4/19−23

〜 いざ、「庶民のエル・ブジ」へ!!! 〜

 

  
  初のラングドック&ルーション地方。オーガナイズは全て当HPお馴染み、GCCの須藤氏
である。そして今回の産地行脚(?)は、初めてワイン産地や生産者を訪れた頃を思い出した。そう、完璧にその風景の圧倒的な力と、ヴィニュロン達の熱い思いに、新鮮に打ちのめされたのだ。しかしすぐにでもこれらを伝えたい、という思いとは裏腹に、最近とにかく時間が無い。せめて写真だけでも簡単な、でも何かが伝わる説明を併せ、「小さな写真集」としてアップを準備中であるが、今回の裏話のお題は「庶民のエル・ブジ」である。

 

 須藤氏はここ数年、かのエル・ブジへの予約を試みているが、ことごとく玉砕。希望日は全て「コンプレ(満員)」、ならば空いている日を尋ねれば、それが予約受付開始直後でも「今シーズンは全て、コンプレです」。取り付く島もない、とはまさにこのことだ。そこで今回の生産者巡りのメンバー(須藤氏、エア・フランスのスチュワーデスさん、私、の3人)は、「アタック!エル・ブジ作戦」を練ることにした。それは「出ているかもしれない当日キャンセルを狙って、奇襲(?)する」というもので、要するにエル・ブジまで行ってしまい、万が一空きがあれば大ラッキーという、やけくそ気味な作戦だ。

 ルーション地方・コリウール近く(もちろん、スペイン国境は至近)、宿泊先であるアルジュレ・シュール・メールという街を出た3人は、「この作戦が成功する訳が無い」と口で言いつつ、なぜか妙にハイで、一応エル・ブジ仕様のファッションに身を包み、ポジティヴかつ信じられないほどオプティミストであった(他人から見れば、単なるグルメ・バカである)。高速ではなく、海沿いを走る山道を抜けて国境を越える。絶壁に張り付くバニュルスのグルナッシュ、刻々と光が変わる夕刻の光とオレンジ色の街並み、そして紺碧の地中海。車窓は私たちのオプティミスト度を否応なく高めていく。そしてようやく、ローズという、エル・ブジが存在するという海沿いの街に到着した。 

〜  フランスから、スペインへ。(車窓なので、ぶれています。すみません、、、) 〜

バニュルスの斜面が続く、フランス側。単純に「よくこんなところまで、畑を植えて世話をできるものだ」という驚きがある。 スペイン側に入る。地中海地方特有の光が美しい。

 

 ここまでたどり着いて、私たちはまたもや自らのいい加減さに直面する。私たちは誰もエル・ブジの正しい住所を知らなかった。知っているのは「海の見える、山の中にある」ということだけで、海沿いからせり上がる山に点在する家々を見て、「あの建物なんかは、においますねぇ」。それでもどうにか所在を尋ねつつ、教えられた山道に車を走らせるも、走れば走るほど、本当にこの道で合っているのか?という不安を感じさせる細い「うねうね道」が続く。食後に運転を誤った人はいないのであろうか?しかしやがて、隠れビーチとも言うべきひっそりとした小さな湾に広がる敷地を発見した(須藤氏曰く、「まるでヌーディスト・ビーチのような、隠れ具合だね」)。エル・ブジだ。時間は8時過ぎ、幸運にも予約が取れた人たちが、レセプションに吸い込まれていく。そして私たちも「アタック・エル・ブジ作戦」を展開する。

 

エル・ブジへの道。 今シーズンのメニュー。
美しいパテオ。 調理場。

 

 結果はやはり、玉砕。しかし応対してくださった方は親切で、1件のレストランを紹介してくれた。そのレストランの名は「スナック・マール(Snackmar)」。ローズの街中にあり、シェフであるセルジオ・サンタマリア氏は昨年初頭まで、エル・ブジのキュイジニエとして勤務していたらしい。他に特に選択肢も無いので、この「スナック・マール」に足を運ぶことにした。ちなみにエル・ブジへの予約の申し込みは、メールの方が確実とのことである。

 またもや迷いながらも到着したスナック・マールは、青が基調のこぢんまりしたモダンなカフェ、といった風情だが、客層はパリのカフェにたむろするオジサン達よりも趣味良くお洒落で、英語圏の客も一組。そしてフロア・サービスの人は、恐らく日本人3人組が到着する、という連絡をエル・ブジからきちんと受けていた。店内のスクリーンには、調理場の実況中継が映されており、無機質な調理場やいかにもエル・ブジ風の調理器具、加えて4人の人間が調理に従事していることに期待が高まる。

 私が書くまでもなくエル・ブジのあの皿数の多さは、タパスの究極の進化型と言え、スナック・マールの形態も、カテゴリーとしては「タパスを提供するバール」である。そこで私たちはシェフにお任せで、食べられるだけの(?)皿数にトライすることにした。

 細かな工夫が凝らされた美しく小さな皿々は、「エル・ブジ」の血を引くことをハッキリと確信させてくれる(もっとも、本当のエル・ブジの味わいは知らないので、あくまでもイメージではあるが)。しかし難を言えば、全般的にやや塩が強く、時にせっかくの複雑な味わい深さを塩がなぎ倒しているような皿も残念ながらあった。それでも十分に満足と、レストランの楽しさが食後に残る。また3人で頼んだ品数は食前酒などの飲み物を入れて計27品、155ユーロ也。恐らくバールとしては高いのであろうが、レストランとしてのお値打ち感は十分にある(ちなみにエル・ブジのコース・メニューは26品で、一人155ユーロであった)。

 こういうレストランを見つけると、「下町のエル・ブジ」などというベタな名前を付けたくなるが、ここはこの裏話の表題通り、「庶民のエル・ブジ」ということで(あまり変わらない?)。フランスから近いローズの街に足を伸ばす機会があれば、是非お試し頂きたい。

 

〜 Snackmarのインフォメーション 〜

住所:C/Sant Sebastià 63 17480 Roses centre

電話:(34)972 15 37 05

 

スナック・マール。海っぽい青が基調の小さな空間。奥に見えるのが、調理場の状況を映すスクリーン。

ワインのサーヴィス。また各テーブルにも、自由に取り替えられるナイフ・フォーク入れなど、細かな工夫がされている。

〜注文した料理の一部〜

一押し。ジャガイモのピュレに白トリュフを合わせたもの。クラクラ来る、白トリュフ香がたまらない(シーズンではないと思うのだが)

このイベリコ産生ハムは、さすが。