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〜 冷えたランスの一日。 最後は、暖かく〜

 


 

 

 メールのやりとりがあるブルゴーニュの生産者たちから「やっと、初夏の畑仕事のピークが過ぎた」の声が聞こえ始めた7月上旬。前回の「ブルゴーニュの裏話」と話は重複するが、皮肉なものでピーク時には真夏日和が続き(よってブドウの成長は加速し仕事も密に)、今になって急に、畑にいても心地良いであろう冷たい風が流れ始めた。とにかくどのワイン産地でも2005年の特に6月下旬は、畑で働く人たちにとって日射病直前の炎天下だったと思う。

 そして冷え込むとグングン冷え込むことがあるのも、フランスだ(この展開も当HPでは多いのだが、それはフランスがそういう気候であるということで)。

 

ランスへ発ったのは、天気予報をゆっくり見る間もなかった早朝。家を出てすぐに自身の薄着を悔やむ冷気に気づき、電車に乗り込んで更に後悔。こういう気候が当たり前である仏人たちは、しっかりとパーカーやストールをまとっている。太陽が出ない限りランスはパリより寒いはずで、車窓は小雨、そして降り立ったランスはやはり寒かった。駅ですする暖かいカフェ・オレが愛おしい。

「お客さん、ついてないですねぇ。明日からは徐々に晴れそうなんですが今、外は13℃ですよ」。タクシーの運転手さんに言われるも、こういう時に具体的な数字(気温)を知ることは、だめ押しに近い。寒さ倍層だ。折しもこの日のアポイントはグラン・メゾン系で、初対面の醸造者の方もいる。私の薄着自体は失礼の無いものであったと思うが、出かけ際に急いで手に取った予備のカーディガンを羽織るとどうもビンボーくさい。やはりボルドーのシャトーやグラン・メゾンは、受付に流れる雰囲気や規模からして「企業訪問」色が強い。女性なら最低限のエレガンスは保ちたく、メゾン内でのカーディガンを極力諦める。暑い時なら快適に感じるカーヴ内や試飲ルームも、こういう時は重なる冷え込みで微妙に辛い。試飲が始まると自然に集中してしまうことと、自身のフランス語を補うためにはジェスチャーも必要なので、一瞬は寒さを忘れているものの、訪問後にゾクっとくる。

ところで試飲(特に赤ワイン)が終日続いた後に、私が知る限りビールを一杯やるフランス人テイスターは多いと思う。頭をフルに使い舌がタンニンや酸味で疲労した後に、何も考えずに飲めて、しかも全てを消し去るその冷たさと苦み、泡は日本のビール環境と同様、「ぷっは〜、おつかれ!!!」なシチュエーションにピッタリで(乱暴に飲まれつつ、歴然と好みが別れるところも似ている)、実際本当にああ、ウマイ!と思う。しかしこんな一日の終わり、ビールはその冷たさゆえ論外で、試飲中は禁じていた甘系、熱々のショコラなんかを大きなカップで飲みたい。とにかくこの日、ランスの駅に戻った時、私の頭はショコラ・モード全開であった。だがパリ行きの電車を一応確認すると、次は12分後、これを逃すと1時間半後である。TGVではないのでランスーパリ間ならどの電車でもOK、な乗車券は既に買っていたものの、ここは迅速なサービスが望めない国である。10分以内でショコラを楽しめる保証はない(サービスの人を呼び止め、オーダーしたものを受け取り飲み終え、精算を済ますのにとんでもない時間がかかる時がある)。しかもこの日は金曜日。パリ行きのホームには、いつになく人混みが。選択肢は2つだ。

     1時間半後遅れを覚悟で、カフェで暖をとる

     堅実にホームの前方に陣取り(大阪のオバチャンでなくとも、車中で1時間半以上立ちっぱなしはイヤだろう)、少しでも早く風呂に浸かる(オッサンか?)

どちらにしても若さが微塵も無い選択肢だが、一応後者を選択し席も確保。車中でカーディガンの襟元を引き上げてそこに顎を埋める姿はよほど凍えて見えたのか、隣のマダムが声をかけてくれた。

「マドモアゼル(20回に1回くらい?のこの呼びかけに、まずは微妙な心境)、今日は寒いわね。もし辛かったら、私が車掌さんに空調を交渉してみましょうか?」

ううう、なんというお心遣い。当のマダムはしっかりと着込んでいたので、本当に私を心配してでの提案だったのだと思う。

フランス人は自己チューで、外国人に親切ではない、と言われることも多い。だが私はその自己チューが良い意味で天然であるゆえに、自分が発した言葉を理解するかどうかもわからない一外国人に、自由に声をかけることもできるのだと思う。もちろん多民族を受け容れているフランス人は外国人慣れしているとも言えるが、私くらいからそれよりも上の世代の日本人は、日本で昔流行った「ハトマメ」の曲如く、言葉の壁を謙遜する余り、瞬時にその優しさを発揮する機会を逃しているのではないだろうか(もっとも日本人の良き肌理細やかさは、最終的に各分野で伝わっていると思う)。とにかくマダムの言葉は私をなんとなく安心させ、寒さよりも心地良い眠気を誘ってくれた。こういう恩は私が日本にいる時に、困っていそうな(?)他人に声をかける勇気で返せれば、と思うけれど、口ベタゆえ、これがなかなか実行できないでいる、、、。