至後の12月下旬と1月一杯は、一年で最も厳しい寒さに閉じこめられる。フランス人にとってもクリスマス、新年あたりまでは祝い事も多く、それなりに楽しく過ごすことが出来ても、「1月越え」はどうもユーウツなようだ。

都会よりも冷え込みが厳しいワイン産地で「サン・ヴァンサン(ワインの守護神を祝う祭り)」が1月下旬にあることや、2月に冬のヴァカンス・シーズンが国を挙げて設定されていることは、冬を乗り越えるために必須なのかもしれない。そんなことを思いつつエペルネに発った早朝は、寒かった。今季はじめて、コートに袖を通す。フランスにいる限り、3月一杯、下手すると4月もコートが手放せない。つまり半年は、冬を感じながら過ごすのだ。フランス生活も3年目。この国の人が皮膚ガンのリスクを承知で、夏の太陽の下ではやたら脱ぎたがるのも、ほんの少し理解できたりするのである。

 

シャンパーニュ、2004年の謎

 公の報道などとは裏腹に、パリのカヴィスト達は「ブルゴーニュの2004年」に悲観的だ。なぜなら彼らはそれぞれに懇意な生産者がおり、病害・雹害オンパレードだった夏に対する現地からのグチ(嘆き)を、リアルタイムに耳にするからである。そしてカヴィスト達は客達に、こう話す。

― どうも、ブルゴーニュの2004年は、飛んでもなく難しいようだ

それを聞いた客達の一部は、比較的ブルゴーニュに行くことが多い私や、ブルゴーニュ帰りの人に、今度はこう尋ねる。

― 本当に、そんなに酷かった?

 これに関して私の意見は当HPで既に書き、おそらく別の媒体でも述べることになるので、ここでは割愛するが、確かに他の「ブルゴーニュ帰り」の人たち(プロを含む)からも、好意的な意見は余り聞くことが出来ない。辛辣なものになると「畑で色々とブドウを食べて歩いていたら、気分が悪くなってきた。きっと病害対策で、農薬が夥しく撒かれていたのさ」。むむむ。ともあれ困難な状況下で、素晴らしいブドウを収穫できた生産者達には、心から感服する。

 

 しかし、陽気な産地(?)もある。そして2004年の「陽気・最右翼」は、シャンパーニュ地方であると私は思う。

 ここでまずは、シャンパーニュの2004年の収穫状況を振り返りたい(10/25付の「フランス食品振興会=SOPEXAhttp://www.franceshoku.com/ のメルマガより抜粋。出典元 10/12CIVCプレスリリース。

 

 2004年度の収穫は、920日に始まり1011日には、ほぼ全域で終了。量的にも質的にも歴史的な豊作年となった。例年は10日間位ですむところ、今年は2週間以上も費やし、10万人の季節労働者が、畑での収穫や圧搾作業に携わった。

  1. 春霜の被害もなく、今夏は病害や雹にもみまわれず、8月終わりにはブドウは特別たくさんの房をつけた。8月は雨量が多く成熟障害が心配されたが、9月のはじめの3週間は気温が高く日照量も多かったため、果実がことのほか大きく、ベストコンディションで成熟した。
     

  2. 房の衛生状態はよく、収穫は曇りがちで涼しく雨の少ない天候のもと行われた。収穫時にはシャンパーニュ地方特有の朝霧も、しばしば見られた。
     

  3. 今年の収穫量の多さと昨年の収穫量の不足を考慮して、シャンパーニュ委員会はINAOに、品質保持のためのストックにあてられる分を含めて、1ヘクタール当りの収穫量の上限を、13,000kg/haから14,000kg/haに引き上げるよう申請、11月4日に認可される。
     

  4. 31,600ヘクタールの栽培地域としてかつてない記録的全体収穫量であり、またヘクタール当り収穫量も、19821983年以来の記録的量となったが、ぶどう栽培者、運送業者、搾汁センターや発酵所も適切に対応し、オペレーション上特別な問題は起きなかった。
     

  5. 今年の収穫の品質判断は来春に行われる原酒の試飲を待つべきであるが、シャンパーニュ地方の人々は既に楽観的見解を示している。搾汁分析パラメーターが、均衡がとれ良質であるという満足いく結果をあらわしているからだ。
     

  6. 2003年の収穫量が少なかったため、シャンパーニュ地方では、今後の発展を可能にする今年の素晴らしい収穫を歓迎している。2004年前半期のシャンパーニュの輸出量は5%の伸びを記録しており、石油価格の高騰による世界の経済情勢の懸念要因は少なくないものの、この増加傾向が続くことを期待している。

 

 要するにシャンパーニュを毎年のように脅かす「春の遅霜」も「雹害」も無く、加えて収穫期間中の天気も理想的。沢山採れて質も良く、市場の需要が伸びているので過剰生産の心配が無いどころか、まずは昨年の不足を補うことが出来る。そんなところである。

 

 ここで謎なのが、「沢山採れて、質も良い」のくだりである。私にとっては「良い品質とは、収量を落とすこと」という、イメージがあるのだが?

 そこで非常に厳格なリュット・レゾネを実践するメゾン・タルラン(現当主ジャン=マリーはフランスワイン技術研究所の責任者も務める)に、この点を伺ってみた。

ヴァンダンジュ・ヴェルトは必須であったが、それでも房は多くなりがちで、かつ房の重量は例年の約2倍である180グラム。涼しい8月はブドウの成熟が杞憂されたが、8月下旬には余りにも豊作な畑を見て、正直『本当にこれで良いものか』と不安になった。一方、病害は多少あったが、それはコントロール出来る範囲内だったので、最終的には問題ではなかった。また収穫前、そして収穫期間中の天気は本当に理想的だった。収穫期間中雨が降ったのは、ほんの5分足らず。それくらいに天気は良かったんだ。

 結果的に、果汁の糖度・酸度などの分析値は実際に申し分の無いものだった。アルコール換算して11〜12%弱の糖度は、この地にしては多すぎるくらい。というのもこれ以上だと、どうしてもシャンパーニュの魅力である『酸』が失われがちの傾向が出るからだ。

 収量が多いのに、質も良い。確かに矛盾のミレジムかもしれないが、そこにはシャンパーニュに必要なのが、まずはフィネスを生む美しい酸であること、そして『過剰な抽出』を必要としないことが、前提にあると言えるだろう」。

 タルランでは2004年のワインも何種類か試飲し、発酵開始直後のワインに対する私の判断力は十分とは言えないが、確かに不思議と豊かな果実味から密度の高さと、高音の弦楽器(名手による)のような、生まれたての美しい酸がある。

 

 またこの点は今回訪問したゴセや、パリの試飲会で会う生産者達に聞いても、

「沢山採れたけれど質も良かった、としか言いようがない」という返事なのだ。

 ともあれ2004年が、シャンパーニュにとって「救いのミレジム」であったことは確かである。そして本当に品質が高ければ、「ミレジム2004年」を多くのメゾンが造ることとなるだろう。結果を推測するには最速で来春、そして断定するには数年待つことが必要である。