裏話 1月

パリの和食

 

 

 年末より日本へ一時帰国。年末年始の雑誌の締め切りをクリアして、ガラパゴスの海に癒され今週(1/8〜)に再帰国、今どうにかパソコンに向かっている次第です。更新の遅延は最新記録を塗り替えた(?)と思われ、サイトを覗かれている皆様にここでお詫びを申しあげます。

 

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昨年は11月のオスピス・ド・ボーヌ以来体調を完璧に崩し、オスピス期間中は本当のオスピス(病院)まで運び込まれる始末(幸いにもスケジュールには差し支えは無かったが)。テイスティングに致命的な「鼻風邪」ではなかったとはいえ、一時は声が殆ど出なくなった。一方フランスは11月に早々と、パリでも氷点下を切る寒波が訪れ、それを縫っての取材が続いた。ここまで来ると、フランス料理に食指が全く動かない。そう、弱った日本人が戻るところはやはり和食、ひいては「白飯」であった。自宅ではひたすら米を炊き、友人との外食があればとにかく和食を指定。ゴハンでどうにか持ち堪えたと言っても過言ではない。

当サイトにも「旅行中、フランス料理に飽きた時に、どの日本料理屋に行けば良いか」という問い合わせを頂くので、ここにまずは「2005年度、筆者が駆け込んだ和食レストラン(パリ)」をリストアップしておきたい(よって価格は、「きふね」「レストラン・アイダ」を覗き、駆け込みに相応しい低価格)。また様々なガイドブックに「パリの日本食レストラン」は紹介されているが、ここにあるものは在パリ日本人のお墨付きである。

 

2005年度、筆者が駆け込んだ和食レストラン

 オペラ座界隈 〜

     國虎屋(うどん)、、、パリで唯一、「オアシス」と言えるうどん屋。関西風のダシがきいた薄目のつゆに、讃岐風の腰のある麺。日本で出店しても繁盛するであろう味のレベルの高さ。昼夜とも行列ができるのが頷ける。

     浪速屋(おかず)、、、おかず、という分類は怒られそうだが、日本でも口にしそうな味わいのコロッケなどが豊富に揃う。またラーメンは非常に素朴で、恐らくパリでもっともまともな一つ(次章参照)である。一方うどんは腰が抜けるほど腰が無いが、ここまで腰が無ければ消化に優しいとも言える。パリとしては価格が非常に低く設定されているところも○。

     えびす(中華)、、、ここで敢えて中華を入れる。シェフの明(みん)氏はベルヴィルの中華でトップクラスとして知られる(もっともベルヴィルは治安が悪く、観光客にはお勧めできない)。日本人の友人も多い氏の中華は、中華のエスプリをキチンと残しながら、日本人にも愛される「繊細」系。常連に舌の肥えた日本人が多いのも当然である。サービスも細やか。

     安兵衛(焼き鳥)、、、パリには中華系の怪しげな焼鳥屋が多い中、日本人にとっては貴重な焼鳥屋。焼き鳥以外の一品も気が利き、ワインは気軽なものながら、丁寧にサービスしてくれる。

 

〜 ポルト・マイヨ界隈 〜

     きふね(寿司、17区)、、、パリには最低から高級まで寿司屋が百花繚乱状態(次章参照)。「きふね」はその中では高級であり少々値段は張るが、パリでの価格と味わいのバランスを考えるとリーズナブルと言って良い。「パリで最も美味しい和食と寿司」と、ここをイチオシする日本人が多いことも付け加えておきたい。

 

〜 ボン・マルシェ(百貨店)界隈 〜

     レストラン・アイダ(鉄板焼き、7区)、、、昨年6月オープンながら、すでにフィガロ誌にも高く評価される鉄板焼き。漫画「神の雫」的なブルゴーニュ・ワインは「よくもここまで揃えた」と感心せざるを得ない。また食材はパリの3つ星レストラン仕様のものを厳選、日本では非常に稀な「乳飲み子牛の刺身」などが味わえる。財布に余裕がある時に。

 

パリの日本食ブーム、ラーメンに向かう?

 「健康的でジャポネなイメージ」で「スシ」が不動であることは変わらないが、昨年度、最も新しく注目を浴びたのは「ラーメン」ではないだろうか?その理由の一つとしては、日本の映画や漫画などで、フランス人がラーメンを目にする機会が増えた、というのが挙げられる。若い世代のパリジャンやパリ郊外に住む者が、週末などに「ラーメンを一杯ひっかける」というのは、今ちょっとした「クラス(粋)」なのだ。

 ところで欧米圏、そしてフランスでも麺や汁を「すすりながら」音を立てて食す、というのは本当に大の御法度である。知人(日本人)は彼女(フランス人)に、「アナタのその食べ方だけは受け容れられない」とののしられ、実際、和食屋以外で音を立てようものなら間違いなく、「動物並みのマナーの持ち主」と言わんばかりの視線が突き刺さる。「これは日本の麺食い作法だ」と言っても彼らにとっては生理的嫌悪に近いレベルなのだ。よって在仏歴の長い日本人はこの「嫌悪の目」が辛いために、麺をすする習慣を公共の場では完璧に捨てる。だからフランスの某大手新聞がグルメ欄で、「Zuruzuru(ズルズル)っとラーメン」というコラムを半ページ使って掲載した時には、本当に驚いた。これは大手マスコミが「ズルズル」を初めて公平に紹介した例ではないだろうか?

 しかし。日本のラーメンが恐ろしいスピードで進化し続けるのに比べ、パリのラーメンのレベルは嘆かわしいほど低い。日本食がある程度正しく伝達している中、最も日仏で「体温差」があるのはラーメンである(断言)。何よりも酷いのは「汁」だ。俗に言う「ウマチョウ(旨味調味料)」がダメな人が食べることのできるパリのラーメンは、皆無に近いと思われ、化学調味料の味にまみれている。汁以外にも問題は山積みだが前述の某大手新聞も、「日本人が絶対避けて通る」あるラーメン屋を「お薦めラーメン屋」として紹介しており、このラーメン屋にはフランス人が列を作る。文化が間違えて伝わることは回避できないが、こんな不味いラーメンを日本人が好んで食べている、と思われることは、「繊細」で通っている日本人の味覚への評価を下げるではないかと、本気で心配している。日本のやる気のあるラーメン屋が来仏・開店し、パリの目を覚ましてはくれないだろうか?

 

 また「日本人の板前がいない」寿司屋が9割、と言われるパリのスシ。日本のフレンチのシェフが殆ど日本人であるように、最終的に板前が日本人である必要は無いと思っているが、これが「衛生面」ということになると話は違う。フランスのテレビや新聞でも「日本人のいない寿司屋の衛生観念の低さ」は問題として取り上げられており、食中毒や保健所からの営業差し止めは後を絶たない。特に日本でも扱いに気を遣う「鮭」は、フランスで簡単に手に入るせいか寿司ネタに最もよく使われているが、いい加減な寿司屋の鮭だけは、旅行中の食中毒を避けたいのなら絶対に手を出さない方が良い。

 

 さてここまで書いて思ったことだが、日本ほど外国の料理の再現性、そして創造性の高い国は無いのではないだろうか?言葉も慣れない中、海外で修行を積み続ける日本のシェフ達に、改めて頭が下がるのである。