11/17〜21 〜 常識のずれ 〜 |
今回のスケジュール |
オスピス・ド・ボーヌに準じて。
生産者とのアポイントもあり、オスピス3日前にボーヌ入りするも、寒い!天気予報を見ると今回の日程の、明け方の最低気温はゼロからマイナスのオンパレードだ。そして翌週には、ブルゴーニュのみならず、パリでも雪が降ると言う。11月に雪!?10月が暖かかっただけに、ワイン関係者のみならず、多くのフランス人が「今年は秋を堪能しないまま、冬になってしまった」と言う。
彼らの口ぶりには、やはり底辺に「地球の天候がおかしくなっているのでは?」という、それぞれの日常で感じる不安がある。今回泊まったホテルのマダムは、こう嘆いた。
「ここ10年ほど、秋の楽しみ、キノコがどんどん採れなくなってしまったわ。森が乾いているの。それだけじゃないわ。変な時に気温が上がるから、季節外れの虫が発生する」。
ワイン生産者の中には「秋が暖かいから、マロラクティック発酵(冷え込むと始まらない)が始まる時期が、昔より早くなった」という声もあるし、パリジャンはパリジャンで、「紅葉が始まらない。葉っぱが緑のまま、ある日突然落葉してしまう」と杞憂する者がいる。「地球の温暖化」という概念があるから日常の異変を「地球規模」に結びつけてしまう傾向もあるだろうが、やっぱり少し、ヘンな気がする。
常識のずれ |
オスピスの前々日、「Les Artisans Vignerons de Bourgogne du Sud(南ブルゴーニュの職人たち)」という試飲会に参加。試飲会の名前にある「職人」に相応しい、少数精鋭のワイン生産者が揃うものだったが、ある生産者にこう尋ねられた。
「日本で、マコン地方は有名か?」
私はワインの好きな人ならマコン地方は知っているが、現実として、各村の特徴を把握している人は少ないのではないだろうか?と答えた。なぜならボージョレならムーラン・ナヴァンや、モルゴンというラベルを見た時に、それはワイン選びの基準となり得るが、村名付きマコンを見て「この村にしよう!」と選ぶ日本人消費者は、ごく僅かに思えたからだ。すると彼曰く
「でもヴィレ・クレッセ(Viré−Clessé)なら、分かるだろう?一つのアペラシオンなんだから」。
ヴィレ・クレッセ。微妙である。私がヴィレ・クレッセを知っている理由を正直に書けば、資格取得のためにブルゴーニュのアペラシオンを丸暗記したからで、では何処にあるか、と尋ねられると昨年マコンを訪れた時に、初めてマコン地方の地図をジックリ見て知った。それでも「では、ヴィレ・クレッセの特徴とは何?」と尋ねられると、味覚的な印象は、アペラシオンよりも生産者の個性として記憶に残る。ここからは生産者(以下「生」)と私の会話だ。
生: えっ、ヴィレ・クレッセを知らない?(かなり驚愕)
私: いや、私は仕事柄、知っている。でもワインショップに色々なボトルと一緒に「ヴィレ・クレッセ」が並んだ時、消費者にとって、そのラベルにどれくらいのメッセージ性があるかは疑問だ。
生: じゃあ、村名付きマコンなんかは?マコンの土壌は3タイプに分かれていて、実際、味も全く違うのだろう?
私: 飲めば確かに違う。でもその違いの把握は、少なくとも日本では、ワイン関係者内で留まっているのではないだろうか?なぜならまず、これは全くあなた達の責任ではないが、フランス語もフランスの地図も、もともと私たちは知らないのだから、村名をラベルに書かれても、そこにピンと来るものが余り無い。もっと極端に言えば、それがスペシャル・キュヴェであったとして妻や子供の名前を冠されたとしても、どこまでが区画の違いで、どこまでがセレクションの違いなのかも分かりにくい。
生産者は頭を抱え込んだ。若い彼のワインはとても素晴らしく、次世代の長所で、自分たちのワインが消費者にとって分かりにくいものであっては、最終的に良くないと考えているようだった。
「ならば少なくとも英語で、バックラベルに説明を添えるべきだろうか?」
これには私も賛成した。実際、日本では有名ドメーヌ、もしくは有名アペラシオン(=情報が溢れている)ばかりが売りやすく(選びやすく)、生産者たちが現地で注いでいる努力や思い、その結果としての味わいは、誰かが声高に取り上げない限り、規定の「表」ラベルからは伝わらないのだ。
そして私も考えさせられた。幣HPはワイン好きを対象に書いているので余り注釈は無いが、「ワインをもう少し、知りたい」と思っている方がこのHPを読んだ時、単なるマニアックな言葉の羅列に過ぎないのではないだろうか?幣HPだけではない。フランス人ですら一般を対象にしたアンケート(2005年度)では「ワインのアペラシオンの概念」を正確に答えられた人は6割弱。一方でフランスでも発展し続けるグルメな文化、言い換えればソムリエやカヴィスト、そしてジャーナリストたちからの専門的な発信は、フランスで特に若年層におけるワイン離れが加速している現実を考慮すると(注)、「これくらいは、知っているだろう」というスタートが、既に「まずはワイン消費者が増えなければならない」という現実と乖離している(もちろん専門的な情報も、常に必要だが)。
私はプライヴェートでワインを飲む時、全く何も考えない。でもやっぱり美味しいものは美味しいと思うから、ずっとワインが好きだ。そして生産者の努力を知った時に、ワインが気分で(?)より美味しく感じられるとも思っているので、少しでも現地情報は伝えていきたい。しかし日本という「現場」を離れて数年経つ今、どういった情報が日本で最も必要なのかを、私も考えなければならない。
ともあれこの各立場の「常識のずれ」は、縮まるべきであると思う。
(注)
ONIVINS(全国ワイン同業者連合会)が9月に発表した調査結果によると、2005年のフランスのワイン消費者は約3200万人。38%の人が「ワインを飲まない」と回答し、5年前の調査時より消費者は約100万人減少した。一方飲む頻度では「ほぼ毎日飲む」は、35歳以下の若い世代には殆どいない状態。