裏話 4月

〜 プリムール後、新たにワインの価格に悩む? 〜

 



 4/3〜9の間は、ボルドーのプリムールに参加。ならばここはプリムール報告になるはずなのだが、他分野の雑誌の締め切りなどもあり、現在準備中。少し待って頂ければ幸いです、、、。

 

 ボルドーからパリに帰ってきて、まずは久しぶりにスーパーに赴いた(自宅の空の冷蔵庫を満たすために、買い物に行ったのだ)。プリムールの価格などを連日話していたせいか、ワインコーナーの棚に並ぶワインの価格の安さが目にしみる。そう、以前から思っていたが、スーパーで売られている一部のワインは「これで、いいのか?」というほど安い。フルボトルで2ユーロもしないワインも珍しくはなく、これではメトロのチケット並みの価格である。

 安さの筆頭を行くのが、高級品種以外のアルザスや、南西地方、そしてラングドック&ルーション等であり、そのラングドック&ルーション地方に関しては、価格の低下に耐えかねた一部のワイン活動家たちが繰り返す爆弾テロ(!)が、頻繁にメディアで報道されている。テロには全く反対だが(なぜ南仏は、過激なワイン活動家が多いのか?)、「やってられねぇ!!!」と暴れたくなる気持ちも分からないでもない。なぜなら2ユーロもしない市場販売価格の中に、瓶、コルク、さらには輸送といった経費や、スーパーの利益が含まれている。機械と農薬で人件費を削減し(しかし機械や農薬だって高いのだ)、いかに工業的な醸造をしていたとしても、やはりワインである以上、一年を費やした、恐らく株1本弱分くらいのブドウの結果が、1本のボトルだ。安くないフランス生活を送りながら、1本につき1ユーロ程度(以下?)の利益しか受け取れないのは、キツイだろう。ちなみにその「飛んでもなく安いワイン」の味わいだが、私の個人的な感想では、赤は一杯すら飲み進みにくい、どうしようもない味のものに出会うこともあるが(中途半端に存在するタンニンが生臭くてうぅっ、と来る)、白は料理用に買ったものを2、3日かけて完飲してしまったこともある(SO2も遠慮なく入っているのか日持ちは良い)。大きな喜びも無いが不味い訳でもなく、キリキリに冷やしてグラスに入れてしまえばビールよりは絵になり、下手なカクテルよりは喉の渇きもそれなりに癒える。

 ところでヴァン・ド・ターブルやヴァン・ド・ペイ、また無名なAOCのバルク売りが主体だった時代は、ワイン自体の価格は今のスーパーのたたき売りよりも、より安かったらしい。更に話は逸れるが、私がパリで借りているステュディオの大家さんは、ミネルヴォア(ラングドック)出身で、2年前のステュディオの契約時、私が「ああミネルヴォアから、いらっしゃったのですか。カリニャンが美味しいですよね」と言うと、大家さんは心底驚いた後(私のフランス語レベルで、まさかミネルヴォアという言葉に迅速に反応するとは予想外だったのだろう)、しみじみとこう語った。

「私が初めて『労働をして』お小遣いを貰ったのが、カリニャンの収穫。カリニャンは本当に黒くて甘いのよ。スーパーで『ミネルヴォア』のボトルを見た時、時代が変わったのだと感じたわ。だってあの頃は皆、近所にワインを売るくらいで、瓶詰めなんてしてなかったんだもの」

大家さんの年齢は多分60歳を超えていて、素直に「ミネルヴォア、パリに進出!」を楽しんでいるようだったが、当の生産者は現在、「低価格帯ワイン」の争いに勝ち抜くか、ある程度の蔵出し価格で押し通すことの出来る「定評」を獲得するかの選択に迫られ、後者を選んだ時には投資の必要も生じるだろう。良いワインを造るとは貧乏に耐える覚悟があること、と言ったのは、フランスワイン事情に精通した知人であるが、「貧乏に耐えてでも、美味しいワインを世に送り出しましょう」と口だけで言うことはできない。そこにはバックアップが必要で、前述のテロも、政府の救済政策(資金援助の少なさや、人件費の安い海外ワインに対する関税や規制の緩さ)にくすぶる不満が原因だ。

 

 「2ユーロもしないワインが、市場で成り立つ理由を考えてみろよ、アキヨ。きっとコカ・コーラみたいにワインを造っているんだよ」と言ったのは、ボルドー・プリムールでも大変お世話になったカヴィズト、ラファエルだ。彼はボルドーを車で移動中、様々なスーパーの「安売り大王」的な広告に嘆いていたが、彼をもっとも激昂(?)させたのは、「鶏の胸肉 6枚 3ユーロ!私たちは価格のリーダーです」というものだった。

「胸肉を6枚取るのに、3羽の命が必要なんだぜ。1枚の胸肉と、1回の小便の価格(パリの公衆で用を足すには50サンチームが妥当)が一緒だなんて、世の中はおかしい。命の受け渡しを甘く見すぎてはいけない。きっと考えられないくらいに、短い時間でモノを作るように彼らは育てられた後、絞められるんだ。オレは鶏の束の間の自由と、それぞれの健康のためなら、最低でも倍額を胸肉に払うだろう」

ラファエルの話し方は辛辣だが、私はその辛辣さが大好きで、そしてこの場合、彼は正しいと思う。メトロのチケットくらいの価格のワインに需要があるのは、事実(鶏肉も同様)。でもフランスではワインの消費自体がピーク時の半分を割ったのも事実で、フランス人消費者がアルコール飲料を選ぶ時、多様になったその選択肢はワインである必要はない。要するに国内外でフランスワインが勝負を望む時には、ある程度の品質の高さが必須なのだ。生産者への間接的な応援ができるなら、それはメトロのチケット以上の価格で販売されることも、一つだと思ったりしてしまう(もっともそれで、あぐらをかく生産者の未来は、明るくないだろう)。