裏話 2月

〜 津波被災者のための救済支援のための、ブルゴーニュワイン競売会〜



 

 

 私の友人たちは、私が長年ダイビングをこよなく愛していることをよく知っている。だから昨年末にあの津波の惨事が世界中に伝えられた時、永らく音信の無かった友人からすら、安否を気遣ってくださる電話やメールを頂いた。そしてある意味他人事とは割り切れない恐怖を感じている最中、モルディヴで翌日には既に潜っている観光ダイバーがいたとの情報を聞いた時には、不謹慎をも飛び越えたかのようなその大胆な行動は、非常に理解に苦しんだものだ。

 一方、フランスから寄せられたメールは2つのタイプに分けられた。一つ目は日本人の友人たちからだ。フランスのみならずヨーロッパ諸国の人間が、他国でこれほど自国の犠牲者を出した天災は過去になく、彼らの話から察するに、報道は悲痛さにおいて日本の比ではなかったようだ。そして何人かは、フランスでは「津波」は「Tsunami」という同じ言葉であることに驚いていた(私も驚いた)。考えてみれば地震の恐怖に基本的には晒されない国だ。地震がもたらす津波という現象を説明する自国語は身近ではなかったのかもしれない(一応津波を表す「Raz de maree」という言葉も存在するが、「Tsunami」の方が一般的であるようだ)。それゆえに、やはりそのショックも異質であったと思う。

 そして二つ目は、この裏話のタイトル通りワイン関係者から知らされた、ブルゴーニュで開かれた競売会に関するものだった。これに関しては、まずはここにフランス食品振興会発行メールマガジンを引用する。

http://www.franceshoku.com/

 

スマトラ島沖地震とインド洋大津波の被災者救済支援のため、ブルゴーニュの生産者が立ち上がった。117日〜21日まで、500以上の樽(うち200樽はブルゴーニュワイン事務局が寄付)をインターネットオークションのEbay Franceで販売した。また122日には、ニュイ・サン・ジョルジュで競売会を行った。
 売上金の第一弾として、11,628.10 ユーロ(163万円)が週末までに、残っているボトル(10,334ユーロ相当)も近日中に競売にかけられ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に送られる。

(http://vindeveloppement.blogs.com/bourgogne_tsunami/  1/19 
La journee vinicole)

 

 BIVB(ブルゴーニュワイン委員会)から後日頂いたメールによると、競売会を組織した人はグレゴリー・ジャピオ氏といい、短期間に数多くのブルゴーニュの生産者たちに参加を呼びかけ(生産者名などの出典リストは上記 http://vindeveloppement.blogs.com/bourgogne_tsunami/ に記載されている)1947年〜2003年までのワインを集めたのだという。そして最終的に現時点では、14,164ユーロが回収されているようだ。

 

 結局私は傍観者であり続けたが、既にダイバー仲間からは「事態が収束を見せたら、直ちにモルディヴに行こう!海が美しさを取り戻していることをダイバーが伝えることこそが、観光国であるモルディヴを救うのだ!」と誘われ、どんでん返しが無い限り、次回の休暇はモルディヴ行きが決定している。どう言ったところで「休暇」であるモルディヴ行きにきれい事を並べる気はサラサラ無く、同時に自分の記憶にある美しい海や、現地で会うかもしれない知り合いの笑顔を見ることができる確信も全く無い。ただニュース以外の、ワイン関係者やダイバーといった私にとっての「身近」な立場の人たちからのリアクションが、今回の惨事を頭から離れさせない原因になっていることは事実である。

 

 話は大きく逸れるが、地球温暖化で最も先に壊滅的な被害を受ける国の一つが、海抜が低いモルディヴである。先日テレビで、モルディヴの人が「工場なんて殆ど無い国に住む私たちが、なんで真っ先に沈まなければならないのだろう。理不尽だ」と言っていた。そして名だたるワイン産地も沈みさえはしないが、やはり気温の上昇のために、50年後には産地のかなりの北上化が迫られるのだという(しかし北上したところで、同じ土壌が得られる訳では無いということは何を意味するのか?)。津波に対するアメリカの募金は莫大であったが、二酸化炭素最大排出国であるアメリカ、せめて京都議定書に参加してくれないものだろうか???