6/20〜27

〜ちょっとした、贅沢〜

 

 

 

表題の日付通り、収穫時以来の長期滞在ブルゴーニュ。だが収穫時期でもないかぎり、基本的に週末は生産者も休む。そんなわけで今回は土曜日に予定外の試飲会に参加したりはしたものの、日曜日は特にすることもナシ。

 

夏至直後の暮れない太陽は午後9時を過ぎても、空をまだ明るい水色に留めている。「午後8時以降は、夏至であろうと薄暗い」緯度の低い国に生まれ育ったせいか、夏至前後のフランスの空はこの地で幾晩を経ても見る度に、一日の時間に沢山のオマケをもらったような、そしてそのオマケ時間を永久に手に入れておきたいような、なんとも不思議な気持ちにさせる。幼い頃、門限は「何となく暗くなるまで」だったから、学校(仕事)が終わっても明るい時間は遊んでも良い、というヘンなすり込みもあるのかもしれないし、占星術風に言うならば、冬至のど真ん中が私の誕生日ゆえに趣味のダイビングも含めて、太陽に焦がれるタチなのかもしれない(お陰で美白が追いつかない)。

ともあれこの季節の空とは、なぜか私にとって時に涙が出そうなほどに感動をくれる。そこに「翌日は特にすることもナシな日曜日」、しかも晴れたブルゴーニュとなると、永久滞在をするとは思えないフランスで少しでもこの空を享受したくなり、夕食の時間さえ屋内にいるのが惜しくなって、カメラ片手に宿泊先を飛び出してしまう。ところで私は写真を撮ることは全く好きでなかった。今や旧型の愛用デジカメも、渡仏前に「必要なはず」と、メカに強いダンナに尻を叩かれて手にしたようなもので、風景を「カメラ目線」で枠取ってしまうのがとても不自由に思えたのだ。しかし最近は積極的に写真を撮っている。自分が目にしたワイン産地やブドウ畑の風景を、ヘタクソでな写真でも幣HPで誰かに見て頂くことでワインがより美味しく感じて頂ければ嬉しい、という言い方は綺麗すぎるが本当に正直な気持ちで、でも個人的なカメラ衝動は、ワインを愛するダンナ(同じ時間に同じ「ワインな」風景を見ることができず、しかもダンナの理解が私の在仏を支えている)に、目の前の風景を送りたい、という思いが殆どを占めている。

ここまでHP上でノロケた言い訳としては、週末ゆえ夜も目が冴えた土曜日の夜、畑の上で見上げた空がまるで南の島で見る「星が降る」ような劇的な眺めで、それはますます「ああ、ダンナに見せてあげたい」と思えたからだ。

ブルゴーニュの6月の空。久しぶりに入ったデュガ家の畑にて、午後3時頃。まぁ作業中は感動よりも、日差しがただただキツイのであるが。

 

しかし。週末のダンナからの電話は、そんなちょっとした切ない気持ちをまずは一刀両断に切るものであった(?)。ダンナは友人たちと初夏の楽しみ「ハモ鍋」を満喫した直後で、私に「ハモ報告」をしてくれるも、多くの在仏日本人にとって美味い魚を日本風に食す機会はそう多くない。「出汁」や「新鮮な旬な魚」という言葉は、日本への郷愁を食欲というもっともプリミティヴな形で掻き立てる。聞きたいけれど聞きたくない、といった感じで、自分の意志で渡仏しているにも拘わらず口をついて出るのは「いいなぁ、日本は」のみ。そんな私にダンナが「ところで、今、何してんの?」。そう、私は宿泊先の庭で、熟れたサクランボを木から取って食べていた(洗えよ、と言われそうだが、ブドウ畑でブドウをそのまま食べることに抵抗が無くなってからは、なぜか木なりの果物は平気で食べられるようになってしまった。一応このサクランボは無農薬&家人の了承済みである)。「それだって、すごい贅沢じゃないか」とダンナに言われ、確かにそうだと単純に納得してしまった。

前日はやはり庭で取れた、丼いっぱいくらいのフランボワーズを大きなスプーンでザクザクと食べていたし、ジャムになる前のカシスやグロゼイユも食べ放題。ワインの表現で「赤系・黒系果実」とは良く使うが、生でこれらの果実を食べた時、特にカシスなんかはタンパク質を思わせるような生臭い野性味があり、きっと日本人とフランス人が「カシス」という言葉を使う時、そこに感じているものは微妙に違うのだろうと思う。とにかく「現地で旬を味わう」ということは、やはり何であれとても贅沢なことなのだ。しかも頭上には高く青い空。手の届かぬハモを羨む暇があれば、限られた在仏時間を五感で吸収して、なんとか言葉や写真で誰かに伝えた方がよい。電話を切った後もサクランボを食べながら、改めてそんなことを思ったりした。そしてきっと世界中には、そこにいないと分からないシミジミとした幸せが、「食べる」という行為を通してあるのだろう。

 

酷暑の再来か?7月中旬までのお天気状況

 

 ブル入りの3日前くらい(17日)から、フランスに「2003年の再来」を思わせる酷暑が到来。それまでの経緯としては、5月下旬にやっと半袖解禁な暑さが訪れたものの、6月上旬には「6月で、こんなに涼しいなんて異常よね」などという会話が交わされていたゆえに、いきなり連日の30℃超えは誰にとっても厳しいもので、南仏では局所的に40℃も記録した。そしてこの酷暑は6月29日まで続き、この「裏話」を書いている7月上旬は、またもやフランスにはヒンヤリとした風が吹いている。

 思えば昨年も、6月中旬は非常に暑く、しかし革命記念日(7/14)を過ぎた後からは冷夏に逆転。多くのワイン産地では「9月のインディアン・サマー」が訪れなければ、かなり悲惨な結果に終わったと思われる。現時点では「恐らく2005年は、冷夏ではなさそう」という声も聞こえつつある。どうなることやらだが、「完璧に理想的なミレジムの天候推移」というものがあるのなら、一度はそれを体感してみたく思ったりする今日この頃だ。