2004年2月
〜パリ・バージョン 第4弾! パリで出会った、イタリアの巨匠の味〜

 

 

マガーリ!

 

 パリ・ソムリエ協会(Association des Sommeliers de Paris Ile de France。当HP「フランスの試飲会情報」でも紹介しているが、2年前の渡仏当初、とりあえず「試飲できる場所」を探していた時にこの協会を紹介された。そして文字通り右も左も判らなかった私に「本場にいるメリット」を、最初に感じさせてくれたのもこの協会である。

 なぜなら協会側の講座には一般でも参加できる「Amis(友達の意)」というものがあり、この講座ではフランス各地の生産者達が直接持参したワインのテイスティングが出来るだけでなく、生産者側と既に各界で活躍しているソムリエ側からの解説があり、又時にはドニ・デュブルドュー教授(言わずと知れた「白の魔術師」である)直々のものであったりする。毎週木曜日に約2時間で、年間受講費は75ユーロ(約9800円)。夏期のヴァカンス時などは閉鎖されるが、40回計算でも1回約250円?この内容にしてこれは安すぎ。しかしAmisに登録するメリットはこれだけではない。パリでは一般参加できる試飲会が数多く開催されているが、その多くは協会と関連しており、Amis会員にはこれらの試飲会の招待状が届けられるのだ。45ユーロの試飲会がタダであったこともある。

 

 さてその協会から11月下旬、いつもの如く招待状が。久々であるイタリア・ワイン試飲会のお題は「ガイアとサシカイア」。シンプルかつ超直球である。

  試飲会当日がやって来た。予想以上の混雑である。Amis会員やパリのソムリエ達の人垣を掻き分けて、どうにか試飲スタンドに辿り着く。するとそこに立っているのは、なんとアンジェロ・ガイア氏とニコロ・インチーザ・デッラ・ロッケ氏のご本人達だった!まぁ彼らにとっては「ちょっと国境を越えて」くらいの感覚なのかもしれないが、まさか会場にまで足を運んでいるとは思っていなかったので少々ビックリ。ユーロ圏にいる醍醐味である。そして群がるフランス人達に自ら惜しげもなくサービスしているのは、当然ながら彼らの自信に満ちた一連のラインナップである。

 ところでこの試飲会に臨む前、私自身最後にイタリア・ワインを飲んだのはいつだったのか思い出せないほど完全なフランス・ワイン浸けであった。言い換えれば今までの人生でこれほどまでに一国のワインだけを飲み続けたことは無かったのだ。そしてそんな状況でガイアのシトモレスコを口にした瞬間、衝撃が走ったのである。それは「恐ろしく美味い違和感」とでも言うべきか。「フランス以外」「いつもと違うものを飲んでいる」という印象をここまで強烈に知覚したことは未だかつて、無い。

 フランスが多種多様なワインを生み出し続けていても、何か共通する「フランス味」なるものが存在し、舌にはそれが知らぬ間に刷り込まれるものなのかもしれない。ワインを試飲し続けていると数年に一度口の中で全く未知の感覚と出会うことがあるが、この日の衝撃はまさにこれ。そして衝撃の第一波が過ぎた後にじっくり彼らのワインを味わうと、これまた今までにない鋭敏さで「イタリア」を感じる。全く上手く言えないが、「拝んでいる太陽」がフランスと違うものに感じられて仕方がない。  

飛び抜けたワインであればあるほど、樽・セパージュ・醸造方法・etcでは隠しきれない「太陽」や「土」が、ワインの中に溶け込んでいるのかもしれない。「他国絶ち」により「他国」を感じる。かなり天の邪鬼な方法である気がしないでもないが(と言うよりヒマ?)、個人的には久しぶりにワインの持つ不思議さにノックアウトされた感で一杯だ。グラッツェ、である。

 

しかしそれにしても、ガイア氏のあのパワーは一体どこからくるのであろう?それは物静かなロッケ氏とは非常に対照的で、氏のマシンガン・トーク(イタリア訛りながらフランス語も流暢である)は途切れることなく続き、その前ではあのお喋りなフランス人すら無口に見える。またガイアが2002年にリリースした「Magari(マガーリ)」の、フランス人達の発音はどうも氏のお気に召さないようで、氏は何度も「マガーリ!マガーリ!」と発音を伝授し、素直に発音を繰り返すフランス人達。完璧に氏のペースである(ちなみに「マガーリ」とは「だったらよいな〜」というニュアンスのイタリア語であるらしいが、この試飲会に参加した人達は全員、この言葉を正しく発音できるようになったに違いない)。

そんな氏に「日本向けのHPに写真を載せたいのですが」とカメラを向けると、日本に対する感想をスラスラと述べた後、あっという間に雑誌で見かける氏の顔に早変わり。その数秒後には他の人と商談を開始、そのまた直後には「マガーリ!」の発音伝授再開である。しかもその七変化に威厳と笑顔が保たれている様には、一流の仕事をこなす人特有の時間の早さとオーラがこれでもか、とばかりに発散されている。

帰途に着くためにメトロに乗り込んでも、巨匠達のワインの余韻と共に、氏の「マガーリ!」の声は耳を離れることは無かったのである。

 

ニコロ・インチーザ・デッラ・ロッケ氏

アンジェロ・ガイア氏。「マガーリ!」が耳から離れません、、、。

 

 

甘い話 〜デザートのオートクチュール〜

 

 甘い話が皆無のこのHP。理由は簡単で私自身余りデザートには関心が無いからである。よってフランスでデザートを口にすると言えば、レストランや知人宅での食事の延長くらいであった。

 そんな私にワインショップLAVINIAスタッフであるアユミさんが(彼女はデザートも含め非常に「美味しいもの」には敏感なのだ)一押ししてくれたデザートが、「Atlier YUKA」のもの。YUKAという名前の通りここでデザートを手がけるのは日本人女性、森本 有香さんである。かねてからの趣味であったデザート作りを極めるため(趣味と言っても教室を持つほどであった)、一流企業でのOL生活にピリオドを打ち単身渡仏したというから半端ではない。またその後の数々の修業先もパティシエを目指す人なら、きっと羨むものである。

 その有香さんが手がける仕事の一つが、「デザートのデリバリー」。これは、ハマる。なぜなら彼女の作るデザートは注文主の要望があれば素材や製菓法は自在にアレンジ可能であり、いわば「デザートのオートクチュール」。この世にたった一つのマイ・ケーキであるからだ。ある日、彼女曰く「試験作」である「和」をイメージしたケーキをアユミさん邸で頂く機会に恵まれたのだが、これはもう目鱗の世界だった。

 抹茶や栗といった素材、生地やクリームなどパーツ毎に使われる、異なる手法。それらが細かく組み合わされると、ケーキという「洋」のものでありながら、雅で優しい「和」がそこにはある。説明を聞くとケーキというものがここまで考え抜かれて作られていることにも驚くが、味わいに力みは皆無で食べるほどに楽しくシアワセ、テーブルに着いていた人は全員メロメロである。デザートを通して自分の思い描くイメージを表現できるなんてカッコ良すぎるが、自在なアレンジやイメージ表現は確かな技術と、何よりもセンスが無いと単に奇抜なものに終わってしまうものである。その意味でも有香さんの腕に脱帽だ。そして注文主としては、たった一つの自分のデザートが非常に丁寧に作られているという事がなんとも嬉しいではないか。

 パリでデザートが恋しくなったら「Atlier YUKA」。オススメです!!!

 

〜森本 有香さんのプロフィール〜

渡仏後は

     ベルーエ・コンセイエ(職人製菓学校)

     リッツ・エスコフィエ

にて学ぶ。後に

     Laduree

     サダハル・アオキ(元アナウンサーである雨宮塔子さんのご主人である)

     A.Larher(2000年度最優秀パティシエの店)

     F.Cassel

他で研修。

現在お好みに合わせて作るケーキの注文販売や、日本へのお土産用に日持ちのする焼き菓子などを手がける他、出張教室もあり。

連絡先:yuka0118@hotmail.com
    2004年5月現在、有香さんは一時帰国中。次回の渡仏は秋を予定されています。