11月 その1

〜警察に拘留される、、、!?身分証明書は持ちましょう〜

 

 



とうとう、警察の車に乗るハメになってしまった。しかもそれは「拘留(護送?)」であった。

 

 私が「裏話」で書くフランス生活は、旅行者とも完璧な在仏邦人のものとも違うので、読んで頂いている方々の参考になっているのかどうかは分からない。しかし今回の「拘留」で言えることは、「フランスでは身分証明書を、最低限コピーでも常に携帯しておきましょう」である。いや、これは多くのガイドブックで既に書かれていることだが、結局私は「不携帯」という理由のみで、しょっぴかれたのだから、「携帯しておくこと」はかなりの重要事項なのだ。

 

 事件(?)は11月4日の午前に起きた。私は、ある日本人編集者の方と、仕事仲間であるフランス人男性の仲介役としてお昼をセッティングしており、フランス人男性の車でパリ市内の待ち合わせ場所に向かう途中であった。しかし彼がまずスピードを出し過ぎていたことが良くなく、「そこの車、ちょっとこっちへ来なさい」の警察の声が。スピード違反に関しては彼が論破するも、警察としては何らかの成果が欲しかったのか、矛先は私に向けられた。

「そこのマダム、シートベルトはしていますか?」。もちろん、している。次に尋ねられたのはフランスでの滞在目的。もちろん目的はワインを含め、小さな書き仕事のためであるが、日仏の往復を頻繁に繰り返す私は3ヶ月以上この国に留まっていることはなく、学生でもなければ、私の収入の全ては日本で支払われているものなので、滞在や労働許可証を取得する必要は無い。またヘンに「仕事のために」と言うものなら、話がこじれるのは明白だ。そこで日本人スマイルで、「観光です」。だがフランス語で答えたことや、観光客らしからぬ状況(年季の入ったルノーに乗り、連れのフランス人男性はサラリーマン・ファッションとは正反対の中年漫画家であった)が、カモに見えたようだ。矢継ぎ早に質問が浴びせられる。

本当に観光客?なぜフランス語が話せるのですか?日本人?本当に日本人ですか?滞在許可証は?えっ、必要ないから持っていない?ではパスポートかそれに変わる身分証明書は?あなたが「普通の日本人観光客である証明」はできますか?ETC、ETC、ETC、、、。

あいにく私はクレジット・カードくらいしか持っておらず、連れの男性は自身のスピード違反の時と同様に熱く私を弁護するも、警察としては「スピード違反は許したんだから、ここは後には引けない」と言わんばかりに、今度は強硬な姿勢を貫き、最後に彼にこう言い放った。

「そこまであなたが主張するなら、このマダムはいったん私たちの署まで来てもらいますので、あなたが彼女のパスポートを持って署まで来てください。そのパスポートが確認できたら、あなた達は帰ってもらっても結構ですから」

 なんでそうなるの?である。これではまるで、人質交換条件である。それとも私が自宅までパスポートを取りに帰ったら、途中で姿をくらますとでも言うのか?ここでも激論が繰り広げられたが、負けた。結局、連れの男性に自宅の鍵を渡し、パスポートの隠し場所を説明。私は警察の車で署までしょっぴかれた。腹立たしさと同時に、私の頭の中は、単なる仕事仲間の男性に部屋に踏み入られる恥ずかしさがグルグルと渦巻く(洗濯をした後の外出だったのだ、、、)。

 

 署に入ると、私をしょっぴいた3人の警察官はペラペラとおしゃべり。「は〜、今日は外国人を捕まえて、午前中の仕事は終わったわ」てな感じにしか見えない、彼らの平和な雰囲気が、私の怒りに火を付ける。しかも編集者さんとの約束の時間には確実に遅れる。そこで電話をかけたい旨を伝えると、「警察で私用の電話は禁止です」。むむむ、完全に罪人扱いだ。しかしここは私も譲れず、粘り勝ち(?)し、電話権を得るも、電話中に婦人警官のイヤミの嵐。「あ〜あ、日本語は難しいわね。何言ってるか分かったもんじゃないわ。話は手短に」。怒り倍増。電話が終わった時には、イヤミにはイヤミを、である。「あ〜あ、あなた達がうるさかったから聞き取りにくくって電話が長くなりました。それに日本語はあなた達にとって、難しいでしょうねぇ」。

 だが、私の怒りがマックスに達したのは、パスポート到着後、件の婦人警官が上司にこう報告した時のことだ。

「乗っていた車のスピードが出ているように思われたので止めましたが、すると同乗者の彼女はシートベルトをしておらず、しかも身分証明書も持っていませんでした」。

なに〜っ!確かに「郷に入れば郷に従え」。この点では、身分証明書がものを言うこの国で、携帯していなかった私に落ち度がある。だがシートベルトは確実にしていた。最終的に私は完璧に「シロ」で「無害な一日本人」。ならば、彼らの捕り物に際して何か少しでも私に非があった方が、上司への報告も様になるし、早口で言えばこの日本人には聞き取れないだろう、という彼女のいい加減な嘘は見逃すわけにはいけない。大阪のオバチャン・スピリッツ全開だ。

「ちょっと、あなた。あなたには上司に正確に報告する義務があるでしょう?私はシートベルトをしていました。100歩譲ってコートで見えにくかったとしても、この時期コートを着て車に乗っている人くらいいるでしょう?プロならきちんとシートベルトくらい見極めたら、どないなん(ここら辺からは、もう大阪弁モードである)。確かに身分証明書を携帯してなかった私に落ち度はあったわ。でも何で私がこの国で証明書類を持ちたくないか知ってんの?それは余りにも引ったくりやスリが多いからやん。何人知り合いの日本人が盗られたことか?いかにも無害な私をしょっぴいてペラペラしゃべっているヒマがあったら、引ったくりやスリを捕まえた方がいいんちゃうの?」

ぎょっとする婦人警官に、「シートベルトに関してはどちらが正しいんだ」と聞き返す上司。「もう一度言います。し・て・ま・し・た!」と答えた私に、彼女は「でもとにかく身分証明書を持っていないだけで、こうやって1時間以上も潰れて、大切な約束の時間に間に合わなかったりもするんだから」と話題を変える。

「じゃあ、上司には『身分証明書を持っていなかった』とだけ報告するべきちゃうの?それにもしパスポートを盗られたら、再申請には1週間もかかんねんから!」。気まずい空気が満ちたところで、お払い箱となった。

 

 こういう場所で腹を立てても結局は損であり、身分証明書は持つべきだったと知りつつ、やはり今日の捕り物は日本の警察で言うところの、「検挙率で小さな成績を稼ぐ」というイージーな考えに基づいているとしか思えない。また「もっと『本当の犯罪人』を検挙してよ」と望むのは一般人にとって当たり前の思考ではないだろうか。

 しかしともあれ、不運な日はある。フランスで無駄な時間を過ごさないためには、身分証明書を持ちましょう。(あ〜あ、前日に観たワイン映画「MONDOVINO」の余韻が吹っ飛んだ。この映画はワイン好き必見だと思うので、映画の報告は後日させて頂きたい)。